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殺し屋、殺害

赤と黄、二つの軍勢が激しくぶつかりあい、互いを侵食しあっていた。


現状数で勝る黄の軍勢、黄巾党の方が優勢なようだ。


それもそのはずで赤の軍勢、劉岱軍は寡兵にも関わらず、押し止めるための戦をしているのだから仕方ない。


少ない兵を横陣で配置などしたら、後衛の弓や槍による援護の層が薄くなり、それはそのまま全体の圧力不足をもたらす。


それもこれも劉岱が挟撃に全ての望みを託した結果だ。


確かに狼煙とともに攻撃を開始しろと書いた書簡を渡したが、まさかちょっと細工をした炊事の煙りに反応して出撃するとは……騙したかいがあるというもの。


まぁ、普通に考えて奇襲部隊が敵の近くで、なんの対策もなしに飯を炊くなんて考えられないよな。


酷い茶番でもない限り有り得ない。



「おいおい、劉岱ってのは戦を知らないにもほどがあるだろ。


挟撃するなら外の部隊が先に戦って、隙を見て城から出撃するのが普通だぞ」


「まぁ、その通りだが、劉岱はその程度のことも知らないらしい。


俺が使者を送らなくても出撃しようとしてたって話だ。


挟撃の誘いは渡りに船ってやつだったんだろう」


「おおかた名門の誇りとやらで、賊を前に籠城なんて選択肢は無かったんだろうな。


……クソッ兵士が可愛そうだ」


「……自軍の兵が死ぬよりはマシだろ」


「ばーか。


これは皮肉じゃねぇっての。


自分の兵隊を減らさねぇようにするのが大事なことくらい分かってる」


「そうか」



そしてその茶番を実現させてくれたのが劉岱という馬鹿の存在だった。


史実でも数に勝る黄巾に突撃して戦死している人間だ。


この世界でも能力に違いはないのだろう。


美人なら助けたり、もう少し工夫する気もおこるが、おっさんって話だしな。


部下にも必要ない人材だ。


まぁ、後は黄巾から首を穫ったという鬨の声が聞こえればこれも終わる。


劉岱の部下に少しでも言い訳出来るよう南へ大きく周り、側面をつける位置へと進軍しておく。


俺の横が定位置になりつつある狛とともに指示を出しつつ目立たぬよう進軍する。


ちなみに今はあまり関係ないが、狛は昨日キレたことだけを綺麗に忘れていた。


後頭部を打ちつけたからだろうけど、随分と都合の良い記憶喪失だ。


従軍していた華陀の弟子に診察してもらった限りでは、異常なしとの判断なんだけどな。


まぁ、面倒じゃなくていい。


趙雲とのいざこざも説明が面倒だしな。


そうそう、キスをしないことと真名を呼ばないことが趙雲にとって最後の一線らしいから、その決意を崩すのが今から楽しみで仕方ないんだよ。


一度身体を許したら断りにくくなることを知らないから、経験のない一途な女ってのは良い。


まぁ、その趙雲は現在炊事している部隊に残して敵、味方の目を引き付けてもらっている。


これは御遣い軍の仕事だ。


残りの呂布軍は俺達の後方で僕陽を制圧するため待機している。


御遣い軍の連中に不満が溜まりそうだが、龐統は説明して納得させたし、張飛は理解すらしてない気がする。


趙雲は不満そうな顔をして反論してきたが、反抗心が出ただけなのか、俺を後ろから刺すためなのか判断はできなかった。


まぁ、これはちょっとしたお願いをすることで、諦めて貰えたので良かった。


今後は兗州を拠点にした、対曹操、袁紹戦に向けて、味方の増加が急務なので早く堕とす必要がある。


城の部屋が手に入れば恋と一緒に朝までヤるのも良いかもしれない。


まぁ、城を落とす前からそんなことを考えていてもしょうがないので、しばらく待つ。


すると劉岱軍の方がどんどん押し込まれ、遂には抗しきれなくなって敗走を始めてしまった。


これでは劉岱を殺しきれないので、急いで進軍。


鬨の声をあげることでこちらに注意を引き付け、同時に劉岱軍の足止めと救援に行くよう呂布軍へ伝令を出す。


すると呂布軍は騎馬隊だけを出撃させ、素早く城門へ向かうことで、退路を遮ってから反転。


二手に別れ、劉岱軍を脅すようにギリギリを駆け抜けることでその動きを止めつつ、黄巾の両翼を削り始めた。


それにより中央への圧力が減少し、劉岱軍も持ち直したようだ。


黄巾の犠牲は出来るだけ出したくないが仕方ない。


どうせ張三姉妹の誘拐が成功すればいなくなる存在だ。


関係ない第三勢力だとしても、力が有りすぎると面倒だから丁度良いだろう。


呂布軍が削った敵左翼に突撃し、劉岱軍へと向かうように圧力をかけていく。


呂布軍の騎馬隊も右翼へと回り込むようにして圧力をかけてくれたので、両翼から押された中央は否応なしに劉岱軍へと突っ込む。


劉岱軍も一応は持ち直していたが、体勢は崩れたままだ。


当然、押さえきれるわけもなく、ずるずると後退する。



「退がるな戦えッ!!


