殺し屋、提案
遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございますm(_ _)m
こんな拙作ですが、今年もよろしくお願いします。
真巳に歴史を教えた後、母の見舞いに行き、曹操との戦闘や兗州の統治についての話をしていると、部屋に孔明が入ってきた。
突然の訪問に驚いたが、母には事前に連絡があったらしく、動揺した様子もなく迎え入れる。
母の反応からして、未だに俺に関する話は聞いていないようだ。
ひとまず安心したが、今回の訪問がその話である可能性は高い。
普通なら遠慮してこちらが退出するところだが、その話を防ぐために話題を提供することにした。
「孔明殿、それから母上、話があるので、先に私から相談しても良いでしょうか?」
「ん?私は孔明殿が良いのなら別にかまわないが、大丈夫かな?」
「え、あ、はい、大丈夫です。
それでどんな内容なんでしょうか?」
「はい、兗州の統治にあたり、こちらの人材不足が否めないので、今現在兗州の統治にあたっている子龍殿と士元殿、それから文和殿をお借りしたいと思うのですが、どうでしょう?」
ひとまずこれで機先は制した。
ついでとはいえ、元々聞きたい内容だったし、演義の天才軍師様と相談できるならなんでも聞いた方が良いだろう。
少し驚いた表情をした孔明が、顎に手をあてしばらく悩む。
そして考えをまとめたのか、顔を上げると
「確かに龐統と趙雲には一つの州を切り盛りする力があるので、了承を得る必要はあると思いますが、現状のまま兗州にとどまってもらうことは可能です。
ただ、詠ちゃんは諦めてもらうことになるでしょう。
彼女も月ちゃんと侍女として働くことに楽しみを見いだしています。
今さら軍師としての仕事を押し付けるわけにはいきません」
董卓と同様に真名呼びして同僚ではなく友人として扱うことで、現在は軍師ではないと言っているのか。
「そうですか。
たしか孔明殿が文和殿を付き添い兼、軍師として扱うと言っていたと記憶しているのですが、それは?」
「それは彼女が侍女の仕事に抵抗感があると言っていたので、しかたなく。
彼女の意識が変われば問題はないでしょう」
「だからといってせっかくの人材を腐らせるのは良くない。
曹操との戦端が開かれた今、兗州をめぐる争いには袁紹が出張ってくる可能性もある。
武官と文官どちらも遊ばせるわけにはいかない」
「ですが本人の気持ちを無視しては……」
これはヤバい。
論戦でどうにかして、追い出すか、説得しようと思っていたのに、存外に早く終わりそうだ。
孔明のくせに経験がないからか、意外と反撃が弱い。
どうにか知らせることは出来ないだろうか。
「確かに、使える能力があるのに使わないのには色々理由があるのでしょう。
だが、彼女は安全な場所を求めて軍の加護下にきたと言いました。
それならば、安全な場所の確保のために協力することを拒否したりしないでしょう。
いっそ今から確認しにいきますか?」
「…………いいでしょう。
ただ、今からというのは無理ですね」
「そうだぞ、商。
元々、私と話すために孔明は来たのだ。
終わってからにしろ」
それじゃあ駄目なんだ、と直接言えればどれだけ楽か。
孔明が気づいてくれているのかも分からないのに、この場を離れたくは……………よし、遠まわしに伝えるのは面倒だ。
いっそのこと去る前に釘を刺すか。
「そうでしたね。
では、孔明殿は母と話しをしていてください。
私は今から直接文和殿に聞いてみるとします。
場所は…………おそらく御遣い殿の部屋ですかね?」
「はい、そうだと思います。
詠ちゃんはご主人様付きの侍女なので」
「そうですか。
では、行って参ります」
母に頭を下げてから退室するため扉の方にいた孔明に向かって歩く。
孔明は邪魔にならないよう道をあけて頭を下げてくれるが、素通りする気はない。
こちらも頭を下げながら
「御遣いと話をつけるから詮索はするな」
そう囁いて去っていく。
孔明は驚いたようにこちらを診るが、母に怪しまれたくはないので、さっさと部屋を出た。
まぁ、これで大丈夫だろう。
宣言通りに御遣いと話をしにいくとしよう。
朝から見舞いに来ていたから今は昼前か。
急がないと飯でも食べに外へ行ってしまう可能性もある。
御遣いのもとへ足早に向かっていると
「おう、旦那じゃねぇか。
そんな怖い顔してどこ行くんじゃ?」
通りの右手にある飲食店の方からそんな声がした。
声からあたりをつけつつそちらを向くと、案の定、オレンジ色の頭の女が、店先の長椅子に横たわって饅頭を食っている。
「簡憲和か、お前の主人に会いに行くところだ。
というか、お前こそ何をしている。
まだ休みには早いだろう。
仕事はどうした?」
そう、返事をしてから近づいて質問すると目を逸らされた。
簡雍の言う怖い顔を継続して見下ろしながら、これ見よがしにため息をつきつつ、皿に残る最後の饅頭をくすねて食べる。
皮が前世のよりもそっとしているが、中の具材はこっちの方が美味い。
甘辛く味付けされた豚挽肉と、シャキシャキとした食感の筍、さらに味も食感も違うメンマが所々にあるおかげで、何処を食べるかで味わいが変わり、一口一口を楽しめる。
個人的には塩味のきいたメンマが多めにある所が好きだな。
そうやって味の違いを発見しながら、じっくり味わっていると、ボソボソと言い訳をしていた簡雍がこちらを向き、次いで絶望した顔で自身の空の皿を見た。
どうやら盗ってはいけないものだったようだ。
ゆらりと幽鬼のように立ち上がった簡雍を見てそう思う。
だが、食ってしまったものはしょうがないとこの場は開き直ることにした。
「お、おい、旦那。
もしかしてじゃけどその饅頭、ウチのこの皿から盗ったとか言わんよな?」
「………………仕事をすっぽかした罰だ」
「うおぉいッ、そりゃあウチが悪いけど、ウチも悪いけど、その饅頭がすっぽかした理由じゃってなんで分からん!?
