殺し屋、歓喜
あんまり時間は進んでいません。
話も進んでいません。
「相手もなかなか尻尾を見せないな、青葉。
闕宣は今までの盗賊行為をいっさい辞めて、部下と共に下邳の曹豹殿の下で働いていて、窄融も教えを説いて信者を増やしてはいるものの、そいつらが悪事をしたということもないらしい。
もしかしたら私のように改心したんじゃないのか?」
竹簡から顔を上げず徐州の最新情報を読みあげる真巳。
今回も期待はずれな情報で、上手くいかないことに
腹が立つが、仕方ないと無理やり納得して溜め息一つで我慢する。
そして普段通りの無表情で、最後に冗談を言ってきたので、鼻で笑い、
「それを言うなら私と違ってだろ?
まぁ、表面上だけでもおとなしくしていればそれで十分だ。
まだ一月だしな。
徐々に他の地域からの情報も入ってきていることだし、長い目で見るとしよう。
夕は仕事がかなり増えるが大丈夫か?」
すぐさま訂正。
次いで事務的な話をしたあと、なぜかこちらを見つめていた夕に確認する。
というのも、集まってくる情報を整理するのが夕の仕事になってしまっているからだ。
情報収集していることがバレるのも面倒だし、情報収集するやつらに文盲が多くてほとんど一任せざるを得ないのがその理由だ。
うっすらと隈もできているし、夜の相手もさせているのでかなり疲れがたまっているようだが、それに夕は首をふり
「お気遣いありがとうございます、青葉様。
身体だけは頑丈ですからまだまだ大丈夫です」
にこりと笑みを浮かべそう答えた。
ずいぶん無理しているようだが、なんど聞いても答えは変わらないだろう。
夕は尽くすことに喜びを感じる質のようで、こちらが引くくらい自身を酷使する。
この前だって真巳の刺青を見て対抗意識が芽生えたのか刺青に挑戦し、痛みに堪えきれずか小さな金魚をへその下に彫っていたのだが、俺がそれに気づくと泣き始めた。
理由を聞くと、俺に見向きもされなくなるのが怖くて夫婦鯉を彫って認めてもらおうと思ったが、我慢できず彫り師が勧めてきた金魚なんかに変えたことで、俺に見捨てられると勝手におもいつめていたらしい。
俺はそもそも刺青は痛くて夕にはできないしやらなくて良いと説明していたので、やらないと思っていたのだが、夫婦鯉に夫婦仲が良くなるとか二人で苦難を乗り越えるといった意味合いがあると知り、どうしても彫りたくなったそうだ。
まぁ、諦めて金魚にしたが、そうしたのも多産祈願の意味がこめられているかららしい。
その夜は散々可愛がってやったのも無理はないとおもう。
おぉ、それで思い出したが、なぜか転生してからというもの絶倫になっているようで暴走したりしたら朝までなんて簡単にやっているし、毎晩のように二人相手に奮闘しているのだがそれでも足りないと思う自分がいる。
これじゃあ、もし二人が同時に妊娠でもしたら捌け口をさがすのはかなり大変になるだろう。
商売女は抱きたいと思わないし、そこらの女を手込めにするのは太守としても人としてもしたくない。
衆道なんぞ非生産的なものはもってのほかだ。
だが、発散しないと大事になりそうな気がする。
そうなると、更に側室を増やすって手しかないがそれは現状どうなんだろうか?
勝手に真巳をつれてきて夕も正妻にした現在の俺に団結力の強化要素が残っているのか?
残ってるなら母に相談して相手を探してもらえばいらぬ確執がなくていいはずだ。
いや、待て。
そもそも二人が同時に妊娠しなければ関係ないんだ。
「ところでお前ら月のものはきているか?」
すぐさま聞いてみる。
「私はもともと不規則だから一月と少しではわからないが、今のところは……いや、最近頭痛がするからそろそろかもしれない」
「私はきてません。
あえっ?こ、こ、こ、これってもしかしたらにん……しん……ですか?
わ、わ、私毎月決まった時期にちょっと重いのがきてたんです。
思えばもうその時期を過ぎてますし……でもでも私が真巳さんより早くってーー」
「でかしたッ!!」
「私は気にするな。
それはそうと良くやったぞ、夕。
その子が青葉の後継ぎになるんだ。
大切にしろ」
俺と二人がまだ一月しか付き合ってないというのも驚きだが、夕が妊娠した可能性があることに比べればゴミのようなものだ。
体調を崩しているから不規則になってる可能性もないとは言いきれないが、おそらく間違いないと思う。
というか種なしでもないかぎり毎日のようにやっていれば妊娠するのは当たり前だろう。
戸惑いながらも嬉しそうな表情で腹部を撫でる夕に、思わず頬が弛む。
が、反対に何やら真巳の表情が険しい。
発言からして世継ぎを自分が先に産みたいなどと思っているとは思えないのだが、他に何か理由はあるだろうか?
そう思い悩んでいると真巳が俺を見て溜め息をついてから
「ただ、早く復帰してくれないと私が青葉に抱きつぶされてしまうからくれぐれも身体を壊さないようにな。
いっそのこと狛でも生け贄につれてくるか」
と、最後はぼやくように呟いた。
随分とひどい発言かと思ったが事実なので仕方がない。
夕も顔を紅潮させてから青ざめたので、そんな光景を想像できたのだろう。
まぁ、事実であろうと心外なので夜にひどい目にあわせてやろうと堅く決意しつつ、体の負担にならないよう、ひとまず夕の前にある竹簡を取り上げて自分の前に置く。
それを真巳が半分ほど受け持ってくれたので、慌てる夕を後目に仕事を進める。
しかし、仕事を増やすと言った直後に仕事を取り上げることになるとは思わなかったな。
まぁ、別に妊娠したら仕事をできないってわけじゃあないので、ここまですることはもうないだろう。
好意に甘えるやつじゃないしな。
あと真巳の狛を生け贄にっていう提案だが、個人的に自分より大きい女は好かないが、狛は鍛えて引き締まった身体に加え、案外初な性格だから結構好きな部類に入る。
抱けと言われたら迷わず抱くだろう。
ただ、武官として働いている人間を孕ませるわけにはいかないので、自重しなければならない。
断れるか心配だ。
冗談で終わらせてくれることを祈る。




