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理論屋転生記  作者: アロハ座長
第Ⅱ部
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新人侍女

 ゆっくりと時間を掛けて馬車に揺られて帰ってきたモラト・リリフィム。道中、村々へ挨拶して近状報告を聞いてきた結果は、今年も滞りなく種蒔きが出来たと言うことだ。

 帰りは、一人多い、それも褐色肌の南方出身者だが人々はレーアの事を受け入れてくれた。ただ魔法の事は話していない。まだ時期ではないと判断したからだ。

 そして午前の今いるの場所は、ラムル村。城に至る最後の村。


「こんにちは村長さん。お久しぶりです」

「セフィリア様、お越し下さりありがとうございます」

「ダリアは元気かしら?」

「はい、セフィリア様が一か月留守にすると聞いて、手紙を出せないと嘆いておりましたが帰ってきた時に多くを話せるようにと頑張っております」


 村長の顔は、昔見た疲労の色は見えず、がっしりとした体躯に活力が見える。ダリアの身売りの話が無くなったことは手紙で良く知っている。


「そう、楽しみで……「フィリアちゃんが帰ってきたってホント!」……」

「こら、ダリア。セフィリア様の前ではしたない」


 父親に窘められるダリアの姿に苦笑が漏れる。


「大丈夫です。今は、領主ではなく友達として接してください」

「ですが……」

「構いませんよ。ダリア、ただいま」

「お帰りなさい、フィリアちゃん」


 小さい頃から何度か顔を合わせているがダリアは、成長期なのか私よりも頭一つ大きく、胸も立派に……服の中に窮屈そうで。実に悲しくなる、何が? 最近こう、どうしようもなく切ない時があるな。


「どうしたの? フィリアちゃん?」

「いや、ダリアも成長しているのね」

「まあ、お母さんやお姉ちゃんも大きいね。身長とかまだまだ伸びそう」


 そう、胸は無くても、胸は無くても、胸は無くても。暗示をかけ続ける間、背後から生温かい視線を感じる。お母様たちは私の葛藤が分かるようだ。


「そうだ、ダリア。紹介する人が居るの」

「えっ!? 王子様! 男性! 恋の季節」

「何故、そうなりますか? いえ、女性です。今度当家に仕えてくれる新人の侍女・シャレーアです」


 シャレーアを招き、ダリアと対面させる。

 小柄な体のレーアと頭一つ大きいダリアが並ぶと見上げるようになるレーア。


「……シャレーア。よろしく」


 見上げるダリアを見つめるレーアが淡々とした口調でぽつりと一言。


「可愛い」


 そのまま、早業でぎゅーと抱き締めている。


「あうっ!? ひゃっ!? な、何?」


 普段はどんな時でも平坦な声のレーアが可愛らしい声を上げる。


「可愛いっ! 見上げて、ちっちゃくてレーアちゃんリスみたい。肌もリスの茶色っぽいし! 何かな!? くるみとか食べるのかな!」

「……フィリア様、た、助けて」

「仲良くなって良かったわ」

「……」


 こう言う時、何もできない事を私は知っている。だから知らん振り。

 助けが来ないと悟るとレーアはそのまま流れに身を委ねる。ダリアって小動物系が好きなのね。ちょっとあの中に入りたい気持ちがある。うらやましい。けど、男だった時の抵抗が。


「ダリアへの感触は良いみたいね」

「……うっ」


 いきなり抱きつかれて抱き締められた恐怖か、涙目になりながら私の背後に隠れる。これもこれで可愛らしい。


「ううっ……レーアちゃん、私の友達になってくれない」

「レーア、彼女は私の友達なの。機嫌直して」

「……わかった」


 私の背後からするりと抜け出すレーア。今度は落ち着いた対応でダリアと共に話をする。最初は、先の出来事でレーアの動きが硬かったが時間を経て、柔らかい物に変わる。

 三人集まれば、かしましいとはよく言ったものだ。本当に話が尽きない。午前に到着してから正午近くまで延々と話をしていた。

 そして、ある話に差し掛かった。


「フィリアちゃん、私ね。どこか商人の所に行きたいと思っているんだ」

「えっ……でも、村の状況は良いって」

「うん。私ね、フィリアちゃんとのお手紙のために文字を勉強して薬師のオババの所で他の知識も学んだの。それをもっと伸ばしたいの。学術院って場所に行くんじゃなくて実践的、どこかの商人の弟子にでもなろうと思うんだ」

