殺し屋、懐古
改訂版です。
今後ともよろしくお願いいたしますm(__)m
ぼくの名前は、とうしょうです。5さいです。
母さまの名前はとうけん、と言ってゆうしゅうのししをやっています。
それから……ってもういっか疲れたし。
どうも元殺し屋の陶商(5歳児)というものです。
5歳児で元殺し屋ってのは前の俺、つまり前世の俺(享年27)がそうだったってことだ。
てか、もう生を受けて通算32になるおっさんが何してんだろうな。
まぁいいや、話は飛ぶけど仕事柄、人を殺してた俺が地獄に行かず何故転生出来たか、その理由には一応見当がついている。
思い出すのも腹立たしいが成り行きで自分を犠牲に人助けをしてしまったからだ。
俺の予定では死ぬつもりなんて皆無だったんだけどな…………。
◇◆◇◆◇回想◇◆◇◆◇
そう、あれは子供達が騒ぎ始める祝日の昼過ぎのことだった。
俺は前日に仕事を終わらせ久々の休息をのんびり過ごすため、公園にでも行こうと思って家を出たんだ。
普段は疎らな街の道路も流石に祝日だと、それなりに交通量も増え、車が右へ左へと忙しなく行き交っていた。
ここまでいけば分かるだろ? 道路に飛び出したガキがいたんだよ。
でもまぁ、幸いなことにその時は信号が赤だったから、ガキをさっさと拾って注意してそれで終わり。
そう思って俺は道路のガキに向かって走り出した、その時だった。
俺とは反対側の歩道から赤茶色の髪の巨乳娘が助けようとしたのか飛び出したのである。
しかもそいつの足が遅いこと遅いこと。
下手すりゃ今ボールを拾って喜んでるガキより遅いんじゃないか?ってくらいだ。
だからそいつがまだ道路の半分を過ぎたくらいの時にはもうガキを拾って、危ないからさっさと戻れよ、って言ってガキを安全な所に運んだんだ。
そしたらそいつはキョトンとした顔で暫く固まった後、頭を下げてありがとうだか何だか叫んでいたので、さっさとどっか行けと手を振るとやっとこさ移動しようとして…………転けた。
しかも最悪なことに交差点を曲がってきたトラックが道路のど真ん中で転けているそいつに向かっているのだ。
しかも、運転手はケータイでお話し中らしい。
ゆっくりと腰の辺りを押さえて立ち上がっているそいつにその事を大声で伝えると、トラックの方をゆっくりと向き、固まった。
そしてそれをちょっとだけ予想できていた俺は、心の中で可能な限りの汚い言葉で娘を蔑みまくり、それを勝手に動き始めた体にも浴びせつつ、その娘を突飛ばし最期を迎えた。
◇◆◇◆回想終了◆◇◆◇
な、腹立つだろ? 何に腹立つって、散々人殺ししてきたくせにそんなことをした自分にだ。
勿論、出来もしないくせに助けにきたあの娘にも腹立つが、自分の偽善っぷりにその何倍も腹が立つ。
まぁ、そのお陰で第2の人生を過ごせるんだからいいっちゃいいんだが、問題はこの転生してきた世界だ。
読んだことがある人も多いのではないだろうか?
俺の母親の名前で分かる人は分かると思うが三国志っぽいのだ。
しかもおそらくだが文官・武官の性別が逆になっている。
先に言った通り陶謙は俺の母親、つまり女だし。
俺が寝ている横で両親が頑張って宿し、つい最近産んだ子も女だ。
ちなみに名前は陶応という。
それに母親の愚痴を聞く限り、何進や張温も女らしい。
まぁ一番に思ったことは5歳児に何愚痴ってんの?
