殺し屋、苦悩
黄巾の乱の首魁、張3兄弟ならぬ張3姉妹が、病死や討ち死に……ではなく、曹操に捕まり殺されたという噂が流れて早4年。
何を思ったか突然青・徐州で蜂起した黄巾賊残党の鎮圧を命じられた我が母、陶謙は歴史通り徐州刺史に任命された。
そして着任するや否や豪族連中と話をつけると、三千の軍を整え、そのついでとばかりに北海の相、孔融へ使いを送る。
ざっくりと言えば仲良く賊を倒しましょう、そんな内容の使いである。
まぁ頼んどいてなんだが、俺は期待しないようにと母に言っていた。
返事に「当たり前よ。」との言葉をもらった時は驚いたが、今では流石と思っている。
だが、先ずこの孔融という人物について話しておこう。
簡単に言えば名声だけで中身の伴わない夢想家。
詳しく言えば孔子から数えて20代目の子孫だったり。
中常侍の恨みをかった兄の友人を匿ったり。
治めた北海では立派な法令はたててあったが、実際には守られることなく悪者が跳梁跋扈していたり。
等々結構な数の話が残されている建安七子という当時の詩の名人の一人である。
そして重要なのが軍才が皆無だということだ。
そしてその結果が
「孔北海は敗走し、10万の黄巾賊に包囲されました。
つきましては徐州が鎮まり次第援兵をお願いしたく。」
「承知しました。
ですが、こちらも寡兵なので賊の鎮圧には時間がかかります。
援兵はかなり厳しいかと。」
「そうですか……分かりました。
孔北海にはそのように伝えておきます。
それでは、失礼いたします。」
こんな会話の後、顔面蒼白な使者を見送ることになったのだった。
まぁ、これらの出来事がだいたい半月前のこと。
今現在は、一万から六千に数を減らした賊が城を囲んでいる状態だ。
城内には数十名の死傷者が出たものの数はほぼ変わらず三千の兵が詰めている。
なぜ敵の数が減ったのかと思うかもしれないが、簡単なことだ。
楽にとれそうな餌ができたから……これ以外の理由はないだろう。
まぁ、普通の鍵がついてる宝箱と壊れかけの鍵がついてる宝箱。
簡単に盗めるのはどちらか。
つまりはそう言うことだ。
母は恐らくここまで考えて孔融に使いをだしたのだろう。
学びたいものである。
さて、それはともかくなぜわざわざ籠城しているかを話そう。
こちらも理由は簡単、兵隊が急拵えだからだ。
酷いもので装備も疎ら、練兵だってまだまだ、さらには将が不足しているときた。
奇策でも用いない限り厳しいだろう。
なので、一先ず練度が低くても安全に戦える籠城を選んだのだ。
だが、籠城にも欠点がある。
兵糧と兵の士気である。
幸い、麦の刈り入れは少し前に済ませているので兵糧は大丈夫だが、士気を保つのは厳しいものだ。
古代中国では町などをそのまま城壁で囲んで城としている。
つまり城を落とされれば町が蹂躙されることになるのだ。
そんなプレッシャーに加え、日中におこる戦闘。
なまじっか初日に夜襲をかけて来たため、警戒し続けないといけない夜間の警備。
これらの影響で疲労はピークに達しつつある。
ここいらで盛り上げることができなければ、負け戦になってしまうだろう。
となるとあれをやってみるか。
次の軍議で献策しよう。
ー・∀・ー
午前中から始まった攻撃は日が傾き始めた頃に終わり、その少し後から軍議は始まった。
この場には母に俺、紅葉、麋姉妹、陳登、曹豹などその他数名がいる。
どうもこの軍には文官や知将はいるが、猛将などの類いがおらず、火力不足が否めない。
さらにかなり有能な陳登の親である陳珪がいるはずなのにいないのだ。
変わりと言えばいいのか、珪という老猫をいつも陳登が連れている。
性別だけでなく人以外に変わるとは正直思って居なかったが……まぁ、この世ではこんなこともあるのだろう。
一先ず、この件はおいておくとする。