ええいッーー賊に背を向けるとは貴様らに誇りは無いのかッ!!


皆のもの続けぇーい」



そしてそれを押し止めようと大声をあげる騎乗した丸っこい中年男が、ふと視界に入った。


その姿と言い、発言の内容と言い、あれが劉岱だろう。


周りは下がっているのに一人剣を振りかざして突撃しようと叫んでいる。


そしてそこまで目立てば良い的だ。


まず、剣を持つ右手に矢が刺さり、馬上の身体が揺らぐと、腹や胸などに無数の矢が次々と刺さる。


無能にしては見上げた根性で、それでも何かを叫んでいたが、額に飛来した矢が突き刺さるとその衝撃で馬上から転落。


その姿は俺の視界から消え失せ、辺りは黄巾から湧く鬨の声で埋め尽くされた。


それを合図に俺の軍と呂布軍騎馬隊は即座に撤退。


黄巾を牽制出来る程度の位置に陣を構えると、黄巾が追撃しながら城内に入らないよう見張っておく。


そしてこれと同時に呂布軍の歩兵部隊も行動を開始。


敗走している劉岱軍にぴったり張り付いて城内に雪崩れ込むのだ。


こちらが一応の味方と言えど、包囲されている城内に入るタイミングはそうそうないからな。


殿として働いているから閉め出されることもないだろう。


そして、恋自身が殿にあたっているため、その圧倒的な武力で、大した被害もなく城内への侵入に成功する。


あとは俺達も入城して、今夜にでも黄巾が突如として姿を消せば作戦は終了だ。


お使い男が張三姉妹誘拐のため黄河を遡上しているから、黄巾共も黄河の岸辺へ集結させるよう伝令を出さないといけない。


ひとまずは敵右翼側にいる呂布軍騎馬隊へ、御遣い軍と合流してこちらへ来るように、と伝令を出す。


それと同時に、防御陣地作成の準備を開始。


ここに来るまでに伐採し、運んできていた木材で柵を作り、合流した二軍と共に警戒しながら運搬。


城壁を背にして半里(約200m)ほど離れた場所に壕を作り、その手前に柵を設置していく。


もちろん黄巾も大人しく見逃していれば不振がられると分かっているので、兵を小出しにしては、先の鬱憤をはらす御遣い軍に追い払われる小芝居をしてもらう。


そして一時(二時間)もすれば陣地も完成。


曹豹のおっさんに防衛を任せてから、城門わきの扉を開けてもらい中へと入る。


戦時体制ということで兵士が溢れかえる中、まずは恋のお出迎えを受けるが、和む間もなく険しい顔をした偉丈夫が進み出た。


周りの反応からするとこいつが劉岱亡き後の代表だろう。


短く纏めた黒髪に、濃い口髭、がっちりした体型にも関わらず、野卑な印象がないのは、その所作から深い教養を感じるからか。


第一印象としては悪くない。


男は目の前までくると拱手の礼をとり



「済北国相の鮑信と申します。


この度の陶徐州よりの援軍、感謝します」



と、挨拶をしたのち、こちらを真っ直ぐ見据えてきた。


鮑信といえば張バクと並んで初期の曹操を支えた人物として有名だ。


鮑信が曹操を兗州刺史として招かなければ、また、その身を犠牲にして曹操を守らなければ、あの躍進は無かったに違いない。


曹操にとって重要な人物であることはこの世界でも間違いないだろう。


こいつを部下にしたりすれば曹操と敵対するうえでも有利になるはずだ。


が、それにしてもこの視線は居心地が悪い。


器量を量られているような、内心を見透かすような、そんな感じだ。 


こちらもいちおう礼を返し



「東海郡太守の陶商だ。


劉兗州が戦死してしまったのは非常に残念であるが、必ずや仇討ちのためにも黄巾共を蹴散らしてみせよう」



と、仕方ないので建て前として心にもないことを言う。


瞬間、眉を顰める鮑信。


まぁ、あれだけあからさまなら、劉岱が死ぬように仕向けたのが、俺だと普通に分かるからな。


だが鮑信は、表情の変化をそれだけに留め、立ち話もなんだから、と奥へと誘う。


そして向き合って座ると、わざとらしい咳をして



「私たちは兗州刺史に曹陳留を迎えたいと考えております」


「ほう、仇討ちもせず、後任の話か。


いや、失礼。


しかし、何故曹陳留を?」


「……曹陳留はまさに当代きっての英傑でございます。


その行動は果断の一言につき、しかも間違いがない。


さらに各地から優れた人材を招き、その幕下には文武の秀才が山のようにおります。


この時代をあるべき姿に治めるのは、彼女しか考えつきません」



と、こちらからしたら論外な考えを述べ、こちらの嫌みに再び眉を顰めながらも、曹操のことを熱く語った。


どうもこの鮑信は曹操に惚れ込んでいるらしい。


このままじゃ兗州乗っ取りの邪魔になることは確実だ。


追い出すか……殺すかしないとな。


まぁ、どっちみち、相手から手を出してくるのが望ましいから適当に挑発するしかない。



