表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/35

殺し屋、収集

御遣いから、仲間ともう少し相談するが、護衛することには概ね同意する、という色よい返事をもらった日から一週間が経ち、今日は曹嵩に関する報告も含めて簫建が帰ってくる。


ずいぶんと気に入られたらしく、最近は帰還すら難しかったそうだが、流石に財産も含めた大移動ともなれば余裕もなくなり、仕事をしようともしない邪魔者はひとまず帰されたらしい。


まぁ、曹嵩から搾るものはほとんど搾ったらしいから、そんなある意味不名誉なことはおいといて、褒美でもやろうと思っていたんだが…………



「よく帰ってき…………おいおい、その格好はどういうことだ?」


「ふふ、見ての通りさ。


あのおじ様、本当に良い趣味してるね」



簫建の姿を見て言葉を失った。


真巳に負けないくらい白い肌。


大きくハリのある胸から腰にかけてのくびれ、程良く肉ののった尻。


常に誘うように潤む瞳と挑発的に弧を描く唇から滲み出る色気は、送り出す前とほとんど変わりがない。


ただ、その美しい金の長髪だけは変わっていた。


前は閨に押し倒せばふわりと扇のように広がり、本人を彩ったであろうサラサラとしたその髪が、頭の横で二つに結ばれ、カールしていたのだ。


そしてこの髪型をしている女をつい最近俺は見た。


曹操だ。


ご丁寧に髑髏の髪飾りと、似たような服まで身につけて……完璧な仮装といえるだろう。


まぁ、ここまでスタイルの良い女がするとアンバランスな感じもするが、もしかすると、万が一、あの曹操が成長すればこんな感じになるかもしれない。


そう思える程度には完成度が高い。


が、それをする意味が分からない。


こいつは曹操の父親の曹嵩のところにいたはずだ。


なんでこんな格好をする必要が…………待てよ。


さっき良い趣味と言ってたよな。


つまり曹嵩が簫建にこの格好をさせたってことなのか?


…………やっぱり意味が分からない。



「おいおい、つまりはどういうことだ?


曹嵩がお前に曹操の格好をさせたってこと……なんだよな?」


「そこまで分かっていれば十分、わかるだろう?


私とする事と言えば、一つしかないよ」


「…………本気で言ってるのか?」



そして疑問を聞いてみれば想像を絶する答えが帰ってきた。


いや、想像できはしたが、想像したくなかったと言うべきか。


男の趣味に合わせて金やら精を搾り取る簫建が、曹操の格好をして曹嵩を楽しませていた。


つまり、曹嵩は実の娘に欲情する変態だってことだ。



「流石の私でも、こんな突拍子もない嘘はつかないさ。


旦那の想像通り、私はこの格好で、何度も何度も華琳と呼ばれながら犯されたよ。


縄で縛られたこともあったが、存外に興奮できたから良い経験だったけどね」



真名を知ってるってことは本当らしいな。


簫建も変態だが、曹嵩とはベクトルが違う。


人間として狂っていると言って良いだろう。


ガキの頃の親からの影響は子の成長に大きく影響を与える。


考えてみれば、確かに曹操にもその影響はあるようだ。



「もしかしなくても曹操が女好きってのは、父親が原因か」


「いや、元々女好きの気はあったらしい。


だが、拍車をかけたという意味ではそうだろうね。


都に出仕される前に寝込みを襲おうとして返り討ちにあったと、憎々しげに語っていたよ。


男に強姦されかけるなんて、男を嫌いになるのも当然と言えば当然だろう?


