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理論屋転生記  作者: アロハ座長
序章
7/53

最初の収穫と子どもながらの創作

他領主とその御子息が登場します。

そして、この世界って、特許があるんです。特許料があるらしいです。

 

 私――セフィリア・ジルコニア――は、五歳になり、お父様を中心とする人たちの関係が大分分かってきた。

 執事長のジークフルは、実はお父様の秘書の役目や情報を総合管理している人で執事達を率いている。また税収の管理は、お母様とキリコ率いる侍女隊、各街や村の役人が受け持っている。そして、領民に対しての実働部隊として騎士という職業の人たちがいる。徹底した分割システムだった。

 騎士とは、領主専属の軍人、別の言い方をすれば私兵だ。そのほとんどが下級の貴族たちで構成されている。他にも、下級の貴族である男爵・子爵位の貴族たちは街の役人や軍人、衛兵など様々は職の中心にいる。そしてお父様はそれでも人が足りないということで、領民の中から優秀な人に適した職を与えているそうです。


 貴族と領民が同じ役職をして互いに反発しないのか? ですって、始めの内はあったようですが、領民と貴族の距離が近いこの領地だからでしょうか? 次第に認め合って仕事を円滑に進めるようになったそうです。


 そして今日は、更に枠組みを広くして他の領主の方が領主の城に尋ねてきました。



「お久しぶりだな。ジルコニア伯爵」

「ああ、久しぶりですね。ランドルス侯爵。娘が生まれる前ですので、六年前の王都のパーティーでしたかな?」

「そうですな。俺も息子が生まれ最近は多忙だったが少し休みが持てたから、顔見せついでに息子を連れて来た」


 お父様よりも肩幅の広い男性が、とても親しそうにお父様とお話をしている。

 そして、彼――ランドルス侯爵――の隣には、私と同じくらいの背の男の子がこちらを興味深げに見つめてくる。


「はじめまして。僕は、東のジュブトル領のランドルス伯爵が息子・キュピル・ランドルス。以後お見知りおきを」


 丁寧で優雅な挨拶。相当貴族のマナーに対しての指導を受けたのだろう。私は、今日のような日のために仕立て上げられた青色のドレスの端を軽く摘まんで挨拶する。


「はじめまして。私は、モラト・リリフィム領のジルコニア伯爵が娘・セフィリア・ジルコニアです。以後お見知りおきを」

「ははは、子ども同士で硬い挨拶は無しにして遊んできなさい」

「そうだな、セフィリア。キュピルくんを案内してあえなさい」

「はい、お父様」


 私は、丁寧に一礼してから目の前の少年の手を引く。ちっちゃな柔らかい手を引いて、城の廊下を抜けて外へ出る。

 まず向かう場所は、庭園。お母様や侍女たちが丁寧に育てた花壇がある。


「こっちがお庭です。キュピルくん」

「はい、セフィリア嬢」


 私の案内に対してまだ硬い態度だ。緊張しているのか、強張った表情をしている。


「キュピルくん、私に対してはそんな態度は要らないわ。もっと気軽に呼んでほしいな」

「じゃあ、セフィー。で良い?」

「うん、セフィー。気に入ったわ!」

「セフィー。気になったことがあるんだけど、聞いて良い?」

「なに?」


 そう言うキュピルくんは、私の家庭菜園を指さす。


「あれだけ、花と違うみたいだけどあれは何?」

「あれはトマトの樹よ。赤くて甘い野菜」

「へぇ~、トマトってあんな風に出来るんだ」


 いかにも貴族、な台詞を呟くキュピルくんに私は、可笑しくて小さく笑ってしまう。

 私は、キュピルくんの手を引き菜園へと招き入れる。青いトマトに真っ赤なトマト、その中間とたくさん実っている。


「へぇ~、トマトって元々青いのか。美味しそうだね」


 既にトマトの樹は私の背を二倍近く超え、実を重くぶら下げている。目の前にはちょうど収穫時のトマトが生っており、手に持って重さを確かめる。

 うん、ずっしり重い。良い出来だ。


「取れたてだからきっと美味しいわ。少し早いけど、収穫してみましょう。ちょうど取りやすい所にトマトが四つある」