さて実際問題、俺達兄妹では鍛えてはいるものの、なれて精々猛将の一段階下のレベルだろう。
呂布やら張飛なんかと一騎討ちになれば瞬殺はないにしても嬲り殺される自信はある。
だが、刺史の息子や娘が陣頭指揮することは本来ありえない。
なので武官の登用は急務である。
そしてその一応の候補はいる。
演義だと泰山の山賊として登場する臧覇達だ。
こいつらは呂布の同盟勢力で、曹操に負けたイメージが強いかも知れないが、なかなかに優秀である。
正史だとこの時期に臧覇は登用されているので、近い内に探し出すつもりだ。
でもまぁ、今回はなんとか乗りきれるだろう。
だからむしろ、今後の曹操が攻めて来て、劉備達が救援に来た時の飼い殺しにする方法を考えてみよう。
まず、徐州を譲り渡すというのは却下だ。
尊敬している母の後釜にあんなお人好しな野心家をおいておきたくない。
それに前世では聞いたこともない『天の御遣い』とかいう得体の知れない者がいると聞く。
なんでも流星と共に落ちてくる救世主様らしいが、実体がどのようなものか怪しいものだ。
というより流星なんかこの時代だと災いの前触れだとかで騒がれる類いのものだろう。
実際に三公のお偉いさんが辞めさせられたりもしているからな。
だがしかし、それでも人は希望にすがり付くもの。
黄巾の乱で活躍したからかどうかは知らないが、県令に就任した後、たちまち民衆に平原の相に祭り上げられてしまい、慌てて公孫讃が朝廷に執り成しをしていたと聞く。
同じように人望が集まって徐州を乗っ取られては目も当てられない。
早めに情報を集めて対策をこうじておかねばまずいだろう。
幸い、麋姉妹や陳登を通じての商人からの情報はなかなかに細かなものまで手に入るからな。
曹操の侵攻までには対策もたてられるというものだ。
など今現在に関係ないことをつらつらと考えつつ、死傷者数などの報告を聞き終える。
敵も弓などの数は少ないようで今回も被害は軽微なものらしい。
死者0というのは何時きいても嬉しいものである。
そう内心で思いつつも早速真剣な表情で一歩前に出て
「母上、少数精鋭による夜襲をかけたく思います。
どうか許可を。」
と、上座に座る母に願い出た。
これが今日の戦前に考えていたものである。
結構自信があったのだが、一瞬にして静まりかえる軍議場。
次第にざわめきが生まれ始めるが、そこに
「理由を聞こう。」
という鶴ではなく母の一声。
再び静まりかえる場に少し緊張しながら
「はい、度重なる戦闘による疲労に加え、援兵の望めない籠城戦に、兵の士気は下がる一方です。
幸い、敵の夜襲の際に敵を5名捕まえることができ、それら捕虜から見張りの居どころなどを大まかに聞き出せました。
相手はこちらが出てこないと油断している筈なので、一気に突破することも可能でしょう。」
と、きちんと説明する。
母は利があるならそれを無下にすることは無いのでなんとかなるだろう。
嫡男を戦場に出すのは避けようとするかもしれないが、俺としては妹が継いでも良いので気にしない。
と言うより死ぬつもりはない。
「予測が入っているのが少し気になりますが……まぁ、いいでしょう。
陶商、お前に夜襲の指揮を命じます。
直ちに兵の選出に取りかかりなさい。」
「ははっ!」
そして俺の心配などよそに、即決してくれる我が母。
やはりカッコいい。
「それでは失礼します。」
内心で母を絶賛しながらその場を辞す。
いや、しようとしたか。
「母さま、私も行きたいです。」
こんな幼い声が響いてきては、止まらざるを得ない。
「言葉、入ってきては駄目と言っているでしょう。」
と、母は呆れ声で
「私も行きます。
行かせて下さい。お願いします。」
と、紅葉は対抗心剥き出しで
「無理無理、絶対連れてかない。
無論紅葉、お前もだ。
こんな時代だから戦に出るなとは言わないが、今回のは別だ。」
