殺し屋、思案
今回会話は一切ありません。
酒盛りの翌日、俺は母によびだされ、仕事の手伝いをしつつ、戦後処理が終わり次第役職に任命されると聞かされた。
その時には俺以外にも真巳、それから狛達四人とお使い男の計六人も任命されるらしい。
そしてそれから一月後、それぞれ俺は糜竺が言っていた通りに東海郡太守で、真巳は俺が押し出す形で東海郡の郡丞に後戻り。
ちなみに、何故か夕も東海郡の主簿になっていたため、東海郡の役場が俺のプチ後宮みたいになっている。
まぁ、それはおいといて残りの五人だが、狛と猿が騎都尉でお使い男が都尉という歴史通りの結果になって、熊は游激という警察官のようなものになり、孤子は嗇夫という徴税と裁判を司る役職についた。
俺としては最後の二人が県令の下の役人というのは不満なんだが、どれも責任感のある人間にしか勤められない仕事なのを見るに、母も人柄を信頼はしているのだろう。
陳寿の評のように人材登用が下手くそってわけではないようだ。
というか陳寿は曹操を一方的な悪人にしないために陶謙を悪人っぽく書いたのだろうから全てが事実ではないだろう。
それに実際、仕事が始まって一月もかからないにも関わらず、結構活躍していると噂がくるので結果としてかなり良い判断と言える。
まぁ、このまま腐らせるのもアホらしいからその内もっと上の役職に推薦してやるか。
歴史であの曹操が太守に任命するくらいだから能力はそれなりに高いはずだ。
時期になるまで今回の仕事で経験をつんで、さらに能力が伸びることを期待しよう。
ちなみに俺の東海郡での仕事は、真巳の人望に隠されてあまり目立つことなく、平凡な太守と認識されている。
表向き目立った行動をせず、仕事を無難にこなしているからな。
ただ、実際にはお使い男の仲間五百人の内から五十人を借り受けて諜報組織を編成してみたり、獄に繋がれているものから見所のある奴を私兵にしてみたりと結構遊んでいる。
まぁ、郡の兵というよりは食客という扱いが近いだろう。
それでも罪を軽くしてやる代わりに結構ハードな訓練をさせている。
軽くするといってもちょっと重い犯罪をした者は死罪って感じの時代だから気にいったやつも死刑囚ばかりで大変だった。
それで考えた末に全員に黥(額や腕に刺青する刑)をしたわけだが、流石に雰囲気が悪い。
皆が皆、額か腕に黒々とした犯罪者のマークをつけているのだから当たり前だろう。
なので前世における意味合いの刺青を私兵の間で流行らせることにした。
いわゆるファッションと我慢強さを示す指標としたわけだ。
案外これは人気となり、黥を担当していた役人が過労で倒れたり、無理をして翌朝発熱する馬鹿もいたから商売として上手くやっていれば儲けたかもしれない。
そうそう、倒れた役人には給料を上乗せしてやらないとな。
手先が器用なのに加え、芸術センスも良かったから酷使しすぎた。
それに俺が代表例にあげたせいで龍を彫ろうとするアホが多すぎてかなり大変だったと思う。
ちなみに俺は背中に登り鯉、聞きつけた真巳も同じく背中に蜷局を巻いた蛇を彫ってもらっている。
なかなかの大作だから見せびらかしたい気持ちはあるが、儒教が主流のこの時代にこんなことをする奴は確実に白い目で見られるのでバレないようにしないとな。
夫婦間での新たな楽しみとして我慢しよう。
夕は仲間外れだがあの痛みに耐えられそうもないししかたない。
初めての時も痛がりすぎて萎えそうになったくらいだしな。
だがまぁ、聞かれたら教えてやるとしよう。
さて、そんなことより諜報組織の五十人だが、現在兗州、徐州、揚州、青州、司隷にそれぞれ十人ずつ配置している。
最初、十人ずつは少ないと思って増員しようかと提案したが、現地で仲間を増やしつつ情報収集をしていくから大丈夫ですと断られた。
というのもこの世界では張角ら三姉妹はアイドルグループ的な存在で、お使い男とその仲間はかなり初期からのファンということもあり、黄巾の乱を落ち延びた他のファンとの伝手があるそうだ。