最後の楽しみにとっておいた限定五十個の特製肉饅!
それを奪うなんてあるか?」
が、血涙を流しそうな勢いの簡雍を見ると流石に同情する。
未練はあるが、手に持った残りわずかな肉饅を迷った末に、差し出した。
腕を振り上げたので叩き落とされるかと思ったが、プライドより食欲が勝ったようで、もぎ取るように取り返すとそのまま一口で口に放り込んだ。
勿体ないとは思うが、そんなに量があったわけじゃない。
涙を流し、噛み締めるように味わう簡雍を見ていると流石に罪悪感がわいてくる。
試しに、簡雍の心からの叫びを聞いて顔を出していた店主らしき男に、視線で問いかけてみれば、力無く首を横に振られた。
まぁ、そうだよな。
泣き喚けば手に入るようじゃあ限定にする意味が無い。
「悪かった。
今度俺が買って持っていってやるから泣くな」
「あぐっ…………それじゃあ駄目なんよ。
この場で出来たてを食わんと、冷めたら勿体ない」
「……つまり、また仕事をすっぽかすってことか?」
「当たり前じゃろう…………が?
え、あ、いや、違うんよ。
ちゃんと休みに来て買うけん」
「……まぁ、そういうことにしておこう。
それより、さっき言ったがこれから御遣いに話をつけに行く。
暇なら来ないか?」
そしてなんやかんやあって、肉饅の件に終止符を打つと、本題に戻すべく簡雍に問いかける。
俺があっさりとサボり発言をながしたことが意外だったのか、しばらくキョトンとしていたが、申し訳なさそうな顔をして
「あぁ、ウチもついて行くわ。
そんで話って例の件やろ?
やっぱり怒っとる?」
恐る恐るそう言った。
その問いに頷きを返し、ゆっくりと歩き出す。
簡雍も後ろでもたもたしていたが、小走りで横に並ぶと一緒に歩き始めた。
「ご主人サマが夢想家でごめんな。
もし、自分と同じ知識があるなら、使わないなんてあり得ないって聞かんくて、押し切られてしもうた」
「別にそこには怒っていないさ。
直接俺に聞きにくれば怒りはしなかった。
どっちみち協力はしないがな」
「あちゃー、嗅ぎまわるのがまずかったんか。
そう言えば旦那は、ご主人サマみたいに奇抜なことしてないもんな。
旦那の秘密をバラしてたようなもんだったんか」
「もうしてしまったことはしょうがない。
趙子龍に探りをいれられた時点である程度覚悟してたからな。
代わりといっては何だが、御遣いには願いをきいてもらうぞ?」
「あぁ、わかっとる。
旦那は無茶なお願いなんかせんけん、叶えるよう説得すればええんじゃろ?」
「察しが良くて助かる」
それにしても簡雍と話すのは楽で良い。
御遣いや劉備みたいに感性が子供じみてないし、話なれているからか、こちらの言いたいことを分かってくれている。
この締まりの無い顔も気が抜けて落ち着くしな。
?あぁ、そうだった。
「ちなみに願いの内容は、曹陳留の父、曹嵩の護衛と人材の貸し出しだ」
「おぉ、ついにウチらが土地を借りた恩を返せるわけじゃな。
大口たたいた以上、しっかりやり遂げるわ。
そんで?貸し出す人は誰なん?」
「趙子龍、龐士元、賈文和だ。
孔明には話したが、賈文和は説得しないといけないらしい」
「これまた貴重な人材ばっかりじゃな。
兗州は戦支度ってわけか。
あっと、文ちゃんの説得なら簡単じゃけんウチに任してええよ。
旦那はまた怒らせそうじゃから」
「……わかった、説得は任せる」
そして事前に相談内容を話せば、しっかりとその内容から狙いまで理解し、説得まで引き受けてくれた。
理由は少々癇に障るが、前科もあるため納得しておこう。
味方になってくれるようだし、今回の話し合いは簡単に終わりそうだ。
今年は色々あって更新は遅れ気味になると思います




