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理論屋転生記  作者: アロハ座長
第Ⅱ部
44/53

地方教会(中編)

簡単な教会案内。教会と学士が口論しちゃいます。

「それで……反教会派の学士であるトレイル殿はどうしてこの場に?」

「雇われ主の意向だ。そう言う地方派の教会だって、司祭一人で今までやってきたのか?」


 互いに声に皮肉と嫌味と敵意を込めて会話するために周囲の空気がどんどん重くなる。

 今見ている場所は、教会に来た人への治療室。簡素な椅子が二脚と机、そしてベッド。棚には、サラシなどが置かれているが医薬品や医療器具の類はない。

 そんなヒヴィー様を見てコーラス様が諌める。


「失礼しました。ここが治療室です。治療はこの錫杖の神法を使って治療します」

「どのように治療し、どの程度効果があるのですか?」

「治療法によって使う神法が変わります。基本はどこを損傷しているのかを見るために祝福を掛けてから、判断します。ここで試しに祝福を受けてみますか?」


 私は肯定して、簡素な椅子に座る。その対面の椅子に座るヒヴィー様、そして錫杖をとん、と床に付くと、足元から仄かな青い燐光が立ち上る。

 それが下からじわじわと上り、頭の天辺まで登った時、ふっと燐光が薄れて消える。


「はい、終わりです。身体に異常はありません」

「こうも簡単に終わるのですか?」

「ええ、と言っても感覚的な物でどの部分が悪いのかが分かる程度です。キュピル様が風邪を引いた時は、大体身体全体が薄く広く悪いですね」


 薄く広く、ということは熱の上昇箇所の感知だろうか? それとも、その症状に合わせて個別で判断するのだろうか。ここは、本当に感覚的な物ならば、『不調』に対して反応すると考えた方が妥当かもしれない。


「ついでですので皆さまも受けていきますか? 健康維持のために定期的に受けることをお勧めします」


 その勧めに、もちろんトレイル先生は載らない。

 キュピルくん、お母様、コーラス様と続く。コーラス様は一応は不調があるもののそれは神法ではどうしようのない物で生命維持に関して問題ないとの事。ここは踏み入った話を聞けばより神法のルールが分かるのだが、仕方が無い。

 そしてジークが受ける。結構な歳のために私は心配したが、至って健康らしい。そしてジークは安心と共にこう答える。


「まだまだ現役、死んでなどおられませぬ」


 と、皆から苦笑を貰う。だが、問題はその後、ランドルス家の執事に問題が見つかった。


「胃が悪いようですね。結構仕事で疲れてませんか?」


 その反応は、もう現代社会人のようだった。母子の扱いが冷たい、妻が両親と不仲など聞くに堪えない。それをただ相槌を打っているヒヴィー様は、差し詰め医師兼カウンセラーのような相談だろう。教会には懺悔室があったので強ち人の話を聞くことが目的ではここもその一つとなっているようだ。

 そう言って、ヒヴィー様は、その執事さんに治療を施す。と言ってもさっきの燐光が赤に変わり、鳩尾の辺りに吸収されていくだけの違いで見た目的な大きな変化はない。


「はい、終わりです」

「これで終わりなのですか!? もっと大きな変化があると思っておりました」


 私の驚きに微笑一つ返し、答えてくれる。


「怪我によっては時間の掛かったり治りにくいなどあります。まあ、治ると言って応急処置程度のものもあります」

「そういう部分は、柔軟に医者との連携が必要なんだがな」


 溜息交じりでトレイル先生が呟く。

 それを売り言葉と捉えたのか、買い言葉を投げかける。


「医者がどれほど高いお金を取るか知っているのですか? あれほど汚い職業は無いですよ」

「ほう、それじゃあ大本。教会派の聖刻入りのインゴットはどうなんだ? 俺にはあれほどアコギな商売は無いと思うぞ」


 ヒヴィー様が教会を正当化しているのに対し、トレイル先生は私の聞いたことのない内容を口にする。


「あの……」

「なんだ? セフィリア」

「今の話で分からない事があるのですが。どういうことですか?」

「それはな……「止めなさい。幼い子供の前で話す内容じゃありません!」……」


 トレイル先生の言葉を遮るようにしゃべるヒヴィー様。それをトレイル先生は、にたにたと笑い、手で口元を隠している。


「子どもだからなんだ?」

「子どもに話す必要はありません。キュピル様にセフィリア様。いたいけな子どもに邪な事を教えてはいけません」

「それはそれは……邪な事ってのは教会の行っていることか?」

「……っ!?」

「幾らあんたらが教会派、地方派と別れようと、俺から見れば一括りに『教会』って組織なんだよ」


 苦々しい表情をするヒヴィー様とそれを見て周囲の大人たちの表情が抜け落ちる。他の皆は何時にも増して敵意を剥きだしているトレイル先生を黙ってみている。


「セフィリア、教会には二種類の派閥がある。一つは教皇を中心に信者数を増やそうとする教会派。もう一つがこの教会などの生活に即した地方派だ」

「宗教で信者を増やそうとするのは当然ですよ。それに生活に即した事をしてくれるなら喜ぶべきです」


 そう、字面を読みとるならそうだ。私の一言にヒヴィー様は無表情ながら小さな溜息を吐き出した。だが――


「でも、そうではないのですね。強引な手段を使ったり例えば『強制改宗』とか」


 息を呑む音が聞こえた気がする。トレイル先生の目には、流石だな、と感心した色合いが見てとれる。


「セフィー。強制改宗って何?」

「信じる宗教を無理に変える事よ。例えば、モラト・リリフィムの一部では、まだ豊穣の神の信仰が残っているんだけど、教会ではその神様を悪魔や悪しき者って言うの」

「うん? 神なのに悪魔」

「難しいよね。価値観の違い。だから強制改宗ってのは、その崇める物を取りあげちゃって新しい神を与える事なのよ」


 ちょっと寂しそうに呟く。生前の世界、キリスト教はそうやって数多くの信仰と人の命を奪ってきた。別に寛容になれば良い、価値観を認めれば良いのに、それが出来なかったのだ。


