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殺し屋、説得

感想に答え、早めに蓄え放出。


7日連続投稿の夢は潰えた(;´Д`)


月一更新頑張ります。

「そんな、あんまりです!


母様だって兄様がどれだけ後を継ぐために努力してきたか、ご存知でしょう」


「それに天の御遣いが急に徐州へ移動してくるのもおかしいです。


まさかとは思いますが、徐州を譲るために母様がよびよせたのですか?」



俺の思考が止まっている間に妹たちがヒートアップして母に詰め寄っていた。


言葉に至っては母を悪者扱いだ。


嬉しくはあるし、そこまで信頼してくれているのを確認できて満足感のようなものが湧いてくるが、ひどい言い草だ。


二人とも頭に血が上っているので冷静な物言いを期待するのは無理な話とはいえ、そんなことを言って母と二人の仲が冷え込んではいけない。



「二人ともひとまず出て行ってくれ。


母上と二人きりで話がしたい」



二人を追い出すため、開きかけていた口を閉じるように声をかける。


随分と震えた低い声だ。


聞きようによっては怒りを押し殺しているように聞こえただろう。


実際に妹たちは母と俺を見比べ動こうとしない。


別に怒ってないのだが、母に言われたことが余程ショックだったのだろう。


口元が不自然に震え、自分でもどうしようもないのだ。



「何も心配はいらない。親子の会話だ。


少しすれば呼びにいくから外で待っていろ」



そんな俺を見かねたのか、母が落ち着いた声で二人に指示する。


二人は尚も動こうとしなかったが、流石に母の眉間に深い皺ができた所で退散した。


そんなに心配するほど俺の顔は酷いのか。


思わず手で触って確認する。


震える口元は相変わらずだが、他は何も変わりない気がする。


まぁ、触るだけでは分からない部分もあるから意味ないよな。


案外動揺している自分に苦笑して母を見据える。


口元の震えはいつの間にか止まっていた。



「理由を聞かせていただけますか?」


「あぁ……と、言っても明確な理由はない。


敢えて言うとすれば私にはお前が危うく感じた。


お前の未来が予想できないんだ」


「……そんなことが理由ですか」



意を決して尋ねてみればふざけた答えが返ってくる。


戦略を見通す才を尊敬してはいたが、こんな考えを持っていたとは……。


ふつふつとどす黒い感情が湧き上がってくる。



「俺の未来もあんたの予想通りじゃなければ、気が済まないのか?


子供は親の思い通りになるとでも?


こんな親じゃあ……」



前世と一緒じゃないか。


ハッと我に帰って最後の言葉は飲み込んだ。


前世の記憶を持っているなんて異端もいいとこ。


隠し通すべきだろう。


それを勢いに任せて言おうとするなんて、どうも今の俺はおかしい。


さっきの言葉を聞くまで幸せな気分だったからなのかもしれないな。


いや、理由なんてどうでもいい。


母には考えを改めて貰わないといけないんだ。


気持ちを引き締め直す。


しかし、そんな俺とは正反対に母は驚いた顔をしたあと、笑みを浮かべた。



「やっと本心をお前自身の言葉で聞けた。


私に話すのとも紅葉達に話すのとも違うんだな。


強いて言えばお前が部下にかける言葉が近いか?


