第一章
ミステリー研究会。
メジャーな同好会だとは思えないが、高校にもなれば、
まぁ、ごく普通にみかけるものである。
だが、この湘原高校では、口にする事さえほとんどないような、
かなり特異な同好会を指す。
校内生であっても、予算会の時に、
『なんだ?この部?テニス部より予算もらってんじゃん!?』
と言う形で、気づくのが大半で、関わる事もない。
……ごく一部の不幸な新入生を除いては……。
++〜第二視聴覚室の怪?〜++
(もう!入学して早々なんでこんな事を……)
少女は、プリントの束を抱えながら早足で歩いていた。
茶色がかった長い髪をポニーテールにし、黒目がちの瞳が丸顔をさらに幼く見せている。
彼女の名前は、浅川鈴奈。
そして、この名前こそ、彼女が今、健康診断の事前アンケートを運ぶハメになった理由でもある。
『あ』から始まる名前は、初日に日直に当たる事が多い。
まぁ、そこまでは良かったのだが、先生がかなりの量の雑用を押し付けた上、
校舎内がめちゃくちゃ広かったのだ。
見学会に来た時は、その広さに憧れもしたが、今は運動量がやたらと増えるだけだ。
鈴奈は、ため息をつきながら、この先の道を心の中で反芻した。
目的地の視聴覚室へは、この4階の廊下をまっすぐ行けばいいはずだ。
彼女は、白い扉の上についた教室名の札を注意深く見ながら、緑色の長い廊下を進む。
(えっと……ここで良いんだよね?)
彼女は、結局廊下の一番奥まで行ってしまってから、
視聴覚室の文字が書いてある教室を見つけた。
でも、なぜか黒カーテンが入り口の扉の窓を覆っていて、中が見えない。
(健康診断をする時のためかな?)
鈴奈は、特に疑いもなく、白い木の引き戸を開ける。
音も立てずに、すっと扉は開き……。
薄く霧のようなものがかかり、変わったお香の匂いが鼻をつく。
「ようこそ。いらっしゃいませ」
『扉を開けると、そこは異世界だった……』
と言ったら大げさだが、鈴奈はかなり衝撃を受けていた。
全ての窓に、黒いカーテンがかかり、怪しげなハードカバーの本は山積みにされ、黒板には変な図式が書いてあり、いくつか仕切りがしてあり、全体的に薄暗い。
書いていけば、きりがないが、とにかく普通の視聴覚室ではない。
鈴奈が唖然としていると、一人の少女が歩み寄ってきた。
「お嬢さんは依頼者? それとも新入部員かしら?」
まっすぐな黒髪をなびかせながら、彼女はにっこり微笑んだ。
鈴奈は、勢いよく首を横に振り、その拍子にプリントを取り落とした。
白い薄い紙が、黒い床に舞う。
少女は、「あらあら」と言う風に、落ち着いた手つきでプリントを拾った。
鈴奈は、慌ててお礼を言いながら、自分もプリントを追いかける。
鈴奈は、少し落ち着きを取り戻すと少女に問う。
「あ、あの、ここって……視聴覚室ですよね?」
少女は、真っ黒で大きな瞳で見つめ返す。
落ち着いて見ると、彼女はかなり整った顔立ちをしている。
ピンク色の形の良い唇から、鈴の音のような声をつむぎだす。
「ええ。正真正銘、第二視聴覚室よ」
「だ、第二?」
どうやら、場所を間違えたようである。
しかし……。
「なんで、視聴覚室なのに、第二があるんですか?」
少女は意味ありげな微笑みを見せた。瞳の色が深くなる。
「……聞きたい?」
「いえ、いいです」
鈴奈は、なんとなく関わりたくなかったので、即答した。
これ以上いると、この変な教室から出られないような気がしたのである。
怪しげな暗い部屋に、美少女。……何かありそうだ。
「まぁまぁまぁ。聞いていきなさいって!
とっておきのハーブティーでも飲みながら、ごゆるりと」
「いえ、これから日直の仕事が……」
やけにテンションが高くなった少女に引きずり込まれるように、
鈴奈は部屋の奥に連れて行かれる。
この時から、鈴奈はミステリー研究会に囚われたも同然だった……。
読んでくださってありがとうございますw
これはかなりギャグを入れていくつもりなので、「えぇ!?」と言う印象を受けると思いますが、大目に見てあげてください。
かなりの初心者です。アドバイスなど、どうぞお願いいたします。