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殺し屋、整理

未明、両腕に感じる重みに心地良さを覚えつつ、だいぶ早く起きてしまったので、二人を起こさないよう静かに考える。


案件は昨日届いた董卓軍の行方だ。


昨年、李儒と母が話していた通り今年……というよりは初平元年というべきだろう、歴史と同じく反董卓連合軍が結成された。


悪政を行い洛陽の民を苦しめる董卓を討つ、というのが大義名分で、事実無根な話のはずなのだが結構な勢力が集まったらしい。


有名どころをあげると、曹操・袁紹・袁術・公孫賛・孔融ぐらいだろうか。


ちなみに劉備軍ーー変な奴がついてるから違うのかもしれないがーーと孫策軍はそれぞれ公孫賛、袁術の部下として出陣したそうだ。


そしていよいよ戦が始まると泗水関で華雄が奮戦。


いっさい敵を寄せ付けない大活躍だったが、因縁のあるらしい孫策に挑発されて出撃したところを関羽に襲撃され、演義よろしく討ち取られた。


その際、後方錯乱に出かけた張遼が曹操軍と衝突。


何故か夏候惇と一騎打ちして負け、降伏するという理解不能な現象がおこったらしい。


歴史通りじゃないのは慣れたが、この展開はないだろう。


あの泣く子も黙る張遼が曹操軍を活躍させるためだけの噛ませ犬になるとか普通に考えられない。


もっと活躍して主人が死んだから仕方なく……って感じの方がまだ納得できる。


裏切りする張遼なんか好きになれない。


そもそもこの頃なら董卓じゃなく呂布の部下だよな。


歴史改変がいよいよ酷くなってきたのではないだろうか。


そろそろ歴史の知識が役立たなくなる日が近づいているのかもしれない。


まあ、そうなればそうなったで面白そうだから良いんだが、そんなことより董卓軍の話だ。


泗水関を抜いた連合軍はそのまま次の虎牢関に突き進み……十万ともいわれる董の旗のもと蹂躙された。


ただしこれは本物の董卓ではない。


本陣の将が牛のような巨漢だったと部下の報告にあったので、おそらく徐栄のおっさんだろう。


統率のとれた軍の愚直な前進のみで敵を押し潰す戦い方も変わってないようだ。


傍らに幽鬼みたいな男を見たとも言っていたから、李儒と2人であの董卓の代役をしたと思われる。


李儒が奇策を用いなかったのは徐栄のおっさんが好かないのはもちろん、する必要もない程度の相手だったからだろうな。


曹操、劉備、孫策らの強敵と思われる軍は少数で、支えきれないのは分かりきったことだろうし、それらを前衛に配して油断しきっている袁紹、袁術ら本陣も、数ばかりで質が良いとはいえない。