「良いの?」

「ええ、初収穫。一緒にやりましょう」


 そう言って、赤いトマトを素手でもぎ取る。ぷつん、という感触と共に手の中にトマトが収まる。それを見たキュピルも真似をして一個とる。

 私もまた一個取り、キュピルくんももう一個取り、互いに小さな両手でトマトを持っている。


「お父様たちに持って行きましょう」

「うん」


 来た道を戻るように、お父様たちの居た場所に駆け足で戻る。玄関には居なかったために、執事の一人を捕まえて、二人の居る場所へ連れて行って貰う。


「お父様、キュピルくんとトマトを取りました。食べてみてください」

「お父上、トマトは樹でなるのです。初めて知りました」


 そう言って私達は持っているトマトを一つ渡す。


「これは、セフィリアが大切に育てたトマトだね。一番最初に私達が貰っても良いのかい?」

「ほほう、セフィリア嬢のトマトを見せて貰ったんだな。良かったな、キュピル。私も頂いて良いのかな?」


 私達は元気よく首を縦に振る。


「「では、頂きます」」


 一口齧りついた二人は、目を見開く。私の収穫したトマトは、『腐葉土+鶏糞+生ごみ肥料+灰』と植物に必要な柔らかい土で窒素、燐酸、カリウムを補って作ったのだ。取れたてでこの世界のどのトマトよりも新鮮でおいしい自信があった。


「こんなトマトは、初めてだ。流石は、【グラードリア王国の食糧庫】というだけある。甘く、砂糖でも食べているようだ」

「本当にそうだ。私も長年、この領地の農作物の出来を見てきたが、ここまで凄いトマトは初めてだ」


 褒めすぎだろう、という思いはあるが、私達は悪戯が成功した子どもの子どものように笑った。そしてキュピルくんと共に食べれば、本当においしい。生前食べたどのトマトより美味しく感じるのは、自分で手塩にかけて育てたからだろう。


「本当においしいね。セフィーは、凄いね。じゃあ僕は【軍盤】を教えてあげる」

「ぐん、ばん?」

「駒を兵士に見立てて戦うんだ」


 そう言って、ランドルス家の執事さんからトランクケースのような箱を受け取るキュピルくん。

 机に拡げられたのは、縦横九マスの盤と木彫りの駒。

 どうやら生前やっていた将棋のような物のようだ。久しくやっていなかったので、出来るかは分からない。


「準備できたよ! セフィーは、軍盤の遊び方って知っている?」

「ごめんなさい。こういう遊びがあること自体初めて知りました」

「はははっ、当然だ。武門の家ではごく一般的だが、普通の御令嬢は、軍盤すら知らないで生涯を終えることがある」

「懐かしいですね。私達も子どもたちの様子を観戦しますか?」

「良いな。そうさせていただくとしよう」


 お父様たちはお父様たちで盛り上がりを見せる。私は、キュピルくんから軍盤の手ほどきを受けた。


「軍盤ってのはね。駒を軍に見立てた遊びで、駒は、王様、将軍二人、騎馬兵二人、重槍兵二人、斥候二人、魔法兵一人、使徒兵一人、弓兵、二人、歩兵が九人を持って互いに戦うんだ。動きは――」


 私は、話を聞いた限り、将棋に近い物を感じた。王様を奪われれば負け。歩兵を同じ縦列に複数並べるのは禁止。成金などは最初から無く、初期の駒の動きは最初から広めである。最大の特徴としては、倒した駒は、扱えるが、奪ってから三手以内は使えない点。これは、捕虜はすぐに仲間にならないぞ。という意味があるらしい。

 

「じゃあ、始めよう。僕から先で良いね」

「うん」


 私は、久々の将棋に心躍る。動かし方や駒の配置は似ている。ただ、魔法兵や使徒兵は、動きが変則的で一気に敵の陣地に入って早々に帰還できない点では、大きな決定打は無い。だが私の戦略は堅牢な守り。的確に相手の駒を減らす。歩兵を囮に重槍兵を手に入れ、斥候で独立した歩兵、弓兵を奪う。


 一つ、一つと駒が減った所で私は勝負に出る。

 王が逃げれば、追いつめ、逃げ道を塞ぐ詰将棋。


 軍盤に触れて、今まで築いてきた子どもとしての体裁が綻び、その隙間から生前の自分が楽しんでいた。今思えば、大人げない。終わった時の周囲の顔に私は「しまった!」という気持ちが沸き起こる。


