表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/35

殺し屋、会談

「それで……青葉は私にその話を信じろと言うのかしら?」



人払いして2人きりになった部屋の中、どっかりと椅子に座った母が暫く熟考した後、そう切り出した。


今は戦終わりなのでその前にある机には、竹簡が結構な量積もっている。


そのおかげで書類仕事の苦手な母は、若干機嫌が悪いようだ。


俺もそんな母の邪魔をしたくなかったのだが、あの降将(名をなんと張ガイと言う)がもたらした情報が、見過ごせないものだったのだからしかたない。


俺も裏をとってから書類仕事を麋竺に任せ、急いできたのだ。


そしてその内容とは……なんとあの黄巾達を手引きした黒幕がいると言うのだ。


そいつは名を昌覇と言い、頭巾と包帯で顔は隠れていたが、腕や首に随分ひどい火傷をおっていたらしい。


そんな特徴があるならすぐ見つけられるし、何よりこの昌覇という名。


演義では泰山の山賊である昌稀の別名でもある。


これはその名前がでた瞬間、僅かに動揺した狛達を問い詰めた結果、ちゃんと確認もとれた。


逃げてきた狛達を匿ってくれた恩人だそうだ。


火傷の痕もあるらしいから間違いないだろう。


ただ恩人と黒幕という両極端な存在だと分かった。


まぁ、それはそうとこの昌稀、あの曹操が5度攻撃しても下せなかったとされる人物なのだ。


守城に関しての能力なら、諸葛亮を防ぎきった赫昭に劣らないと思う。


ただこいつはかなりの曲者で、呂布と結んで曹操と戦い、敗れた後に臧覇らと共に下るも、曹操に対して10年以内に2度も反乱。


結局最期には旧友の于禁に攻められ降伏するも、受け入れられず斬首された。


だが、反乱の際に張遼、夏候淵、于禁、臧覇といった名将が派遣されているのをみれば、曹操も実力を認めていたのではないだろうか。


反乱の理由は定かではないが、我欲が強いのか、はたまたのせられやすい性格なのか。


でもまぁ、2度も反乱をおこして、2度とも降伏したのをみるに、恐らく前者なのだろう。


籠城の時に一番楽な落とし方は、内応者を作ることだからな。


後者だと複数の欲が絡み合う分、保身に走るものが多くなって続々と内応者がでてくる。


そんな中で籠城するなんて業に籠城した審配と同じ末路をたどってしまうだろう。


それに比べて昌稀は相当に人心掌握が得意なのだろうな。


反乱は恐いが今のうちにどうしても抱え込みたい人材である。


さて、回想はこれくらいにしてそろそろ母を説得しなくては……。


母の目をしっかり見つめてから、はいと返事して、説明を始める。



「夜襲の際に感じたのですが、黄巾共は烏合の衆としか言えませんでした。


話を聞くに、いままでまともに動けていたのは、今回降伏してきた張ガイ率いる5百弱のみ。


それでも軍の形を保っていたのは、何者かが策を授け、兵糧などを支援したからだと思われます。」


「その何者かが昌覇だと言うのね。


でも、それだけでは納得できないわよ?」



正論を言ってきた母の言葉に、もちろんですと頷きを返しつつ、そこで一息つく。


ここからは未だ竹簡にすら書かれていない新情報を披露する。


やはり、商人を情報収集に使うのは効率が良い。


あまりにも早く情報が集まって驚愕したのを思い出しながら口を開く。



「青州方面から来た商人に聞きました所、とある人物が、麦等を物価のあがらないよう様々な地域から余剰分だけ買いとっていたそうです。


そしてそれらは全て徐州に運ばれ、東海郡の各県にばら蒔かれました。


確か東海郡は今回の賊の蜂起での被害は軽微だった筈。


おかしいとは思いませんか?」


「確かにおかしいわね。


でも、それがどうやって昌覇と繋がるのかしら?」



俺の疑問に同意してくれ、さらに質問してくる思案顔の母。


本当に話が早くて助かる。