「でも……それじゃあ、手紙が」


 そうだ。このラムル村と城の近い固定の区画だから円滑に手紙が届くのであってそれ以外の場所では安全に届く保証はない。


「大丈夫。私、まだどこの商人かは決めていないけど、きっと手紙送るから。家族とももう相談してるんだ。離れるけどきっと大丈夫」

「……フィリア様。ダリアを侍女でも良いと思う」

「……?」

「……ダリアも侍女になる。ここから城、近いなら家族と会える」

「そうね。それが良いかもしれないわ。わざわざ遠くに行く必要はないわ! 私だって友達と離れるのは嫌だもの!」

「で、でも、なれるの? 領主様の侍女って、選定に厳しくない」

「問題ありません。当家の侍女は、身分問わず同じ水準の行動をできるように教育を施すだけなので」


 何時の間に現れたキリコにびくっと身体を硬直させるダリア。ああ、たまにジークやキリコって気配なく現れるのよね。これも執事長と侍女長の特殊能力と思ってしまう程に。


「でも、お父さんは……」

「その辺は大丈夫だ。お前が家を出て外を見たいって相談した時から了承している。むしろ、その方が良いと思う」


 キリコの後ろから草を踏んで来る村長。その隣にトレイル先生も来ていた。


「俺は、遠くへ行っちまうよりセフィリア様の侍女になってくれた方が安心する。それに学術院の学士さんからも色々学べるだろう」

「あっ……トレイルさん」


 そう言えば、度々、馬を拝借して農村に出かけていたと聞いたが、ラムル村だったとは、世の中どこでどう繋がるか分からない。


「ホントに、本当に良いんですか? 私なんかが」

「ええ、私達ジルコニア家が歓迎します。ただ出発は今日になります。今すぐに荷作りと挨拶よ。午後に出て、夕方には城に着く予定です」


 感涙を目尻に貯めたダリアは、そのまま大きく頭を下げて、村長とトレイル先生を連れてに村を掛けていった。トレイル先生は、農村部で結構顔も広く信頼されているからなのだろうか、説明をして回っている。

 残された私達がその後ろ姿を見ながら語る。


「キリコ、ありがとう。友達と一緒に居られるわ」

「いえ、私はあくまで事務的に選別しただけです。理由としては、新しい侍女を教育しておく必要がある事とセフィリア様専属が必要になったからです」

「……私が専属」

「そうですね。シャレーアとダリア。二人が専属です。最近、人手不足感が強くて、新しく雇う予定でしたのでちょうど良い機会です」

「そうだったの、ごめんなさい。私がそういう人を雇用する立場なのに」

「いえ。その雇用に当たる判断はダイナモ様の頃より我ら執事長と侍女長が一任しておりました。彼女たちは、下級の貴族か農民の出です。皆には、休暇の帰省費用も負担しておりますし、帰る度に村の近状が良くなることを聞いているので意欲は高いです」


 そう、と私はホッとする。私の領主としての行動が身近な人に認められ、付き従ってくれることを聞けて良かった。

 それから軽い昼食を挟んで、ダリアは、無骨なかばんにパンパンの荷物を持って家族と共に待っていた。


「お父さん、お母さん、お兄ちゃんたちに、お姉ちゃんたちも。私頑張ってくる」

「ああ、偶に帰ってくるんだぞ」


 そうして一人一人から挨拶を貰っていた。別に涙があるわけじゃないが、微笑ましい光景。

 ダリアとレーアは、城に着くまで最低限のルールやマナーを覚えるためにキリコと一緒に同乗している。ダリアも表情を引き攣らせていたが、キリコはそんなに厳しくない。現にレーアはキリコに懐いているのだ。

 午後に出発した馬車二台は、夕方前に無事城に到着した。

 馬車を降りたときに見たダリアの表情はやや疲れ切っていたが、キリコとの距離感が縮まったような気がする。


「「「お帰りなさいませ!」」」


 城に残って業務に当たっていた執事、侍女たちが出迎えてくれる。城の様子も出る時と変わらず、やっと帰ってきたと実感できた。


「どうですか? 我々が不在の間何か問題でもありましたか?」


 キリコが私より先んじて業務に当たっていた者たちに尋ねる。


「はい。マニュアル通りに勧めたのですが、幾つか我々で捌ききれない内容がありました。明日にでも纏めて提出します」

「そうですか。我々の今回の遠出で得た物についても明日にしましょう。今日は、新たな仕事の仲間を紹介します」


 そう言って今まで、誰だろうと期待の視線を集めていた二人がキリコの手によって紹介される。


「この二人は、明日より侍女としてここで務めるダリアとシャレーアの二人です。扱いは、侍女見習い。そのうち、セフィリア様の専属侍女として働いて貰います」

「ダ、ダリアです。よろしくお願いします」

「……シャレーア。長いならレーアで」


 二人の簡潔な挨拶と共に、僅かな沈黙。突き刺さる視線の数々、それを破るのは侍女たちの黄色い歓声だった。


「何!? 新しい子!」「うわぁー。可愛い子」「肌が褐色なんだ!」「わぁーすべすべ肌。若いって良いわ」「ねぇ、新しい服作って着せかえようよ!」「そうね! 胸も大きいけど、服のサイズがあってないもの」「侍女服の新調のついでに何着か作っちゃおう!」「「「オー!」」」


 侍女全員に囲まれ、おしくらまんじゅう状態。先ほどダリアがレーアにやったそれとは比べ物にならない程。

 私がキリコの顔を覗きこんだら、どこか遠い視線だった。そして一言ポツリ。


「すみません。これがあなた達新人に課せられる最初の仕事なのです」


 後で知った話。最近の侍女たちは、新人が入らないことで新しい弄り相手が無く、今までの相手も耐性が出来たので詰まらなかったらしい。定期的に新人侍女を投入しての発散は、今後私の認知するところとなった。


「ごめんなさい。ダリア、レーア。私は領主なのに止められそうもありません」


 そう言えば、私は一度も侍女たちに揉みくちゃにされたことがありません。


侍女たちだって人間なんです。可愛い新人を弄り倒したいんです。

大きな問題はないです。一か月の不在で溜まった案件の消化タイムに入ります。

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