表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/35

殺し屋、承諾

真巳の妊娠報告から一週間後、曹嵩が徐州から移動するため母に挨拶に来た。


ただの引っ越しに何を、と思うかもしれないが、この時代の引っ越しは一族を引き連れての数十から百を超えることもある規模の大移動だ。


実際、曹嵩は一族郎党百名以上を連れてきている。


この規模の移動なら当然、統治する側もそれなりに配慮する必要性がある。


ましてや曹嵩は元太尉ということでそれなりの大物だ。


本人は曹操に会うためすぐにでもここを出来したかっただろうが、縁を結ぶためにも屋敷に招いて宴会を執り行い、日を改めて出て行ってもらうことになった。


まぁ、そんな面倒なことは復調してきた母に任せて、こちらもは警護部隊の編成の確認をする。


母体となるのは常日頃から街の警備にあたる熊が率いる警備隊の半数、五十人と狛が率いる騎兵隊の中でも偵察を主任務とする百人、猿が率いる山岳兵の一部、百人の計二百五十人だ。


最終的にはここに御遣い軍も加えなくてはならないから、三百は超えるだろう。


御遣い軍については一応まだ、返事待ちの状況だが、断ることはないだろうし、断る選択肢を与えたつもりもない。


あちらからの返事を待つつもりだったが、編成指示を出してしまえば暇になるので、こちらから行くことにした。


黙って待ってたら与えてあった猶予も忘れて、乳繰り合うのが御遣いだからな。


手早く指示書類の作成を終わらせて部下に任せると、御遣いのもとへ急ぐ。


最近、陳羣という文官としての能力が三国志中最高峰の人間を引き入れたせいか、孔明を除くあのポンコツ共は、昼間からいちゃついていることが多い。


いちゃつかれる前に到着しないと陳羣の負担がふえるからな。


賈詡と龐統を兗州に引き抜いたしわ寄せが、こうまで陳羣一人に集まるとは考えてなかった。


史実でも劉備をさっさと見限った後、曹魏の重臣にまで上り詰める人物だ。


あの馬鹿どものせいで逃げられるのはいただけない。


ひとまず夕と姉の麋竺に陳羣の手伝いをさせようと心に決めつつ足早に向かう。


そして御遣いの部屋の前につくと、幸いにも喘ぎ声のたぐいは聞こえてこなかった。


それに安堵しつつ一声かけて部屋に入れば、そこには待ち構えていたかのようにこちらを見すえる御遣いと孔明、関羽の三人がいた。


この様子を見るに曹嵩についての約束は忘れていなかったようだ。


御遣い軍の中でも比較的頭の良いこの二人を集めて相談でもしたんだろう。


簡雍がいないのは俺と仲良くしていたからだろうか。


いつも通りに俺を悪者扱いする気満々といった感じが伝わってくる。


「いらないものがいる気もするが、返事を聞こうか」


ここまで露骨に準備されたので、こちらも悪者らしく問いかけ、口火を切った。


すると、孔明がその小さな体で、御遣いを隠すように前にでてきた。


「ご主人様から相談していただきました。


結論から言いますと、ご主人様一人で護衛隊を率いるのは危険なので、そちらの言い分をのむことはできません。


ですが、こちらの関雲長殿を護衛兼副官としてつけていただけるのであれば喜んで引き受けましょう」


「相談……ね。


御遣いサマはそれでいいんだな?」


孔明の返事に確証が持てず、睨むようにして再度御遣いに尋ねる。


これで目をそらしてくれれば、孔明が勝手に答えたってことで、無視できるんだが……


「あぁ、そうだ。


あんたの思い通りにいかなくて残念だったな」


こうまで自信満々に答えられると面倒なことになったと思わざるを得ない。

   

というか、こっちは打算と親切心で提案したことだったのにこの反応はなしだろう。


どう説得されればここまで俺のことを憎んだ目で見れるのか。


「思い通りも何も俺は事実を言ったまでなんだがな。


どんな洗脳をすればこうなるんだ」


「こちらも事実を言ったまでです。


ご主人様を誑かそうとしたのは貴殿では?」


そう言ったのは関羽だった。


凜とした態度でありながら、その内面は玩具を取り上げられそうな子供のように苛立っているのが伝わってくる。


結構嫉妬深い性格と簡雍から聞いていたが、なるほどと頷けた。


嫉妬心というより独占欲がかなり強いようだから、自分のお気に入りを手の届かない所にとられるのが嫌なのだろう。


つまり、俺は関羽に敵と認識されたわけだな。


気をつけて煽らないと武力を持ち出されたら一瞬で負けるから厄介だ。


「誑かしたとは人聞きの悪いことをいう。


こいつが使えないのは事実だ。


俺はお前らと違って学生ってもんを知っている。


戦争とは無縁、歴史は授業であらすじだけ覚えて終わりだ。


こいつは多少、本かなんかで知識を得ているようだが、うろ覚えもいいとこだろう。


そんな人間だぞ?