「英傑ってのは認めるが、頭の中が女でいっぱいな色ぼけ女で、当然世継ぎもいないって話だよな。


国を治めるには致命的だろう。


乱世の奸雄と評されて大喜びしたと聞くし、野心家なのは間違いない。


漢の忠臣としてそのような者に大権を与えるわけにはいかないぞ」



情報収集と歴史知識で得た情報をもとに、適当な評価をつけ、最後に釘をさす。


これで漢の忠臣としてなら野心家に権力を渡すわけにはいかないだろう。


俺はもちろん忠臣なんかじゃないから、勝手に兗州刺史を名乗る予定だが、気にしないでくれるはずだ。



「曹陳留が野心家というのは否定しません。


が、帝の周りから甘言を弄するだけの無能を退けるには、実力を持つ者が必要なのです。


それに失礼ですが、女好きのことも貴殿が言えた義理ではありませぬ。


何故そこまで毛嫌いなさるので?」


「そう言われたら返す言葉もない。


が、敢えて嫌いな理由を言うとすれば似た者同士だからだと思う。


……いや、違うか。


自分より優れたものに対する、醜い嫉妬だな」


「さようですか。


私は、一目見た時からあの方には勝てないと理解してしまいましたので、嫉妬はないですな。


思わず跪きたくなるような、そんな気分になってしまったのです」



しかし、忠誠心を刺激して手を引かせる目論見は見事に外れた。


が、鮑信のこの興奮具合を見ると予想以上に挑発は簡単そうだ。


鮑信の語りを鼻で笑って止め、見下す。



「何か勘違いしているな。


お前みたいに挑みもせず膝を屈するわけがないだろう」


「は?」


「兗州刺史という餌に釣られてきた所を殲滅するんだよ。


さっさと印綬を渡してくれれば助かるが?」


「…………私が頷くとでも?」



そして曹操を害する発言をすれば、あっさりと乗ってくる。


惚れ込み具合が半端ではないようだ。


そのおかげで煽りやすいのだから、残念ではあるがありがたい。


それに鮑信を始末することに躊躇いもなくなった。



「思ってはいないさ。


お前の言う通り曹操って人間は天才なんだろう。


だが、だからこそ、力を蓄えさせてはいけないんだ。


姑息と言われようが俺は曹操に勝ち、奴を支配する」


「ハッ、貴様のような小人に支配できるわけがない。


どうせ内側から食い破られるだけだ」


「できるわけがない、かなうわけがない、否定するのは簡単でいいな。


逆に行動するのは意外と難しい。


それこそ、未来でも見えていないと怖くて動けないだろうよ」


「……何が言いたい」


「分かるだろう。


お前みたいに行動できないヘタレは、自分の思うままに生きることも出来ず、俺みたいな人間の踏み台にされて朽ち果てるのがお似合いだってことだ」


「貴様ッ!!」



そしてついに、鮑信が剣に手をかけた。


それを待ちに待っていた俺は素早く飛刀を投擲。


狙い違わず剣を持つ右手と両足の甲に突き刺さる。


右手を押さえしゃがみこむ鮑信は、呻きながらも何か文句を言いたそうだったが、すかさず蹴り倒し仰向けにして、首を踏みつける。



「脅すだけのつもりだったのかもしれないが、剣に手をかけたからには、死んでもらう。


怨むなら自分の見通しの甘さを怨め。


俺はお前を踏み台にして先に行く」


「ーーーーッ」



そして言いたいことを言った後、首を踏み抜いた。


肉が潰れ骨が砕ける不愉快な音とともに血液が跳ねる。


足が血まみれになったので、鮑信の服で血液を拭いながら、考えるのは今後のことだ。


当然のことだが、曹操は早いうちに倒さないといけない。


そのために簫建を曹嵩のもとに送り込んで、仕送りを滞らせ、勢力拡大の要地とも言える兗州をとったのだ。


現状なら兗州刺史を餌に、釣ることは可能なはず。


後は戦に勝つだけだ。


別に敵対しているわけじゃないので、黄巾でも頭につけて戦をしないといけないが、勝てなくはないだろう。


そして兗州を掌握すれば袁紹との戦いだ。 


これはまだ、公孫賛が生きていることだし、史実の曹操よりは楽な戦になる。


さらに楽するためには、背後を固める必要があるので、袁術か、その配下で将来的に大物になる孫策と同盟しないといけない。


そうして袁紹に勝てば、中華を半ば統一した状態だ。


赤壁のように惨敗することがなければ、そのままいけるだろう。


統一を果たしたとしても、別に帝にはなりたくないし、漢朝を存続させるのも悪くない。


まだ妄想の域を出ない話だが、曹操との戦いが、この成否を分けることになる。


でもまぁ、今考えないといけないのはこの遺体をどう始末するかだな。

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