ケース1-4 静寂
青年の突然の発表は、さまざまな組織のリーダーだけを集めた会合で行われただけあってか、ものすごいスピードで広まっていった。
情報が広まると、ゲーム内は青年を探すために躍起になりつつあった。
ピリピリしてるプレイヤーが増え、PK事件も発生した。
だがあいにく漫画や小説のようにゲーム内で死んだら現実の自分も死ぬといったことはなかったが、ただひとつだけモニターの中の世界だったころと確実に変わったところがあった。
それは、『痛覚』である。
もちろんモニターの中だったころにはキーボード等で操作していたわけだから、当然痛覚なんてあるわけなかった。
それが現実の目線での世界になると、身体の感覚は当然として、痛みも感じるようになっていたのだ。
PKされても今までと同じように蘇生魔法、呪文、儀式等で蘇生させるか、一定時間経過後に教会で復活するかのどちらかでよみがえることはできるのだが、実際に死ぬような痛み(体験したことはないからわからんが)を味わってしまったせいで痛みのフラッシュバックを起こしてしまったり、極端に痛みを嫌うようになってしまったりと様々な精神的障害を起こしてしまう人が続出してしまって問題になっている。
基本的にこのゲームはPKは禁止されていない。
何故ならこのゲームのプレイヤーキャラクターは人間だけじゃないからだ。
最初にいったとおり、このゲームのプレイヤーは人間だけじゃなく、モンスターや、ハーフ系、人外の生物もほぼすべてがプレイヤーキャラなのだ。
だからこそPKを禁止するというのはプレイヤーの選択肢を大幅に減らしてしまうことになってしまうので、禁止されていないのだ。
こんな状況だといっそPK禁止にしてもらったほうがよかったと思っているプレイヤーも多いだろうが、こんなことはこのゲームだとしょっちゅうなのだ。
基本的にこのゲームは選択肢は多いが制約が限りなくない。
その少ない制約も運営キャラクターについてのものしかないありさまで、とことんプレイヤーに不干渉になっている。
今回ばかりはそれがあだになっているともいえる気がするが、先の白衣の青年の言ったことを目標にしろというなら、なおさら制約は不要だということなんだろう。
結局ホールに呼び出された俺たちはあの後すぐに解散した。
ディスは仕事の依頼が急に殺到した依頼を処理すべく、足早にどこかに向かっていった。
さて、特にやることがなくなってしまった。
そういえばさっきの話にいまいち納得がいかない。
そりゃいきなりあんなことを言われて納得してるやつなんてほぼいないだろうけど。
それにしたって、ダイブ技術の話だって矛盾がある。
その矛盾を晴らすには、あの白衣の青年をとっ捕まえるしかないんだろう。
この状況でそれ以外に特にやることが思いつかなかった。
だったら、この状況を打ち破るべく、白衣の青年を探そう。
どうせ現実世界に戻ったところで、俺の命はそうあるもんじゃないし。
だったら最後に、この世界に大きな跡を残してやろうじゃないか。
俺が白衣のやつを殺して、この世界を開放する。
今、俺は自分の冷めていた考え方をやめた。
ゲームの中まで自分の欲望をさらけ出すこともなく、ただ淡々とやってきた俺だが、モニターの中の世界じゃなくなったことと、はっきりとしたひとつの目標が決まったことで、自分の心の中の静寂が終わりを告げた。
俺はこの世界で自分の生きた証を残す。
現実では決して残すことはできないから・・・。
とりあえず一旦ケース1は一旦終わりです。
ガレスはこれから裏で活躍するような構想があるので、しばらくは別のキャラを主人公にした話を書こうと思います。