「これは凄い。到底五歳の子どもの打ち方ではない」

「セフィリア。どこでこんなやり方を覚えたんだい」


 二人の眼が私をすっと見つめる。何とか取り繕わなければ。


「あの、その、お父様の書斎の『古今戦場陣形』と『ウラーリバード戦役』では、攻めの陣形に対して硬い守りにより勝利を収めたのを記憶しています」


 そうだ。これで大丈夫だ。ただ、二人はとても眼を見開いている。だが忘れられた一人は今になって負けたことに気がついたのか声が上がる。


「セフィー。凄いよ! もう一回。今度は負けないぞ!」

「分かったわ。やりましょう」


 キュピルくんは、興奮気味で再び軍盤の駒を整える。その様子に毒気が抜かれたのか、苦笑している二人を横目でちらりと見た。

 途中、お父様たちがどこか別の部屋に行ってしまった後でも、私達は軍盤を続けた。


 キュピルくんが私に驚いたのと同様に、私も彼の戦略には驚かされっぱなしだ。

 変則的な手で攻めてきたり、魔法兵や使徒兵を単騎で突入させては、見事に自陣地に戻り、果ては私が前に使った陣形をそのまま真似て使う。

 まだまだ詰めが甘いがこれは将来は、私より強くなるだろう。


 しかし、素人――ということになっている――である私に負け続けるキュピルくんの表情は、一戦ごとに興奮から涙目に変わっていた。


「も、もう一回!」


 最終的には、悲痛な声色すら感じる。私も良心の呵責を覚え始めた。


「もうそろそろ止めて、お茶しない? 喉が渇いたわ」

「じゃあ、その後もう一回」


 やけくそ気味な雰囲気のキュピルくんの気持ちをどこかに持って行けないものか。と考えて私は、あることを閃いた。


「セフィリア様、キュピル様。お茶とお菓子でございます」

「ありがとう、ジーク。一つ頼んでも良いかしら?」

「なんでございましょう?」

「紙と軍略書と10のサイコロを四つ、それとペンと、真っ白のカード。それから使わない地図をお願い」

「……? かしこまりました」


 何に使うのか分からない様子だった。だが生前の孤児院では、ゲームなんてない子どもたちは、自分で紙と鉛筆を握りしめ、遊んだものだ。


 それに、初期のRPGなど、紙、ペン、サイコロ。そして想像力さえあれば、成立するのだ。


「よし、始めよう!」

「ちょっと待って。軍盤も良いけど、私少し面白い遊びを思いつきましたの」


 ジークフルが来るのを待って彼も混ぜて三人で始める。


「今から私達でゲームを創りましょう」

「ゲームを創る? でも、どうやって?」

「例えば、ここに地図がある。私達は、自分で本を読んで色々と調べるの。例えば、領主の城から各村は、軍隊で移動する場合、何日掛かるか? それを元にゲームのルールを考えるの」


 軍隊の能力を考える。弓兵には錬度があり、それによって、弓の飛距離に違いが出る。また兵も人間。それなら、兵糧という概念をゲームに投入すると面白みを増す。

 陣地を考える。攻撃、守り、撤退、突貫と様々な陣形をカードに書き残し、対して有利な陣形と不利な陣形ではその効力はどれだけになるか考える。

 最後に地形を考える。村々の移動に掛かる時間。村や戦場での有利不利。例えば平原では騎馬兵は有利だが、狭い街道では動きが取りづらいために不利。歩兵、弓兵は、軽装備のため移動が速いが、重槍兵は重いので遅いなどの速度差。などまた戦場での策略をカードにして、戦闘開始時にそれを開示して範囲、能力に影響を及ぼす。言い方が悪いが、生前のカードゲームの補助カード的な役割も、とシステムをどんどんと詰め込む。

 最後は、サイコロによる確率勝負。ジームフルが監修としてより本物の戦争に近い物に仕上げる。


「子どもながらの発想は、毎回驚かされます。キュピル様、軍は約三割を失うと機能のほとんどを失います。なので、敗北条件は軍の損壊率三割越え。で」

「えー、でも海上戦だとそんなのないよ」

「海上戦では兵の数ではなく、船の数で戦います。百人乗った船と二百人乗った船をどちらを倒しても海上の脅威が一つ減っただけなのです」

「うーん。そっか、じゃあ、他にも考えることはある?」

「これだけあればゲームが成り立つんじゃないかしら。始めましょう」


 ゲームマスターをジークとして、私とキュピルくんは、軍盤の駒を使いそれぞれ編成した軍で地図上の領主の城を目指す。

 私は、守り。キュピルくんは攻めを得意とするために、相互に補いながら進んでいく。モラト・リリフィムの領内の兵力は少ないので、早々に終わりキュピルくんに花を飾ることが出来ると思っていた。ただし、誤算だったのは相手が、ジークフルというお父様の片腕であることである。


