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理論屋転生記  作者: アロハ座長
第Ⅲ部
51/53

商人相対(前編)

商人メペラとの相対。タイトルが思いつかなかったのシンプル

「お久しぶりでございます。セフィリア様」

「お久しぶりでございます」


 応接間で恭しく礼をして入室してきた二人組に私は、丁寧に礼を返す。彼らはジルコニア家を担当しているウェス商会の商人メペラ様とパライカ様。


「お久しぶりです。メペラ様、パライカ様。最後は去年の冬前でしたね」


 私が彼らと最初の顔合わせをしてから四年と少し。少年と呼べたパライカ様も身長を伸ばし、青年に近い体格だが顔立ちでまだまだ幼さが残っている。それに対してメペラ様も、出会ったときに比べて、更に商人としての貫禄が出ているようだ。ここ数年は、各地へと赴く回数よりモラト・リリフィムに構え、脱穀機を売って利益を上げているそうだ。

 こんな田舎に居座る理由を聞いたら、ここは他にはない珍しい料理がある。とのことで、メペラ様の食いしん坊説が浮かび上がった。

 私たちは、冬前の本の注文と試食のための顔合わせのために年に二、三回ほどしか顔合わせしない。対するジークやお母様は、その倍以上は対面している。


「本日は、砂糖とメイプルシロップの契約ですが、少しお話でもしませんか?」

「それはそれは、中々楽しい雑談になりそうですね」


 楽しそうに目を細めるメペラ様。パライカ様は、ただニコニコして座っている所から今日はどんな料理を試食できるのだろう。と楽しみにしているようだ。


「それでは少しお茶受けを用意させましょう。キリコ、お茶とアレをお願い」

「畏まりました」


 そうして恭しく出ていくキリコ。私達の他にこの場に残されたのは、後に控えるジークとこの場に初めて居合わせるトレイル先生だ。


「脱穀機の売れ行きは工匠会経由で聞いています。売れ行きが落ちているようですね」

「ええ、当初に設けた制限が影響していますが、国外に売りに出しているので特段影響はありません。まあ、欲を言えば領内でも販売促進して貰えると助かるかと」

「分かっています。その対策に制限の限定解除を考えています。現在貸し出している脱穀機の購入して貰い、更に新たな脱穀機を共同購入して貰おうかと考えております」

「まあ、妥当な方法ですね。ただその場合の利点としては新たに販売できる点ですが、欠点としては領主の所有物から離れる点です。所有権の離れた物を管理するのは難しいです。下手に他領地との格差になるくらいなら大々的に国内外に販売した方が良いと思うのですが」


 少し考える。それも有りだ。確かに、それなら販売の幅も広がる。計画を僅かに修正するだけで良いのだが、領主の仕事から逸脱している。

 これはもう商人一人に任せる案件ではない。

 後に控えるジークとトレイル先生に目配せして意見を求める。

 ジークは、好きなようにやればいい。トレイル先生は、任せる。と言わんばかりだ。


「それは、ウェス商会に全て任せてほしい。ということですか?」

「まあ、形式的にはそうなりますね。利益の何割かは商会の方へ流れます」

「事前にウェス商会を調べさせて貰いましたが、少々貴族に肩入れする傾向が強く感じます」

「まあ、その方がお金を稼ぐ上で、効率的だからですね」


 さも当然と言う感じのメペラ様は、商人としての姿勢は間違っていない。

 だが貴族へのパイプが強く保とうとする姿勢は、私の理想とは相反する。庶民向けの私の思想とでは客層が違いすぎる。だからトップを変えるのだ。


「では、メペラ様。商人として私に肩入れをしてくださいませんか? 以前と同じ当家専属となって頂きたい。そして商会を立ち上げたい」


 こう言う場合に備えた意見をお母様から聞いていた。

 お母様から貰った策。それは、相手を取り込むこと。私がトップとなり考えを変える。お母様から頂いた策だ、良い結果を生んでくれることを祈る。


「中々豪胆な事を申しますね。以前は、他の商人より守るために。今回は、私を完全に御するために。ですか」


 すっと目を細められる。こちらを見透かされるようなそんな視線に私は見つめられる間、息を止めていた。


「師匠、その顔は駄目ですよ。全く、お茶目が過ぎるんですから」

「一度、こう言う体験も貴重だと思いまして」


 細められた目は、普段の顔に戻される。緊張感や威圧感は、商人としての技術なのだろう。一種の交渉術。言葉の要らない交渉。


「セフィリア様、以前にも申し上げましたが、商人はどこかに所属したりはしない。それはその貴族が倒れた時に潰しが利かないからです」

「はい、すみません。愚問でしたね」

「ですが、一つ提案があります」


 今度は楽しそうな表情を変える。悪戯をする子どものような少し悪い笑み。


「私に投資してみませんか?」

「……投資ですか?」

「ええ、私が今までの伝手や実績を使って新しく商会を設立します。ですがそのための資金は一商人の私では確保できません。そこで、セフィリア様個人が資金を出していただいて私が経営する。純利益の何割かを毎年セフィリア様の元に行く。というのはどうでしょう」