戦とは無縁の生活を送らせてやりたいって思わないか?


まぁ、お前らみたいにこいつを戦争の神輿にする、なんて鬼畜なことをやる連中には到底理解できないだろうな」


「うるさい、もう騙されないぞ。


朱里や愛沙、他のみんなも俺を必要としてくれている。


俺はそれだけで十分だってわかったんだ。


天の御遣いの話だって勅が下ったわけじゃない。


それに下ったとしてもみんな俺についてきてくれると約束してくれた」


御遣いをこちらに引き込めないか御遣いの仲間を装って、孔明達を悪者扱いしてみる。


が、本当に洗脳されたようで全然話を聞いてくれないようだ。


それに討伐命令が下ったとしても体良く神輿に使われていることを理解していない。


最悪、劉備達が御遣いを殺して逆賊を討ちました、と朝廷に大金を握らせれば英雄として祭りあげられることも可能なのではないだろうか。


まぁ、そこまでする外道ではないと信じたいがな。


とは言えこんな相手と話しているのも時間の無駄だ。


「まぁ、そんなことはどうでも良い。


関雲長、御遣いの副官としてついていくことを許可する。


しっかりと務めを果たせ」


相手の言い分をのみ、話を終わらせることにした。


実際、関羽がついたところで御遣いを守りきれるかどうかは微妙なところだ。


「ほう、随分と素直だな。


貴殿に言われずともご主人様に傷一つつけさせはせぬ」


「…………まぁ、精々頑張れ」


そして関羽の言葉を聞いて確信した。


こいつでは御遣いを守れない。


恋は盲目というが流石にこれは駄目だろう。


御遣いを守るということは曹嵩も生かして届けるということを分かっていない。


兵が金に目が眩んで曹嵩を殺害するなんてこともあり得なくはないのだ。


そうなると責任を取るのは御遣いになる。


徐州に大変なことを持ち込まないためにこいつは志願して、曹嵩の護衛につくことになった、ってことにしたんだからな。


狛達三人には偵察を主に行って貰うから裏切りによる任務失敗は関係ない。


つまり、暗殺などせず御遣いを消したいなら曹嵩を消せば事足りる。 


今まで歴史の知識のせいで曹嵩を消すことに抵抗を感じていたが、よく考えれば今の曹操はただの陳留太守。


兵力でも屯田兵を使って一万をなんとか養っている状況だと聞く。


それを動かして攻撃するとしても、徐州だけでも倍以上の兵力があるし、兗州には恋もいる。


奇襲で一気に殲滅でもされないかぎり負ける要素はない。


厄介なのは袁紹との同時攻撃だが、同盟というより従属に近い関係らしいし、そもそも袁紹は北に公孫賛がいるから協同で攻撃してくることもないだろう。


公孫賛を使うために御遣いなんかを呼び込んだんだから、働いてくれなければ困る。


曹操に豫州をとられて献帝まで確保されていたらまずかったが、そんな動きは今の所見られない。


まぁ、大義もないし、袁術が揚州あたりで勢力を拡大しているから下手につつくのは拙いと考えているのかもしれないな。


揚州自体もそろそろ孫策が独立に向けて動き始めてきな臭くなっている。


こちらも飛び火しないよう注意が必要か。


いっそのこと孫策と秘密裏に同盟でも結んでおくことも考えておこう。


孫堅との誼もあるし、袁術みたいな突拍子もない馬鹿よりは、荊州にいる劉表一筋の戦狂いの方が扱いやすい。


独立の支援をするっていう分かりやすい餌もあることだし、考えないてはないだろう。


使者は孔明を送り込んで悪巧みされても困るし、麋竺が適任か。


夕一人では陳羣の負担はあまり解消されないだろうが、もうしばらく頑張ってもらおう。


曹操の近いうちに再会するという台詞も気になるが現状ではどうしようもない。


勝手に死んでくれるよう願いつつ勝ち誇って出て行く御遣いの背中を見送った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