「……たしかに、そのような歴史もありました。ですが人々は過ちを繰り返します。だから教典の通りに過ごせば皆、教祖と同じ場所へと辿り着けるのです」

「薄っぺらい言葉だな。反吐が出る」

「トレイル・ノレー! あなたと言う人はどれほど教会を愚弄すれば気が済むのですか!」


 激昂するヒヴィー様に対し、挑発したトレイル先生は面倒くさそうに目を細める。


「なあ、教典ってどこまで信憑性があるんだ。教えてくれよ、司祭さん」

「汝、父母を愛し……「違う違う、そんな道徳的な答えじゃない」……」


 視線だけで殺せそうな程にトレイル先生を睨みつけている。

 その様子に気が弱いのか、ランドルス家の執事さんは、顔を真っ青にしている。ごめんなさい、胃に負担を掛けてしまい、と内心呟く。


「俺が聞きたいのは、何故畑を休ませなければいけないのか、何故不浄が蔓延すれば病気になるのか、そう言った科学的な答えだ」

「それは、使い続ければ畑の恵みが減り、農作物の収穫が減ります。不浄が蔓延するから病気になるのです。だから教会は火葬による浄化を行っているのです」

「そんな言葉じゃ答えになってない。むしろ、俺はセフィリアにその答えを教えられた。確かに教会の経典には、経験則的な事が書いてある。だが誰もその理由を説明してくれない! 

 教会が神を崇める。更にその上位には創造主が居ると来た物だ! 誰も見たこともない想像の存在を俺は信じられない! そもそも、創造主が人を創ったって与太話の前に、人が創造主って幻想を作り上げた方がよっぽどリアリティがある。

 無から有は作れない。人は妄想を膨らませることが出来る。本、劇、歌、詩。そのどれもが人の創作物『文化』だ! 神も即ち文化だ!」


 長い演説を終えたトレイル先生は意地の悪い表情を浮かべているのに対してヒヴィー様は、激昂寸前だ。


「あなたは……我らが信徒を侮辱するにも程があります!」

「じゃあ、聞くが『フェンミルスの鉱山』はどうなんだ? 教会は彼らの信仰を侮辱してるじゃないか」

「っ! ……あれは関係ないです!」

「そう言い切れるのか? 本当に、客観的に見て!」

「はい、神の名の元に!」

「既に神とか言ってる時点で主観的だろ!」


 泥仕合、いや子どもの喧嘩のような様相になり始めてきた。学術院の鬼才トレイル・ノレーは、たしかに対教会用の知識を大量に仕入れている。ただしゃべるとクールなようで意外に熱くなってしまうのが分かる。

 もう、目の前で何度も何度も互いに譲らない。


「あんた達! いい加減にしなさい! 子どもの前でみっともないでしょ!」


 はい、コーラス様がついに怒りました。見ていて結構面白かったのですが、お開きのようです。

 ついでにお母様も鎮圧。もとい諌めに入ります。


「トレイル先生? あなたは子どもの前で何やっているんですか?」

「い、いや、リリィー・ジルコニア。これは俺に譲れない……」

「言い訳は要りませんよ。あまり見苦しい事は言わないで黙ってください」

「だが……」

「黙ってください」

「……」


 お母様も珍しく怒っています。流石大人の威厳があります。それを見てほくそ笑んでいたヒヴィー様もコーラス様に連続で説教を受けておられます。

「二人とも、正座!」

「はい」

「分かった」

「いい、あなたたち。大の大人二人が子どもの前で何喧嘩してるんですか」

「すみません、聖職者としての自覚が足りませんでした」

「面目ない、教師として思慮が浅かった」

「全く、私の可愛い甥と可愛い客人を持て成すために来たのに、何雰囲気悪くしているんですか!」


 コーラス様がご立腹。お母様も頬に手を当ててあらあら、と微笑んでいるが、目がうん。怖いです。

 後では、ランドルス侯爵家の執事は胃のあたりを押さえて顔真っ青、ジークはそんな彼の背中を摩っている。

 私達は、そんな保護者に戦慄し、互いに手を繋いでいる。いや、私は無駄に喧嘩しないけど、やっぱり怖い物は怖いです。

 ほら、キュピルくんなんか、私の手をがっちり掴んでいるし。


「それじゃあ、私は、ヒヴィーと学士さんの説教続けるから、二人とも着替えてきて」

「分かりました。それでは、楽しみにしてください。コーラス様」

「ええ、互いに楽しみましょうリリィー様」


 そして保護者達は、私達に楽しそうな視線を向け、それぞれ別室に連れ去って行く。何かされる訳じゃないけど、説教のあとの連れ去りは怖い物がある。


 まあ、大丈夫だ。少し時間が経てば皆殺気だった雰囲気は落ち着くだろう。

 

口論の結果、親が強いです。

実際最後まで口論続けさせると際限ないし、雰囲気悪いままなので、途中で親の介入。

次回は、擬似結婚式。やりたいな、と思います。

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