殺し屋、確信
半年近く遅れてすみませんm(_ _)m
新生活にも慣れてきたので、ゆっくりとですが完結に向けて進んでいきたいと思います。
簫建が帰還したという衝撃の連絡が入ったのは曹嵩が殺されたとの報告があった一週間後だった。
その頃には曹操をはじめ、袁術と袁紹の動きも怪しいという報告があったので、袁術から広陵郡にいる叔父を助けたいと志願した陳登に預けた三千の兵と一緒に真巳を南方に、ご主人様を信じて待つと五月蝿い劉備と護衛の張飛、劉備を宥める簡雍を孔融と公孫賛のいる北方に派遣した後に事情を聞くことになった。
そもそも曹嵩が襲撃された時点でその傍らにいたであろう簫建は亡くなったものと考えていたので、現場の人間から情報を貰えるのはありがたい。
同じ現場の人間である御遣いどもは逃走し、狛達警戒任務にあたっていたものは御遣いを捜しつつ、曹操に備えるよう連絡しているので、曹嵩殺しの犯人探しをするにしても情報不足だったのだ。
そんなわけで、諸々の指示を終えて簫建に会いに行くと旅の汚れを落としたのであろう、部屋で風呂上りの上気した肌のまま髪を拭いている姿に出くわした。
ちなみに黒い下着姿でその扇情的な肢体を惜しげも無くさらした状態である。
その格好のまま俺の入室に気がつくと
「おぉ、旦那か。
来るのが遅くなりそうだから先に風呂に入ったけど、もう少し待っていればよかったね」
そんなことを言いながらとさりと床に腰を下ろした。
まぁ、相手が気にしないならこっちも気にしなくて良いのだが、さすがに目のやり場に困るので、床に置いていたシャツを投げわたしてから目の前に座る。
「いや、風呂上りでも別に支障はないから良い。
さっそくで悪いが話を聞かせてくれるか。
お前が無事な理由と襲撃の犯人の目星を知りたい」
「支障がないとは心外ね。
それに私が生き残っていることが不思議……いや、普通に考えれば私が曹嵩とナニをしていたと思うか。
それならまず私が無事な理由から話しましょう。
御遣いに呼び出されていたからよ。
私を頼れ、と旦那に指示されてたらしいからね」
そう言われ、確かにそんなことも言っていたと思い出す。
だが、あの男が素直に一般人に戻るという選択肢を選ぶとは思えない。
あの時言っていた自分はただの学生だったという言葉。
その学生が美女に囲まれ、ちやほやされ、神輿としてかつがれるなんて出来事を経験してそれを捨てきることなど到底できないことだろう。
さらには洗脳を疑うレベルで俺を敵視して啖呵を切っていたのだ。
素直に俺の言い分を飲むとは思えないのだが。
「あの子は私に兗州での隠れ家を紹介してほしいと言ってきたんだが、どうも様子がおかしいから素直に答えず探りを入れてみたんだよ。
私も旦那に付き合うのはこりごりだから仲間にしてくれないか?って感じのね」
「酷い言い草だな。
これは私の天職だって言ってたくせに」
「ははっ、嘘も方便っていうだろ?
この仕事はもちろん天職さ。
まぁ、それはそれでだな。
関羽も一緒にいたから色仕掛けは出来なかったんだが、人が良いのか、旦那は嫌われて当然と思っているのか、ペラペラと話してくれてね。
結論を言うと、なんとあいつら、混乱に乗じて兗州を奪うつもりらしい」
「ほぉ、復讐は駄目だとかほざきながらそんなことをな。
それで?裏で知識を与えた人間は誰だ?」
御遣い一人でそんなことを考えられるとは思えない。
史実なら孔明や龐統あたりが言いそうなことだが、御遣い同様、あのガキ共にこんな外道な考えをできるとは思えない。
いや、見た目に騙されて考えを狭めるのは危険か。
まぁ、何はともあれ簫建の話を聞けばいい。
そう思って顔をみるもその表情は浮かない。
「それが関羽に勘繰られて聞き出せなかったんだ。
お前は間者だろうってね。
まぁ、ちょうど良くおじ様に背中を鞭で打たれた後だったからそれを旦那のせいにして事無きをえたんだが、肝心の情報は得られなかったよ。
御遣いも流石に警戒しちゃったからね。
でもまぁ、予想はできるさ」
そこで簫建はもったいぶるように黙り込み、放り投げたシャツを着はじめる。
早く続きを言って欲しいが、わざとらしくゆっくり着ている所を見ると、こちらの予想、もしくは対価を求めているのだろう。
対価はどうせ後から払うことになるし、まぁ、予想を話せばいいか。
考えられるのは軍師と呼べる知謀を持つ女達。
陳登、それに系統は違うが頭の回る麋竺なんかは徐州に被害が及びそうなことをするはずがないから除外して、あとは諸葛亮、龐統、陳宮。
改めて考えてみれば侍女をやるなんて言ってはいたが、賈詡は外せないだろう。
この中でここまで見事な策を作り上げるとすれば普段の言動なんかからして頭の足りない陳宮を除く三人にしぼることができる。
そしてやはり主の顔に泥を塗るような真似をできるのは一人しかいない。
「賈「昌稀」
全く予想外の答えに頭が真っ白になり、気づいた時には目の前の女の首を絞めていた。
簫建はそれでも艶然と笑っているが、流石に顔色は徐々に悪くなっていく。
そして顔色が白くなり始め、目があらぬ方向を向いた所でなんとか手をはなした。
反射的に動いてしまったが、こびりついたように首から離れない手を開くのには苦労した。
理性が残っていたから良かったものの、もう少しで大事な配下を殺すところだ。
が、冗談にしては悪質すぎる。