その次に息子に見られるかどうかのスリルに興奮しながらヤるな。
覗きしてるみたいで何か罪悪感が湧いてくるんだよ。
流石に5歳児だと欲情しないみたいだから安心だけどな。
あっそうだ、この世界にはもう1つ変わった所があって真名というのがある。
それは字の通りその人物の本当の名で許されてもいないのにその名で呼ぶと、首をとばされても文句は言えないらしい。
ちなみに俺のは母親の真名の“若葉”からとって“青葉”という。
まぁ、母親譲りの深緑の髪と目の俺にあっているからそれもありだな、と思ってたりいなかったり。
それはそうと俺がこんなに長々と説明じみたことをしているのには訳がある。
今、現在つまり深夜に物音が聞こえ起きた所、真っ最中だった。
何がとは言いません、とにかく真っ最中だったのです。
三国志の中では陶謙の息子は2人だったから、これからは安心して寝れると思っていたのだが…………甘かったか。
しかも父親の甘氏とバッチリと目があってます。
気まずいです。 それはもう例えようが無いほどに。
しかも、この状況に気づいて無い母親は焦らされたと思ってるのか、おねだりしながら動かします。
どこをとは言いませんよ。
そして父親も不意をつかれた為かその直後にびくびくと震えて放出します。
何をと(以下略)
まぁ、そんなこんなで一段落ついた所で
「とうさま〜、かあさまとなにしてるのですか〜?」
寝ぼけてる感を出すため目を擦りながら間延びした声で話かける。
父親はホッとした顔で胸を撫で下ろし、母親は少し不満顔でこちらを向くと
「体をほぐしてもらってるのよ〜。
今良い所だから商は寝てなさいね。」
何とも言えない威圧感を放ちながらそう言った。
父親は母親に呆れているのか、はたまた見られた事を恥ずかしがっているのか、いつも通りの人の良さそうな笑みを浮かべ後ろ頭をかく。
俺はそんな父親に内心同情しながら
「わかりました〜。」
と良い子ちゃん宛らの返事をして眠りについた。
結局の所眠れたのはだいぶ後だったのだが、俺が眠れたのは2人が寝てからだと言っておこう。
翌日、俺がやけに艶々している母親とげっそりとしている父親を見たのは昼を過ぎたころだった。
つまり昼過ぎまで爆睡していたのだ。
前世では基本的、ターゲットにあわせて緻密に考えられた計画通り動いていたのでかなり新鮮な体験だ。
そう考えるとあの娘を助けたのも悪くは無いような気もする。
しかし問題なのはここが三国志の世界ということだろう。
せっかくの転生ライフも人殺しを避けて生きるには難しいというのが現実だ。
前世の殺しも好きでやっていた訳ではない。
そうしなければ生きていけなかったのと、親父に恩を返すためであった。
その親父も本当の親父ではないのだが、今は言わなくて良いか。
それよりもだ。
歴史通りの陶商・陶応にだけは絶対になりたくない。
両方とも無能だからと陶謙の後釜を劉備にとられてしまうのだ。
正直、現代人であり三国志の知識のある俺が無能として終わる未来は想像し難い。
だが文、武官が女と言う無茶苦茶なところがあるだけあって、歴史が改変されてしまうこともあるだろう。
例えば世継ぎ問題とか大幅な改変が必要だ。
いちいち当主が妊娠してたら曹操なんかで言ったら10年近く行動不能になってしまうしな。
となると、この時代を生き残るにはある程度の下準備が必要になってくるか。
ただでさえ陶謙という曹操との対峙が決定的な人間を親にもつのだ。
無能じゃないだけでは死ぬ可能性もある。
それに徐州の大虐殺はなんとしても防ぎたい。
やはり乱世に生まれたからには天下取り。
天下取りには地盤固めが必要だしな。
なので今現在の俺の目標はこうだ。
① 成人するころまでには身体能力を前世と同じぐらいにする。
② 妹を有能な為政者に成長させる。
上手くこの2つを成功させればその内起こるであろう戦乱の時代も乗り切れるだろう。
でも、この2つがかなり難しいのも分かっている。
元が何の才能もない人間なのだ、かなりキツい道のりだろう。
ちょっと前から始まった勉強もあまり頭に入ってこないし、運動神経も良いとは言えないしな。
でもまぁ、俺には前世の経験・知識がそのまま5年経っても劣化せず残っている。
何故かは知らないがこれはかなりの利点だ。
そこには三国志の知識もあるので武将が女ではあるが大体の予想はつく。
今、漢朝の世は乱れに乱れているらしいから、あと10年位経てば黄巾の乱が始まって戦乱の世の幕開けだ。
その頃には俺の体つきもそれなりになっているだろう。
あとは流れに身を任せ、機に乗じて飛躍する日を待つだけだ。
歴史など関係なく、徐州から天下を取ってやる。