「えっ、どこから兵が湧いたの!?」

「兵糧は死守しないと、キュピルくんの兵が撤退しちゃう」

「ほほほっ、各個の能力では負けますが、連携の隙が大きすぎますぞ、お二方」


 結果は、惨敗だ。二度三度と戦ったが、駄目だった。絡め手や何やらを使っても霞を掴むように抜けていく。最終的に二人で強硬突撃を掛けたが、愚策ですぞ。の一言で全軍全滅。


 孤児院の園長を思い出す結果に、私も唇を噛み締める。


「おや、もう軍盤はおしまいか?」

「話は終わったが、疲れたね。ジークフル、私にもお茶を」

「畏まりました」


 お父様たちは、私達の傍に来ると、端に追いやられた軍盤と中央を占める地図と駒と軍略書を見つける。


「二人でお勉強でもしてたのか? ジーク翁」

「いえいえ、お二方は、ゲームをしておりました。ランドルス侯爵」

「ゲーム? しかし、こんなゲームは家には……」

「お二方が、軍略書を片手に、創ったのでございます。お二方も一度おやりになりますか?」

「私達が教えて差し上げますわ。お父様」


 私達三人は、お父様達に実演と共に説明をする。二人の疲れた表情は、すぐに食い入るようになる。

 そしてジークフルをゲームマスターとし、私達が果たせなかった領主の城制圧を二人は、見事に行う。そしてその中で、本当の軍略という物を見る。時には大胆に、時には慎重に、ジークの複数の策を先読みに、それを逆に利用する。そしてついには、領主の城を制圧した。


「お父様、やりました! 私の敵を取ってくれました! 大好き」

「はははっ、つい熱くなってしまった。でも、娘に良い格好をできたからよしと考えますか」

「お父上、凄いです。ジークを倒してしまうなんて」

「流石に東の海上将軍が負けるのは、癪だからな。だが、セフィリア嬢と良い、このゲームと良い。本当に凄い。是非にでも、セフィリア嬢をキュピルの婚約者にしてほしい物だ」


 今、何やら凄いことを聞いた気がする。私は、婚約者の意味を考えて内心声を上げる。つまり男の子と結婚するのだ。生前は男性だったのでその意味は、かなり大きい。それと同時に、こんな世界だし、今は女の子だからいつかは。という気持ちもあった。しかし、お父様は――


「駄目ですよ。可愛い娘をそうですか。と渡せるわけありません。セフィリアは、一番可愛い子です」

「お父様、お母様は?」

「リリィーは最愛の人ですよ」


 そう言って、私をきゅーと抱き締めてくれる。少しキツイが、生前にな無く今生手に入れた大切なぬくもりだ。


 ランドルス侯爵が肩を竦めているのを見て恥ずかしくなるが、離そうとは思わない。


「では、このゲームのルールを変えたら、海上戦にも使えるな」

「そういうことになりますね。状況さえ設定すれば、どんな戦場でも使える。更に、サイコロによる確率とは、また運が試される」

「なあ、これ。俺の軍に使っていいか?」

「良いですよ。ただし、特許はこの二人の名義でお願いしますよ」

「分かっている。中央に特許の申請は俺がしておく。特許料は、収入の半分でいいか?」

「構いません。全て、セフィリアの個人資産ですから」

「相も変わらず、もしもの時の備蓄、貯金か」


 私達は、首を傾げた。そして、二人の話し方が最初の時に比べて砕けているために、これが二人の本来の姿なのだと思った。


 そして後日――私たちの考えたゲームは、東の海軍で使われ、その使用料に五歳の子供では使えないお金が入ったとのこと。私はこの世界で買い物をしたことが無い為に、その価値が分からなかった。


 日本の下級武士を思い浮かべてください。領民よりも良い家に住む貴族を役人とでも考えれば良いと思います。

 領主は、江戸で言う一国一城の主と考えて差し支えないと思います。ただ、役職が少なすぎる気もします。


貴族身分は、

王族>/>公爵>>>侯爵>伯爵>/>>>子爵>男爵

といった感じです。公爵から伯爵が主に領主階級で、子爵男爵は役人や軍人階級です。公爵から伯爵の中には、領地を持たない将軍職をする人も要るので大まかな基準です。



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