まぁ、とにかくお前の言葉が聞けて私は嬉しい」



普段あまり話さない母が急に饒舌になる。


俺を産んだ時のこと、あまり手間のかからない俺の世話に拍子抜けしたこと、紅葉や言葉が生まれて、やはり子育ては大変だと気づかされたこと。


俺が生まれてからの思い出を嬉々として話す。


あぁ、母もこういう顔をするんだなと思ったりしたが、母も俺の言葉でそんな感覚を覚えたに違いない。


親しい人の新しい一面を知ることができるのは案外嬉しいことなんだな。


今の母の顔を見ればそれを実感できる。


が、今は関係ない事だ。



「そんなことはいいです。


御遣いに徐州を譲ると言った本当の理由は何なんですか」



紅葉が生まれた時の俺の反応が父とそっくりで面白かったと笑顔で話す母を遮り、低い声で質問する。


母は残念そうな顔をしたが、俺の真剣さが伝わったのだろう。


その表情を消し去り普段の生真面目な顔に戻り



「天の御遣いは先の戦でも活躍し、領内の治安も素晴らしい。


反対に青葉、お前は犯罪者の罪を勝手に軽くして私兵として囲ったり、刺青を流行らせたり……実害はないものの風紀が乱れ、領民の不安を煽りすぎだ。


今さら改善は無理だろうが、これ以上の悪化は見逃せない」



と、事実に基づく正論を言ってきた。


確かに勝手をやりすぎたし、反論のしようはないが、それだけなら……と不満を顔に出した所で母の顔が変わる。


今まで見たことのない情けないというか、自信の感じられないというか、そんな顔だ。


そして



「すまない、今のは建て前だな」



と、頭を掻き謝って、なんと言えば良いのか私自身もよくわからないから思ったことを言う、と前置きをして話し始めた。 




「さっきみたいに癇に障ることがあるかもしれないが、最後まで聞いてくれ。


そうだな……まず、お前は私の息子だ。


腹を痛めて産んだんだから間違う筈がない。


だが、ふとお前がひどく大人に見えることがあった。


子供の頃、手間がかからないのもそうだし、私に対して他人行儀な所もそうだ。


紅葉や言葉に対する接し方も、兄と妹というより親と子のようだな。


どうも子供らしさがない。


私と同年代と言われても納得できるくらいだ。


おかしな話だよ。


自分の半分の歳しか生きてない息子なのにね」



そこまで、言って自嘲するように苦笑する。


俺としては正しい感性の母に賞賛する気持ちしか持てないところだ。


普通の人間には前世の記憶をもって転生なんて突飛な考えを思いつけるわけがない。


そもそも転生って考えも仏教の概念だから、この時期窄融が話しているのを耳にしたかもしれない程度だ。


そして母が真面目に宗教の話を聞く人間とは思えない。


だから、母は自分の知識で辿り着ける解答の最終段階までとどいてるってことだ。


後はその考えを疑わず信じればゴールと言っていいだろう。


まぁ、自分の息子が合計で四十年以上の経験や知識を持っているなんて信じられないだろうけどな。



「だけどお前を息子としてじゃなく一人の人間としてみたらな、おかしなことに気づいた。


お前は息子になろうと努力していたんだ。


生まれた時からお前は私の息子なのに……」



母は慈愛に満ちた表情で俺を見る。


それは本当に自分の息子に向ける表情だった。


得体の知れない感情が込み上げてきて目頭が熱くなる。



「私は息子になろうと無理をしてもらいたくない。


地位だけが私達親子の繋がりじゃないんだと伝えたかったのかもしれないな。


これも違う気はする……が、一番近いだろう」



良い母なのだろう。


それこそ前世の母とは比べものにならないくらい良い母だ。


やはり母に前世のことを話すのは忍びない。


俺はこの人の息子でいたいのだ。


違和感を覚えていたとしても陶商に前世の記憶があるとわざわざ教えて母を惑わす必要はないだろう。


母が死ぬまで正真正銘、陶商であり続ける。


これが唯一俺にできる親孝行に違いない。



「母上の考えは理解できました。


地位だけが親子の繋がりじゃないこともわかっています。


ですが、私には母上の守ってきたこの徐州を他人に委ねることは我慢できそうにないのです」



だからもう少しくらい我が儘を言っても構わないだろう?


苦笑する母をじっと見つめる。



「息子を躾るのも母だが、我が儘を聞いてやるのも母の務めだ。


ましてや初めての我が儘ならな。


分かった。


元々、お前でも問題ない話だからな。


私の後継ぎはお前で決まりだ。


天の御遣いの処置もお前に任せる」


「ありがとうございます」



頭を掻いた母は存外照れ臭そうにそう答え、悪かった顔色を幾分か回復させた。


甘えるとは言い難いことだが、親子の距離が縮まったのが嬉しいのだろう。


追加のサービスとして満面の笑みで感謝を伝える。


母は意表をつかれた顔をしたが、微笑みを浮かべて



「紅葉と言葉を呼んできてくれ。


ちゃんと家族の話が終わったことを教えてやらないと、不安がるだろうからな。


私でもあの顔の青葉には殺されるかもしれないと思っていたくらいだ」


「そんなに酷い顔でしたか?」


「仇討ちする人間が浮かべるような追い詰められた顔だった。


初陣も済ませていない子供には正確に感じとれないから良かったが、お前の嫁が見れば羽交い締めにしようとしただろうな」


「よくそれで二人きりになりましたね。


まぁ、信用されているんだと納得しておきます」


「あぁ、それでいい」



俺が冗談めかして言うと母は微笑んで頷く。


釣られるようにして顔が笑顔を作るのを感じながら


「わかりました。


それではいってきます」



一声かけて俺は部屋を出た。


隣室で聞き耳をたてていた二人を見つけるのは簡単だったが、まぁ、余談だろう。


歴史の強制力的なことを表現したかったのですが、上手くいかないですね。

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