呼吸を整えようと咳き込み、大きく深呼吸する簫建を見下ろし、話すのを待つ。
が、簫建は最後に大きく咳をして今までと違う少女のような笑みを浮かべると、突然ケラケラと笑い出した。
事態が飲み込めず変なものを見る気分で見下ろし続けていると、笑いすぎて目に溜まった涙を拭い、大きく息をついて話す。
「真巳さんに言われてたんだよ。
旦那が送り出したとは言え、万が一私が疑われているようなら手紙で教えてくれってね。
でも、この反応を見る限りじゃ大丈夫だね。
まぁ、もう少しで手紙も書けない身体になるとは思わなかったけど。
あっそうそう、私の予想は旦那と同じで賈詡だから安心していいよ」
あっけにとられたというのが、現状一番あってる言葉だろう。
真巳を疑うなど考えたこともなかったが、確かに能力はあり、前科もある。
今の状態なら無関係を装って呉から謀略を駆使することも可能だ。
考えてみれば疑う要素はいくつもある。
が、一度たりとも名前が浮かばなかったのはそれだけ信頼し、大事な存在になっていたからだろう。
まぁ、仮に犯人が真巳で、俺が死ぬことになってもそれはそれで満足できる死に方だと思えた。
思わず頬を緩んでいることを自覚した時、微笑ましいものを見るかのような簫建の顔が視界に入り仏頂面に戻す。
「ふふ、お熱いことでなによりだ。
それで?犯人の目星はついたわけだが、どうする?」
「賈詡の弱みと言えば董卓だが?」
「あぁ、あの子は服装を変えてあそこにいたよ。
頭巾を被っていたから一瞬分からなかったが、御遣いは馬鹿だたから真名で呼んでてね」
「その馬鹿のおかげで情報が入るのは良いとして、人質は難しいか。
恋と陳宮が乗っ取りを防いでくれれば問題はないんだが」
「あの子達は素直だから難しいでしょうね。
でもまぁ、大丈夫だと思うわよ」
予想の段階で次々と手を潰され、苦い顔をする俺に簫建は余裕の笑みでそう告げる。
他に何か手があるのだろうか?
皆目検討がつかない。
「わからない?趙雲よ」
そして告げられた名前を聞いてもその余裕とは繋がらなかった。
むしろ敵になる可能性の方が高い。
なにせ御遣いの安全を盾に無理矢理犯したのだ。
恨まれることはあれど、協力してくれる要素は一つもない。
だというのに簫建はその余裕を崩さず説明する。
「あの女は飄々としてるが、義に厚い。
そんな女が主のために身をさしだし、不義を働いたんだ。
そりゃあもう凄まじい葛藤があったんだろう。
何より旦那との交わりはこの上なく気持ちいい。
それでも、だ。
身体を許そうとも心だけは開かないようにと決意して、主のためだから仕方なくと股を広げてたわけだ」
簫建はまるで趙雲そのものになったかのように、その内面を語る。
確かに趙雲は真名で呼ぶな、キスをするな、と最後の線引きをしていた。
そのことを簫建に話してはいないので完全な想像なのだろう。
想像でそこまで真実に近い結論を出すのだから、その観察力は信用に値する。
「そんな時に俺の仲間として反乱を起こしてくれ、なんて言われたらどう思う?
今までの献身はすべて無駄。
裏切りに裏切りを重ねるなんてことをあの子にできると思うかい?」
そこまで言われて理解する。
確かに趙雲が裏切ることはまずないだろう。
だが、それだけだ。
「確かにな。
だが、趙雲が裏切らないことと、御遣いの反乱を阻止することは一致しないだろ?
手出ししないだけでこっちに情報を寄こさないかもしれない」
「それはそうだ。
だが、性格を考えれば主の説得にあたると思うね。
そうすれば時間稼ぎにはなる。
そのうちに御遣いを捕まえてしまえば良いし、他の面倒な戦いも準備を進められる。
隠れ家の場所は狛達にバラして逃げてきたんだ。
私の逃走に気づいてそこから逃げられたとしても、今後、心の休まる場所はないだろうさ」
「そうか。
なら一段落つきそうだな」
問題は恋を動かさず曹操に対することか。
恋というか兗州に遊軍がいれば兵糧を襲うだけで動きを鈍らせ、その時間だけこっちも準備が出来るんたが、御遣いの乗っ取りを
警戒するなら大軍を動かすのは難しい。
少数精鋭で行くのは数回ならいいが、撤退するまでの戦果を挙げるとなると損耗が激しくなるから、今の敵だらけの状態ではやりたくない。
だが、迎え撃つとなると地力の差で負ける可能性が高い。
なんと言っても谷間で奇襲したにも関わらず撃退されたんだからな。
勝てる要素は数くらいだが、分散する必要があるから二倍の兵力で迎え撃つことも難しい。
どん詰まりにしか思えない。
シミュレーションするたび絶望を感じ頭を抱えていると突然、背中を柔らかで暖かい感触が包む。
いつの間にか正面から移動していた簫建だ。
「そんな難しい顔して一人で考えてもしかたないよ。
私は情報以外は専門外だけど相談くらいにはのるさ。
ただ、今はそれよりも、ね」
「人が悩んでる時におねだりか?」
「逃げる間、男日照りで大変だったんだよ。
それに考えが煮詰まった時には気持ちいいことして、頭空っぽにするのが一番さ」
「ふっ、それもそうか」
簫建のおかげで考えるのも馬鹿らしくなった。
言った通り頭空っぽにするのも悪くはない。
「ああ、そうだ。
今日は首閉めながらやってくれないか?
どうもあの意識が薄れる感覚が気持ち良かったんだ」
「変態が」
「知ってるよ、変態さん」
対価を払うため一肌脱ぐと、リクエストに答えながら爛れた夜を過ごすのであった。




