領主・ダイナモ・ジルコニア
別に領主の紹介じゃありません。
私は、モラト・リリフィムを預かる領主・ダイナモ・ジルコニアだ。
このモラト・リリフィム領は、グラードリア王国の食糧庫と呼ばれているが、領民の実情は厳しい。王国中央に位置する王都へ小麦を送り、自分達は、安い雑穀を食べて生計を立てている。白パンなんて夢のまた夢。実情は硬い黒パンだ。更に近年は、農作物の不作が局地的に続いており、それの原因を調べるために私は城より三日ほど掛かる農村へと足を運んでいた。
村人や村長とは、顔見知りであり、快く出迎えてくれる。去年は、この村が不作で悩まされていた。
「領主様、ようこそいらっしゃいました」
「ジム村長、ごきげんよう。今日は、農作物の状態を見に来ました。どうですか?」
「それが……今年もあまり良い状態ではありません。畑を休ませて翌年の実りに期待したいのですが、そうすれば、我々の食が危うい。仕方が無く作っている状態です」
「やはりこの村も芳しくない様子ですね。来年か再来年には予算を組んで、各農村の休作地を増やせるように穀物を輸入します」
「ありがたいことです。ささ、立ち話もあれですから中に」
私は村長宅にお邪魔になる。村長家族にも出迎えられ私は、頬が綻ぶ。それからは、家畜の様子などを詳しく聞いていた。
「大分話ましたが、やはり明確な解決策はありませぬな」
「はい。話は変わりますが、領主様の御息女は、もう五歳になられたのでしたね」
「ええ、毎日飽きずに、トマトと本とで睨めっこです。少し女子としての自覚が薄いんですね。服や装飾品には無頓着で」
「それは、領主様に憧れているからでしょう。私の息子も小さい頃は私の背中を追いかけ、持てない鍬を引き摺って背伸びをしたものです」
「初めての子どもで驚かされてばかりです。言葉の覚えが遅いので心配したのですが、急に本を読みたいと言ったので童話を渡せば、辞書が欲しいと言ったり、近くの村に行けば、畑と森の土、そして動物達の通った後を追いかける。不思議な行動をとります。まあ、生まれて初めての城の外だったので仕方が無いのかもしれません。
でも友達もできましたよ。ラムル村の村長の娘・ダリアです」
私が苦笑気味が笑みを浮かべてジム村長と談笑を続ける。
「そうですか、面識はあります。二人並べばさぞ微笑ましいでしょう」
「ええ、帰り際にダリアが泣いてセフィリアに宥められていた程です」
「はははっ、あの村では、同年代がダリア一人だから嬉しかったのでしょう。セフィリア嬢も同様に」
そうジム村長は言うとおり、セフィリアの瞳は確かに楽しそうだった。帰り際には、別れを惜しんだダリアを抱き締め、宥めるなど子どもらしからぬ行動には毎度驚かされる。
更に驚いたのは、乾いた鶏の糞と森の土を持って帰りたいとお願いしてくる。そんなもの何に必要なのか分からなかったが、娘のお願いを聞いてそれぞれ麻袋を計十個は持って帰ったと思う。
その後、それを家庭菜園の土に混ぜたのだから、驚きだ。
「悩みとしては、ラムル村で娘が森の土や鶏の糞を持って帰りたいと言いました。可愛い娘の頼みなので聞きましたが……」
「教会の教えですか? 我々農民にとっては、どうでもいい物です。ですが信じている者もおられます」
教会の教え、の一つに蝿は不浄な存在とし、王家の紋章の兜や三大貴族の共通紋章の二股の矛などは、神聖な物とする考えだ。農民にとっての五穀豊穣を司る蝿は、不浄ではないながらも決して近付きたくない虫ではある。セフィリアは、子どもながらにそう言った知識が無いのだからそう言うのだと思う。
「まあ、実際に蝿は死神とする教会だが、事象が逆だと思うのだよ。人が死ぬから蝿がたかる」
「そのあたりは私は学のない農民。しかし、死神とは大仰な。と思いますよ」
そう言って私達は、色々な話をした。村長の子育ての体験談、野生の蜜蜂からはやはり蜂蜜が取るのが危険なこと、森の猟師の話によると森の実りである木イチゴやキノコがおいしいこと、最北の村長が貧しいと呟いていたことなど、多くの事を聞いた。
ああ、この話をセフィリアにしてやれば、どれほど目を輝かせるのか、今から帰りが楽しみで仕方が無い。
割と早いペースで書いてるつもりですが、そのうち失速するかもしれません。