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殺し屋、決断

「久しぶりに顔を見せたと思ったら、なんだその様は。


私より先に腕をなくすとは思わなかったぞ」



右腕の肘から先をなくした俺を見て、真巳が最初に言ったのはこの優しさの欠片もない言葉だった。


これで顔だけでも心配そうにしてくれていたら笑ってながせるのだが、真巳の顔にうかぶのは嘲笑。


かなりショックだ。


まぁ、以前に裏切ったら四肢を切ると宣言していたのにこうなっては嘲笑いたくもなるか。



「可愛くないな。


大丈夫か?くらい聞いてもいいだろうに」


「そんなことは夕に期待しろ。


後で鬱陶しいくらいかまってくれるさ。


お前が戦にでてからそわそわしっぱなしだったんだぞ」


「それはそうだろうが、もう少し心配してくれてもいいだろうに。


……まぁ、いい。


今夜酒盛り……は晴の発育に悪いから……三人でどうだ?」



真巳の言葉に思わず納得した。


確かに夕なら瞳を潤ませながら心配してくれるに違いない。


それはそれで嬉しい。


が、やはり真巳からの反応が不満だ。


何だってこんなに冷たいのか。


試しに気をひくために夜の遊びに誘ってみる。


しかし、返ってきたのはジト目のみ。


わけがわからず首をかしげると、さらにため息を返された。



「私に何か言うことがあるだろう?」


「ん?あぁ、趙雲を抱いたことか?


人材確保とかお前達の負担軽減で、新しい女は歓迎されるとばかり思ってた」


「……そんなことをしてたのは知らないし、もちろん歓迎するが、違うだろう。


私に隠していることだ」


「んん?隠していること…………まぁ、無いとは言えないが、隠し事を教える馬鹿はいないだろう」


「ん、まぁ、それはそうだ。


だが、言ってもらうぞ。


お前は御遣いと同じような知識を持っているな?」



あぁ、そういうことか。


龐統や趙雲が探りをいれてくるんだから、御遣いが俺の周辺に聞き込みをしないわけがない。


そしてその質問を聞いた真巳は当然、今までの俺の言動や行動からその可能性が高いことを見出し、俺が知識を持っていた場合の有用性も分かっただろう。


そして今、念のための確認をしているというわけだ。



「御遣いにでも何か言われたか?」


「いや、諸葛孔明だ。


何か心当たりはありませんか?とな」


「それであったからさっきの質問ってわけだな。


…………認めよう。


俺の家族とか狛達には秘密だぞ」



一応確信があるのかを確認してから肯定する。


まぁ、バレたところで真巳にはどうしようもないからな。


むしろ御遣いを消す準備でも始める相談をしてしまうか。


俺が御遣いより知識があればあいつの利用価値はない。


というか、その質問を母にしてないだろうな。


まぁ、諸葛亮なら体調を崩していた母にまで質問するような思慮に欠ける行いをするとは思えないが、トップがあの二人だから心配だ。


後で会いに行って確かめよう。


それで、俺の返答を聞いた真巳だが、納得のいった顔をして頷くと、今度は首をこてん、と傾げた。



「何故私に教えなかった?


教えたら離れていくとでも思ったのか?」


「いや、まぁ、教えて信じてもらえるかも分からないことを教える必要性はないだろう。


そもそも性別が違うから歴史も変わるだろうしな」


「ほう、それは興味深いな。


男の私は何をして歴史に名を残した?」



その疑問に答えたところ、さらなる疑問がうまれたようで、興味津々といった顔で聞いてくる。


歴史の昌豨と真巳は別物だが、一応同一人物だ。


正直に答えていいか迷ったが、あれだけ悪党だの、裏切るだの決めつけていたんだから、真巳だって予想はついているだろう。


こっちが困ることでもないので大雑把に歴史の昌豨を教えることにした。



「予想はついてるだろう。


反乱だよ、反乱。


詳細は省くが、呂布に味方して曹操と戦って、呂布が戦死したから曹操に降伏したが、しばらくして劉備の反乱に便乗して反乱。


これは劉備があっさり負けたせいで、大軍に包囲されたんだろう。


守り勝っていたが降伏して、お咎め無しですんでいる。


それで最期、これは何故反乱したか知らないが、また反乱して同郷の知り合いを頼って降伏したが、斬首されて終わりだ」


「ふむ、なかなか面白い人生をおくったようだな。


そんな人間だと先入観があったとすれば、初対面の時の悪者扱いも納得がいく。


それでちなみにだが、私が頼って降伏した奴の名前は?」


「于禁、字は文則だ。


知り合いにいるか?」


「あぁ、あのそばかす眼鏡か。


私の着せ替え人形だったぞ。


身長が近くておとなしい性格だったから、寸法を測るついでに手製の服を着せて出来を確かめていた」


「…………晩節は残念なことになったが、かなりの名将だぞ。


いったい何させてるんだか。


いや、案外歴史でも内容は違うがそんな関係で、怨まれていたのか?」


「怨まれているのか?