 私はこの提案に驚いた。

 メペラ様の言うことは、ジルコニア家の専属商人になるのではなく、私のヒモ付きで自由裁量のある商会を立ち上げるのだ。

 それぞれには、メリット、デメリットがある。前者は、特定の貴族との直接的な取引がある一方。共倒れになる可能性が高い事と自由が制限される点。だがこの利点欠点は、メペラ様は完全に意味が無い。

 メペラ様は、商人としての自由な交易を求めている。

 関係で言えば、私は株主でメペラ様が社長だ。だが世の中ままならないことだってある。


「それは、絶対に儲かるという自信があっての事ですか? 私に出資を求めると言うことは生半可な覚悟ではありませんよね」

「生半可。と言われますと商人ですから金儲けに糸目はつけないつもりです。ですが、私の目的は違う。まだ見たことの無い商会の形を見たくなったのですよ。自分の手で」


 突然の一人語り。私はそれを黙って聞く。


「ウェス商会は、確かに大きな商会です。ですが、私みたいな一介の商人がその組織に染まるのは一年いればいい。組織の目的は金を使って繋がりを作り、金を使って金を集める。金だけを回して、権力者に媚を売る。

 私は商人の子どもであり、それが正しいとも思っていました。ですが、セフィリア様に感化されてか、権力者だけが商売相手じゃないんです。普通に万民に対して窓の開けたお店。それだって歴とした商売だ。だから、自分の手で起こしてみたくなったんです。貴族に媚びを売らない。下から支える商会を」


「……分かりました。その理想に嘘偽りはありませんね」

「まあ、大きな理由は、もうひとつ。ここの食材と料理は美味しい事ですね」


 テレ隠しでもするように付け加えられた言葉だが、私はどちらの評価も嬉しい。


「分かりました。それでは出資するにあたっていくつがの条件を提示させて頂きます」

「はい」

「一つは、組織の頂点は私ではなく、お母様を名義に。やはり私は商人相手の直接交渉では勝てないと分かりました」


 先ほどの細められた目と妙に響く声には、流石の私も息を詰まらせた。あんな交渉を毎回出来るのなら凄い事だ。交渉事はお母様が適任だ。それに、貴族を排斥した商会のトップが貴族ではお話にならない。


「確かに、私もあれを初めてやられたのは、ジークフル殿とリリィー様を二人同時にした時でしたね」

「えっ……」


 背後を振り返れば、ジークは素敵な笑みを浮かべている。こんな身近に威圧感を醸し出せる人がいるとは、それも二人。


「ごほん。すみません、うろたえてしまって。えっと、もう一つの条件は私を雇ってください。もちろん、立場はメペラ様の下でお願いします」

「ほう、それは対外的に貴族も雇う商会。という形式になりますね。ですが駄目です」

「何故ですか?」


 私の考えた構想は、私という貴族を雇う商会。つまり、知識を持て余した高等教育を受けた貴族も雇えるように前例を作っておく事だった。


「領民に示しが付きませんよ。それに私の下に居ては、軽く見られてしまいます。領主は何物にも靡かずに構えていなければなりません」

「ですが……」

「ですから、偽名と偽の身分で登録します。身分も貴族ではありませんが、幾つかの実績を作ればいいでしょう」


 こちらを見てくる。商会を立ち上げるにあたっての目玉商品のアイディア開発を求めているのか。


「そうですね。まあ、それはお茶受けでも食べてから考えましょう」


 私達が話しこんでいた為にテーブルに置かれたお茶は既に冷めている。それを飲み干し、ジークが新たに注いだ所に、キリコが今日のお茶受けを持ってきた。


「今日のお茶受けは何も説明なしに食べてみて下さい」

「中々の自信ですね。では、頂きましょう」

「では、頂きます」


 目の前の菓子。プリンとモチ。この前作った物だ。

 二人が容器を持った瞬間、表情に驚きの色が見える。やはり、分かるか。

 メペラ様は舌で転がす様に味わい、パライカ様はどんどんと食べていく。

 

「甘いですね。こっちの容器に入った物は、卵を使ったものだと分かりますが、こっちの白い食べ物は、何を使っているのか分かりません。牛乳の風味があるのは分かります。ですが、それ以前に、冷たい食べ物が美味しいとは」

「するする食べられますね。冷めた食べ物は美味しくないのに、これは美味しいです」


 これはレーアの事前に作りだした氷で冷やしてある。元々冷凍技術のない文化だ。保存は乾燥、燻製、地下の一定の日光の当たらない場所。冷やす環境はない。


「……セフィリア様、これは何をしたんですか?」

「メペラ様の耳には届いていると思いますよ。街道整備に魔法を導入したことについて」

「ええ、確かに工匠会経由で聞いていますが、まさか……魔法で冷やした」

「はい。夏場には、売れるでしょうね」


 微笑めば、メペラ様はにやりと笑う。やはり売れると確信しているのか。


「工夫が必要ですが、行けるでしょうね。それで、この白い食べ物は何で作っているんですか?」

「じゃがいもです」

「……じゃがいも……これが」


 今まで余裕を持って驚きも一瞬だったメペラ様が今日一番の目を見開いている。


「メペラ様、実績ついでに他にも領内に広げて貰いたい物があります。どうか、尽力お願いします」


 私は、固まったままのメペラ様にそう言って頭を下げた。

前編。時間が開いてすみません。少し体調不良でした。

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