と、あくまで冷静に発言。
しかし、それにやいのやいのと言葉が続き、親子喧嘩が勃発してしまう。
まぁ、何時ものことと割りきっている俺は、適当に返事しながら妹2人について考える。
どうも母が言葉を溺愛しすぎたために紅葉が対抗心を芽生えさせたようなのだ。
と言うのも、母は前に言ったように言葉を産んでから体調を崩した。
つまり仕事をサボる口実を作ったも同然。
産まれたばかりの言葉を愛でに愛でた。
そのせいで、母の仕事のためにと甘えるのを我慢していた幼い紅葉は、やっと巡ってきた甘えるタイミングを逃し、その心には嫉妬が芽生えたのである。
しかも質の悪いことに、努力家の紅葉に対して言葉は、やらないくせにできる人間だったのだ。
まぁ、このての人間は逆に言えば努力のできない人間であったりするのだが、努力家からすればそんなの関係なく恐怖の対象だ。
実際、年上というアドバンテージをぐんぐん縮めてくる言葉に、負けたくないと頑張りすぎた紅葉が寝込んだこともある。
なんとかしようと、紅葉についてそれとなく言葉に聞いたところ、尊敬できる姉で自分もあんな風になりたいと言っていた。
いじらしいものだが、その思いが紅葉を追い詰めているとは、皮肉なものである。
紅葉も割りきれれば良いのだが、対抗心を持っている分、難しいだろう。
本当にどうしたものか……。
やはり、とっとと賊を追っ払って父と男2人で酒呑みながら相談しますかね。
「それでは、準備があるので失礼します。」
そう言って、親子の罵声と無関係だが立場上立ち去れない者達の冷たい視線を背に受けながら立ち去る。
せめてもの償いに父をこの場に派遣しよう。
そう決心しながら俺は足早に兵舎へ向かった。
おい、知ってるか?
これ、『殺し屋、勧誘』ってサブタイで書こうとした結果なんだぜ。
…………_(._.)_はぁ
またまた武将名前だけです、はい。
ちなみにですが登場人物(セリフ有り)の年齢
・陶謙……45
・陶商……19
・陶応……15
・陶遂……13
となっています。
この時代、30代でさえ出産はかなりの危険度ですから母はだいぶ危険な橋を渡りました。
まぁ、自分で気づいてビックリしたんですがね。
それはさておき、今回ちょびっと原作にいちゃもんつけました。
どこか解るかな?
正解は……(ドラムロール♪)……流星の件です。
正解者は感想にどうぞご報告ください(笑)
なぜかと言いますとこの時代、「天人感応説」なんて思想があります。
災害が起きたりして、世が乱れれば、それは人界の統治者の不徳に対し、天が罰を与えるというようなもの。
つまり、災害・戦乱の発生の責任は、たとえ天災であっても、人界の統治者(皇帝)の責任であるってな感じです。
ただ皇帝をとっかえひっかえするわけにはいかないので、この場合三公などの役職の方々が辞めさせられたりします。
後漢ではこの思想のおかげでバンバン三公が変わっちゃいますんで調べると楽しいかも。
それはさておき、そんな時代の中、流星と共に救世主が来るとか言ってたら、今の皇帝は無能だから代わりを天が送りましたと言うも同然。
そんな人間を担ぐ人など漢朝に対して反乱をおこしてるようなものです。
主人公は漢の忠臣ってわけじゃないので流しましたが、本来なら討伐対象になっても文句言えないと思いました。
ついでにハムの人が地味にフォローしてます。
原作未プレイなもので、他作品から情報をえているのですが、たしか県令が逃げたから代わりをしてくれぇー的な話ありましたよね?
このサイトの修正は手間がかかるし、やったことないので直そうとは思ってないですが、どうしてもここが違うと指摘したいかたは感想にどうぞ。
それでは長々とお付き合いいただきありがとうございましたm(__)m
今後ともよろしくお願いします(^-^ゞ