流石に信じられず嘘だろ?と聞き返したのだが、かなり食い気味に張三姉妹の素晴らしさを力説されたので、辟易しつつも認めざるをえない。
しかしそんな奴らが反乱の首魁になれるとは到底思えないので質問すると、 黄巾の乱は利益目当てで張三姉妹を捕縛しようとした県の役人に対して、キレたファンが暴走して役場を制圧したことによって始まった反乱で、あれよあれよと言う間に周辺の若者や便乗した賊によって祭り上げられてしまったそうだ。
なにか本来起こりそうにないことを無理やりこじつけたかのような違和感を感じるが、歴史通りになってくれるのなら別に良い。
順次対策をたてていくとしよう。
それはそうと徐州の連中から早速情報が入った。
内容は主に母親の周囲の人材に関してだ。
陳寿の評に嘘が多いとしても事実もいくらかはあるだろうと判断した結果、俺が調べるよう頼んだからである。
そしてその内容に重要なものが三つもあった。
一つ目に窄融が物資の輸送の任に就いたこと。
二つ目が最近王郎を召し上げ、次いで趙呈と張昭を登用しようとしていること。
三つ目が最近下邳で天子を名乗り始めた闕宣という賊と接近し始めていることである。
そしてこれら全ては陶謙の歴史上での汚点といえる行動の大部分だ。
まず一つ目の窄融について、数百人の兵を連れて徐州にきた自称仏教の指導者で、寺院など沢山の建物を建てたという一見すると立派な人物に見えるが、その費用は輸送任務の際に横領した物資を利用していたらしい。
さらに曹操の徐州大虐殺では、陶謙を見限り二万の民を連れて南に逃げ、続いて蟠踞するためか、騙し討ちのようなことをして人を殺したり、戦したりとさんざん暴れまわったやつだ。
現在は母と同郷らしくかなり重用されているが、正直信頼しろと言われても信頼できないだろう。
だが、董卓の例もあるので直接会うまでしばらくは保留にする。
次いで登用の件だが、簡単に言ってしまえば士官を断られたから趙呈を脅迫し、張昭を捕まえて拷問したっていうだけだ。
まぁ、断られた理由はいまいちわからないが推測するに、名士と呼ばれる輩が軍人を軽視する悪い環境のせいだと思う。
張飛が劉巴に会うのを拒絶された一件みたいに名士っていうものはアホみたいな誇りがあるからな。
孫堅だって名士の軍人差別を少しでも緩和しようと自分は孫武の末裔だと称していたらしい。
劉備が劉勝の末裔っていう話もそうした思惑があったからじゃないだろうか。
だけどまぁ、要するにこの登用を母が諦めでもしない限り結果は史実と変わらないだろう。
俺がいけばどうにかなると思うほど自惚れてはいないしな。
このあたりはなるようにしかならないと思う。
それで最後の三つ目だが、字面で分かる通り誰がどう見ても汚点にしかなりえない行動だ。
実際、俺も母が何をしたいか分からない。
史実で闕宣は泰山郡で母と共に略奪を行い、朝廷から曹操に討伐命令が下ると、手を翻した母に殺されその配下の軍勢を吸収されてしまう。
この通りならまだ納得がいくのだが、今はまだ反董卓連合も起こってないし、袁紹と袁術のいざこざもないので曹操と敵対すらしていない。
確か闕宣と略奪したりしたのは曹操と小競り合いをしていたからなので、今の時期ではどうしようもないはずだ。
お使い男みたいな善良な人間なら賊だとしても扱い易いが、天子を自称するような奴じゃあ大変だろう。
いっそのこと始末するっていうのもありか。
ん?……おぉ、そうだ。
窄融も闕宣も手に負えそうになかったら俺が殺してしまえば良いんだよ。
情報収集して黒なら殺し、白なら保留。
ベストじゃないがベターではある。
まぁ、やる前に諫言くらいして、もし治らなかったらってことにしておこう。
バレずにやるのは大変だから改善されることを祈る。
それじゃあさっさと仕事を再開しようか。
儒教では親からもらった自分のからだを傷つけるのは禁忌に値します。
3/25 郡太守は軍隊を持ってないというのは誤りだったので訂正しました。