楽しんでいたと思うのだが」



まぁ、思っていたより反応は淡白だったが、自分の末路がわかるのだ。


釘を刺すことにもなるだろう。


面白い人生と評価してるから効果のほどは期待できないがな。


それに于禁との関係も意外だ。


真巳が服と同じく少女趣味で、人形に自分で作った服を着せたりしていたのは知っていたが、まさかその人形の代わりに于禁を使っていたとは。


そういえばそばかす眼鏡の人形が、俺や夕を模して作られた人形の横にあった気がする。


見た目によらず無駄な才能があるもんだ。


まぁ、いい。



「それで、だ。


御遣い共は俺のことを探ってどうするつもりなんだろうな。


想像がつくか?」


「…………一番考えられるのが、協力の要請だろうな。


私に対する態度からして御遣いの知識は青葉と比べても劣っている可能性が高い。


相手は情報交換という名の情報収集をしたいだろうからな。


次点は何もしない。


今までの関係でも衝突は少なかったんだから、そのままの状態であることを選ぶ可能性だ。


それで最期だが、用済みと判断されたと判断した場合の逃走か、反乱だろう。


ただ、ここをでても寄って立つ場所が無いし、反乱を選ぶ性格でもなさそうだから優先順位は低いはずだ」


「なるほどな」



真巳の意見に相づちを打ちつつ、その可能性について吟味する。


次点の何もしないは無害だ。


まぁ、多少関係に変化が起こるかも知れないが、考える必要性はない。


最期の逃走と反乱も戦力的には痛いが、兵数とか練度の問題からして対応はできると思う。


関羽と張飛の武力は怖いが、今までの兵の動きからして練度は賊に毛が生えた程度だ。


金や食い物で集めた兵が大半なら勝ちようはいくらでもある。


問題は真巳の考えで、一番可能性が高い協力要請だ。


確かにあいつらの性格を考えれば協力の要請はあり得る話だ。


それ自体も考え方として間違ってはいない。


どうせ、持っている力を使わないのはおかしいとか、そんなことを思っていることだろう。


それは確かに正しい意見だし、俺も当事者でなければその意見に賛成する。


が、俺は当事者でこの世界で陶謙から生まれ落ちた人間だ。


流星とともにやってきたとか言うメルヘン野郎とは立場が違う。


母には息子として接したいから協力要請は即決で却下だが、立場的にもこの要請があれば母達にも情報が流れていくだろう。


そうなれば息子として接するという願いは到底叶わないものになってしまう。


というか現時点で母にこの手の質問をしていたら、終わりだ。


以前から薄々勘づいていた母だ。


真相に楽々たどり着いてしまっているだろう。


そうなれば母はどうなるだろう……。


驚くだろうか?怒るだろうか?悲しむだろうか?嘆くだろうか?


変わらないなんてことはないはずだ。


最悪、前世と同じように俺の首に手をかけて…………いや、考えすぎか。


あの理性的な母が、あの女と同じことをするわけがない。


いったん落ち着こう。


…………。


よし、とにかく、だ。


御遣いが何もしないなら良し、何か今以上の行動をしようとすれば消す。


これで俺の中の方針は決まった。



「真巳、これからの行動を考えるには、お前に歴史をある程度知っていてほしい。


御遣いが何かこれ以上の行動を起こした場合、バレないよう消す」


「ほう、まだ利用価値はあると思うが?」


「まぁ、無くはないだろうが、あいつが存在するだけで、歴史もだいぶ変わるみたいだからな。


不確定要素はないほうがいいだろう?」


「なるほどな。


それでは歴史を教えてくれ。


協力しよう」



真巳の協力も得られたし、まずは順調な滑り出しと言ったところか。


ちょうど都合の良いイベントがあるし、御遣いが最初に言っていた大変なことの処理を任せるとしよう。


俺のことを嗅ぎまわって邪魔をしなければもう少し爛れた生活を送れただろうに……かわいそうな奴だ。


策も思いついたし、それじゃあ母の見舞いにでも行くか。



主人公は前世の影響で普通の母親に憧れているという設定です。


だから若干マザコンっぽくて、思考の中心に母がいます。


普通の環境で育てば、人殺しなんかには滅多にならないという、考えからの後付け設定です。

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