董卓軍の主力は涼州で日々異民族との奪い合いを行っていた連中で、精鋭といっても過言ではないんだから、そいつらを蹂躙するのなんかわけないはずだ。


しかし、そんな派手なパフォーマンスをやっていながら董卓軍は突如として姿を消し、残されたのは五千ほどの呂布軍だけ。


連合軍は敗戦の恨みをはらそうと、よってたかって虎牢関を攻めた。


だが、そこを守るのは三国志最強ともいわれる呂布軍だ。


虎牢関を背に小さく固まり城壁上から矢を降らし、崩れた箇所がうまれれば即座に騎馬隊で穴をあけ歩兵が雪崩れ込む。


それを何度も繰り返す。


ただそれだけで、敵の命と士気は消えていった。


やがて攻め寄せる軍はほとんどいなくなり、遠巻きに囲むだけになる。


そんななかで呂布はうってでることもなく、淡々と攻め寄せる敵を打ち払っては追撃もせず虎牢関に戻ることをつづけた。


そこでこの報告を持ってきた部下は呂布が時間稼ぎをしていることに気づき、その理由を探るべく董卓軍の本拠、洛陽に潜入することにしたそうだ。


俺が戦の様子を詳細に報告しろと命令したばかりにそれまで洛陽には人をやっていなかったのだから笑えない。


まあ、いいか。


それで慌てて洛陽に向かった部下はそこで厳重な警備に阻まれながらも何とか侵入し、驚きの光景を目の当たりにした。


荒くれ者ばかりであるはずの涼州兵が率先して住民の避難を手伝っているのだ。


驚いて当たり前だが、さらに驚くべきことにそれを指揮するのが、虫も殺せないようなほど可憐な少女だったということ。


ぶっちゃけるとそれが董卓本人なのだが、ほとんど公に姿を現さないこともあって、密偵の連中は董卓の姿を知らない。


仲間だから積極的に探らせなかったのもあるし、李儒配下の密偵は領内の防衛に関して凄腕だから刺激したくなかったというのもある。


まあ、あの董卓を今まで野放ししてたってのは今考えてみれば逆に危険だったな。


あいつらは少数精鋭を徹底しすぎたせいで、領の外となると手が回らないから、そこをつけばなんとかなったはずだ。


今回のようなデマが正当化されるくらい情報操作には向いてないみたいだしな。


反省すべきだろう。


まあ、それはそうと避難誘導の行われている最中にも虎牢関では戦闘を続けていた。


と言っても刺激さえしなければ呂布は動かないので、あえて自軍を損耗させる酔狂なやつはおらず、適当に矢合わせをしては退くというしょうもないものだ。


そんなやる気のない戦いに兵の士気は下がる一方、さらに輸送物質も母が影から煽動した賊がちょくちょく掠めとるので、連合軍は事実上の崩壊寸前まで追い込まれていた。


そこに颯爽と現れたのは孔融配下の猛将、鉄槌使いの巨漢、武安国。


このつまらない戦いに焦れていたのか、ただ一騎で敵陣の前まで行くと、あの呂布相手に一騎打ちを申し込んだ。


本来、時間稼ぎをするならこの手の人間は無視するのが当たり前だ。


が、これを無視してはせっかくの崩壊寸前の連合軍の士気が上がってしまう。


一人の馬鹿の無謀な行動が昇華して、英雄的行動になってしまうのだ。


そうなると呂布は出るしかない。


槍を手に対峙すると先に武安国が動いた。


重い鉄槌を振り上げ、全力で振り下ろす単純な動作で呂布を狙う。


そこには確かな破壊力があり、もし直撃すれば人体など軽くミンチにしてしまうだろう。


しかし、そんな強力な攻撃を呂布は片手に持つ槍で軽々と弾き返し、攻勢に転じた。


そこからは一方的で、十合足らずで片腕を斬り飛ばすと、止めを刺すべく休むことなく攻撃を続ける。


武安国はそれをなりふり構わずかわし、自慢の鉄槌を投げつけ、最後には背を向けて走りだすまでにいたった。


かなりダサいが死にたくないという思いは火事場の馬鹿力を生み出したのか、その巨体に見合わぬ速さを発揮して、追撃する呂布の虚をついたこともあり、かなりの距離を逃走することに成功する。


だが、片腕がなくなりバランスがとれなかったのか転倒。


ついに追いつかれ、止めの一撃というところで、味方本陣に近づいていたこともあり、公孫賛の陣から赤髪のちびっ子と黒髪美人、青髪美人が飛び出し、間一髪割り込んだ。


名乗りによるとそれぞれ張飛、関羽、趙雲らしい。


呂布は赤兎馬にも乗ってないし、劉備が趙雲にパワーアップしているから、演義の三義兄弟vs呂布のように互角の戦いは流石に無理かと思ったが、呂布は演義よろしく三人相手に善戦。


むしろ押し切るか、といったところで突如として連合軍が虎牢関への攻撃を開始した。


まあ、なんだかんだ言って一番の難敵呂布を釘付けにできているから正しい判断ではある。


呂布軍も善戦したが、相手は大軍。


呂布の人外な武力によってこそ拮抗していたが、衆寡敵せずが世の道理だ。


ぶつかり合った途端に飲み込まれたかのように見えた。


しかし次の瞬間、波を裂くように黒一色の騎馬隊が現れ、その裂け目を広げるように歩兵が突撃した。


今までの呂布軍の動きそのままのように見えたが、今回の目的はどうやら呂布の回収らしく、敵陣を突っ切り一騎打ちならぬ四騎打ちをしているところに乱入して回収すると反転。


すでに門が開いてしまった虎牢関に突撃して、そのまま突破するという剛毅なことをやってのけた。


報告によるとその進路に黒一色の騎兵の死体は存在しなかったというのだから驚きを通り越して、呆れてしまうほどだ。


そしてわかったことは兵の指揮を呂布は一切行わず、その副官かなにかが行っていたということ。


その副官は尋常じゃないくらい優秀ということ。


あの騎馬隊も尋常じゃないくらい優秀ということだ。


あの騎馬隊と副官を手に入れるだけで天下は大幅に近づくことになると思う。


だがしかしそんな優秀な戦力を持っていたくせに董卓は負けた。


最後の最後まで避難誘導していたために自身が逃げ遅れ、徐栄のおっさんと李儒が住民の護衛に回して半数を下回った軍で、勢いに乗って洛陽を攻撃しようとする連合軍に正面から突撃。


反対に勇ましい敗走をしてきた呂布軍は避難誘導していたか弱い少女とその付き添いの緑髪のこれまた少女を拉致するように回収して、北へ逃げた。


どうやら李儒がその指示をしていたようで、上手いこと敵を誘導して道を開けることに専念していたそうだ。


船も用意していたので当初からの計画であったのだろう。


自身が身代わりとして死んででも董卓を生かすという。


本当におしい男を亡くした。


戦いたくないだとか、人々が平和に生活できるようにだとかの甘い思想を持った餓鬼のせいでだ。


が、恨むことはすまい。


その友人の願いを反故にするわけにはいかない。


董卓が幸せに生きていくそれを達成するためだけにあいつらは死んでいったんだから……。


とにかくまあ、結果として悪人である董卓と李儒は殺され、天下は平和になったということになった。


ここ、徐州には戦を嫌った人々が大勢移動してきて、未開拓地の開墾作業に勤しんでいる。


同時に徐州の将来の火種、曹操の父、曹嵩が大金を積んで琅邪郡に移り住んできたので、さっそく情報収集もかねて牢屋組から、金髪ロングの性悪で詐欺師の美女、蕭建を送り込んだ。


さらにこいつは手癖も悪いため本来の刑罰なら手首の斬刑だったんだが、五割こっちの懐に入れれば後の金は好きにしていいし、罪にも問わないという条件でスパイになった。


男を誑し込むことに天性の才があるからこういう場面にはよくつかえる。


それに、性悪なので条件を破る可能性もあるが、五割という数値もこいつがちょろまかしても良いようにふっかけただけで、本当にくれれば御の字ってところだ。


逃げる可能性もあるが、ポリシーがあるのか相手の命まではとらないし、放置しても凶悪犯罪ってことにはならないだろう。


まあ、仕事中の態度は真面目だし、一時は真巳の部下をしていて妹分的な立場だうだから、心配する必要はないかもな。


とりあえず今後は経過観察するしかない。。


董卓という一大勢力のない天下、袁紹と公孫賛の戦い、青州黄巾党の蜂起、曹嵩のこれから、晴の成長、真巳の妊娠。


どれも俺の今後を占う大事なことだからな。


さてと、一応の結論は出たし、まだ早いからもう一寝入りするか。


それにしても腕枕は疲れるなぁ。








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