それが実の父ともなればね」



予想通りの答えといえばそうだが、何とも胸糞の悪い話だ。


自分の子供の一生を左右する行為をなぜ行えるのか。


前世でも曹嵩と似たような人はいたが、やってしまってからは自責の念に駆られる者もいた。


同じように反省しろとは思わないし、そもそも手を出そうとする時点で終わっているが、今回の曹嵩は話を聞くかぎり異常だ。


性欲を満たす以上の目的がありそうだな。



「あいつは確かに美人だが、躰は貧相な方だ。


お前に欲情する時点で、感性はまともだと思うんだが…………」


「ふふ、嬉しい事を言ってくれるね。


でも、おじ様は性欲というよりも征服欲のために私を抱いていたみたいだよ」


「どういうことだ?」


「そのままさ。


自分より優秀な娘を許すことができなかったんだよ」



簫建は男を虜にするために情報収集を欠かさない。


それは観察であったり、閨でのふとした会話、使用人など身近な人間からの聞き込みなど多岐にわたり、その美貌も相まってその精度も抜群だ。


その簫建が言うんだから間違いないんだろうが、想像しにくい話だな。


自分より優秀な娘ってのは喜びこそすれ、憎悪はしないだろう。


三国史の英雄が女性だから忘れがちだが、この世界でも女性は一般的にか弱い存在だ。


それでも女だから登用しない、なんていう隔たりはないわけだから、優秀であれば優秀であるほど、良い地位につけるし、金も手に入る。



「あいつは養子として曹謄に迎えられたが、才がないと見かぎられると、女をあてがわれて次代を作る道具のような扱いを受けたらしい。


まぁ、それも曹操が成長するまで、今度は孫に箔をつけるための飾りとして、金の力で仕官させられ、最後はお払い箱。


可哀想といえば可哀想な人生だったようだよ」


「それで親に復讐するんじゃなくて、娘に八つ当たりしたのか。


境遇は可哀想だが人として同情する余地はないな」


「そうかもしれないね。


まぁ、長くなったけどこれがこの格好をした理由だ。


次は本題に戻るとしようか」



よく分かった、と頷いてから続きをうながす。


曹嵩の性癖についてはこれ以上話す価値はないからな。


本題である曹嵩の帰郷ルートの報告をしてもらおう。



「娘に会うために早く帰りたいようでね。


琅邪から泰山へ突っ切る道を通るらしい。


山の麓に沿うかたちで通るから起伏は所々にあって、襲撃は楽だろうね」


「なるほど。


まぁ、約束したからには無事に送り届けるがな」



曹嵩は史実と同じルートを通って帰るらしい。


確か泰山郡の華県で殺されるんだったか。


まぁ、簫建の話からして、あまり利口な人間じゃあないみたいだし、世間一般の常識も持っていなさそうだからな。


大金を持って旅をするのがどれだけ危険か分かっていないのだろう。


護衛をする側の立場を知って欲しいものだ。



「そうなのか?


曹操が迎えに部下を寄越すと聞いたのだが」



と、思っていたのだが、どうやら曹操が先に手をまわしていたらしい。


約束したと思っていたのは俺だけだったのか。


結構ショックだ。



「俺が送ると言ったのに迎えを寄越すのか。


信頼されてないのかねぇ」


「まぁ、奇襲をかけてくる人間を信頼はできないだろうな。


曹嵩も曹操を襲撃した人間に怒りを感じているようだ」


「それもそうか。


しかし、その言い方だと、あの状況で曹操が襲われたのに、犯人が俺だと分かってないのか?


こっちとしては都合がいいが、どうなんだそれは」


「仕方ないさ。


その程度の人間だから現状になっているんだろう」



簫建の言葉に思わず鼻で笑いながら、違いない、と頷く。


曹謄に見限られたのも、恨む相手に護衛をさせるのも、言ってしまえば自分の能力不足だ。


人のせいにせず自分の事を磨けばどうにかなったかもしれないのにな。


つくづく残念な男である。



「あとはそうだね。


私の存在が曹操にバレているらしい」


「は?なぜ分かった」


「どうも曹操の弟の曹徳も食ったのが悪かったようだ。


父親の考えに同調していたから大丈夫だと思ったんだが、あいつは曹操の手下だったらしい。


今日なんてお土産を渡されたんだよ」



そんなことを言うと腰に吊るしていたらしい、布に包まれた筒状のものを取り出した。


長さは五十センチはあるか。


上が若干先細りの円柱のような形をしている。


簫建は布を無造作に取り払うとこちらに投げ渡す。


片手でなんとか受け取り改めて確認すれば、ぼんやりとだがその正体が分かった。


義手だ。


筒状の腕にあたる部分から固定するためのベルトが伸び、二股に分かれた先端で物を押さえるくらいならできそうだ。


ただ、腕の中程から伸びる短めの棒が分からない。


疑問に思って簫建を見れば分かったという代わりに頷き説明を始めた。



「配下にからくりを扱うのが得意な奴がいるらしくてな。


そこの棒を動かせばその手の代わりの二股の部分を開け閉めできるらしい。


物を掴んだら棒を横にずらすことで固定もできるそうだ。


さっそく着けてみるか?」


「あ、あぁ、頼む。


それにしてもなぜこんな物を俺にくれるんだ?」



そして当然の疑問を簫建に義手を着けて貰いながら尋ねる。


しかし、それは聞いていないのか、簫建は首を振り



「さぁな。


本人に直接聞くのが手っ取り早いだろう。


もうすぐ会いに行くとも言っていたしな。


ほら、できたぞ」



ポロッと重要そうなことを言う。


義手のフィット感のあまり、流してしまう所だった。



「会いに行くってどういうことだ。


曹嵩の迎えに自分が来るって言うのか?


殺したいほど憎い相手のはずだろう」


「もちろんそんなことはしないさ。


おおかた、意地になって護衛した旦那を出迎えるとか、そんなところだろう」


「いや、俺も護衛を派遣はするが、するとは一寸も考えてないぞ。


会える確証もないのにそんなことをあいつが言うとは思えないんだが」



何かあるのだろうか?


まぁ、どうなるにせよこの義手の礼はしないとな。


ここまでぴったりなのを作られると、こっちとしては逆に薄気味悪いが、感謝しない理由にはならない。


どうやって会いに来るかは知らないが、歓迎してやろうか。


まぁ、念の為、元黄巾賊の連中を使って情報収集を密にしておこう。


曹操が何かしらの手をうつ可能性もあるからな。


そうそう、曹嵩に黄巾といえば張闓だが、奴の監視もしたほうがいいのかな。


なんでも張三姉妹の誘拐は成功したが、陵辱されたことで姉妹は声を失ったらしい。


今は楽浪郡のあたりに移り住んでいるはずだが、この機会に簫建に対する逆恨みを決意して、簫建のいる曹嵩一行を襲撃。


曹嵩が死んで曹操が来る。


なんて展開もなくはないかもしれないからな。


フィクションによくある歴史の強制力みたいなことも現状では否定できない。


まぁ、公孫賛が死んでない内は曹操だけを相手にしていれば良い。


この恵まれた土地、徐州で虐殺なんかさせて力を殺ぐことは絶対にしてたまるか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