改めて俺の中での評価が上方修整された。


そしてそんな母に、ものを教えているこの状況に若干の優越感を覚えながら説明を続ける。



「それが繋がるのです。


実は母上が刺史として着任する以前に、東海郡の役所や他数件に広がる火事がありました。


その際、太守や数名の役人が死亡。


その代官として、民からの信用も篤く、火事の時にも危険を顧みず救助活動をしていた昌稀という郡丞がつきました。


かなり有能なようですが、火事でおった火傷が原因で度々体調をくずしており、役所にはあまり顔をださないとか……。」



これは麋竺からの情報だ。


正直、これを聞いた時はあまりのギャップに動揺を隠すので手一杯だったが、こうも考えられる。


東海郡を乗っ取るための計画……。


これなら今回の乱の手引きも納得できるからな。


まぁ、これはあくまで仮定で、本当に善人ってこともあるから話しはしない。


確認できたら報告することにする。


そこへ



「つまり青葉はその昌稀という人物が昌覇だと言うのね。


でも、民からの信用が篤いなら何故乱をおこしたのかしら?」



という疑問をなげかける母の声。


少しの間の後に、これはちょうど良いと、元の目的を変える。



「はい、私もそれを疑問に思いました。


なので今回は、報告も兼ねてその確認に行く許可をいただきたく。


供には臧覇ら4人をと考えておりますのでそちらもお願いします。」


「あぁーなるほど、本当はそれが狙いだったのね。


いいわよ、連れていきなさい。


でもそうねぇ、なんでその4人なのかくらい教えてくれないかしら?」



何かあっさりと承諾された。

少し拍子抜けしながらも大事なことなので、隠すことなく質問に答える。



「はい、実を言うと臧覇らは泰山郡で役人相手に大立ち回りをしまして、追われる身でした。


そのため徐州に逃げてきたのですが、東海郡で昌稀に匿ってもらったそうです。


どうやらこの機にその恩を返そうと……本当に困りましたよ。」



本当は勧誘に役立てるために諭して連れていくようにしたのだが、多少の嘘も必要だ。


俺が渾身の困った演技をしていると、何故か微笑みをうかべた母が



「あんまり困ってなさそうだけど……まぁ、いいわ。


今回の功績に免じて罪は問わない。


それに落ち着き次第、役職を与えるつもりだから、私は知らない体でいきましょう。


昌稀も徐州の役にたつようなら気にしないわ。


今回なんてわざわざ賊をかき集めてくれたようだし、それだけで不問にしてもいいくらいよ。」



と大岡裁きばりの決断と、結構な皮肉をとばした。


これには俺も、笑みをおさえられず



「多大な恩赦、ありがとうございます。


それでは早速出立しますので、失礼します。」



照れ隠しに早口でそう言った後、頭を下げて返事を待たず出ていった。


家族間でなら多少の無礼は許されるだろう。


それに背後から



「青葉が私に向ける笑顔っていつぶりかしら?」



という隠そうともしてない呟きが聞こえてきたので、例え駄目だとしてもここから逃げる。


前世では喧嘩ばかりの両親に育てられたので、転生してからも親に対して、尊敬こそすれ、信頼はしてなかったのだ。


それが赤ちゃんを除く子供の頃からの通算で、4度目ともなると、悔しさとか苛立ちより恥ずかしさが前にでてしまう。


少年に分類される頃から意識してしていて、最近では自然とすら思っていたのでなおさらだ。


見つからないよう道を選びながら、顔が赤いのを必死で隠しながら先を急ぐ。


本当にどうしてしまったのか……。


暫く考えたが答えが出る前に面倒臭くなって、なんとなく俺は走り出した。

ここをこうすればもっと良くなるとか、ここが駄目だとか、そう言う意見のある方は感想お願いします。


もちろん無い人でも歓迎です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