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理論屋転生記  作者: アロハ座長
第Ⅱ部
41/53

スパイスのある日の料理

お久しぶりです。休み中は、殆ど書かずに寝て、読専で過ごしました。御蔭で少し気が抜けてしまいました。

 私の目の前に取り揃えられているのは、すり鉢。薬草を調合する時に使うのが殆どだが、今回の用途は薬を作る訳ではない。

 とは言っても、漢方だって薬だ。山椒などの調味料スパイスは、漢方薬の原料の一種とされている為に道具の使い方は間違っていない。他にも同様のスパイスは存在する。


「……フィリア様。なにしている」

「届くはずのスパイスを待っているのよ。そしたら、スパイスの調合をしましょう」


 今隣にいるのは先日、ジルコニア家へと奉公に来た少女・シャレーア。愛称は、レーア。年が近い為に彼女には、フィリアと愛称を呼ばせている。

 最初は渋るのだが最後には、彼女の方が折れた。

 彼女は今、当家の侍女服を身に纏い背筋を正している。キリコ、ジーク共々ここ数日の教育で立ち振る舞いだけは、侍女になっている。

 また褐色の肌に空色の瞳、フードに隠れていた銀髪は、とても目を引く。将来は美人になるだろう事が予想できる。

 ただ侍女の技能はまだまだこれから。今飲んでいるお茶の味は、渋さが出てしまっているがここは表情一つ変えずに普段通りに飲んでいる。


「今晩の食事の一品を私たちが用意する予定なんだけど、スパイスを使ってどういった料理にする?」

「……スープ。辛い豆のスープ」

「それはどういったスープ?」

「……豆のスープにスパイスを入れて煮込む。おいしい」


 要領の得ない説明。彼女は、余り口数が多くない。そして喋る時、一瞬考える節が有る。そのために説明は得意ではなさそうだが、一歩引く姿勢や必要最小限をこなす姿は、侍女と言う存在を考えれば美徳となりえる。

 まあ、現在はその説明不足に若干困っているが、実際にやったことを紙に纏めればいいだろう。


 ほどなくして届く各種スパイス。と言っても、多くはない。いや、余りに多過ぎたのだ。私が生前の世界で聞くスパイスは数種類あったが、それ以外でも数が多い。そこでレアに必要なものだけを教えて貰った。まあ、それでも多い。

 ターメリック、ハラペーニョ、カルダモン、パプリカ、コリアンダー、サフラン……もう覚えられない。

 そのほかにもお菓子作りに使えそうなスパイスとして、シナモンは私個人の物として別に保有してある。


「始めましょう。ゆっくりと教えてくれる?」


 了承の意味で頭をこくん、と頷くレーア。それからレーアは、一つ一つ確認するようにスパイスを瓶から取り出し、すり鉢で均一に混ぜていく。

 一つ一つ、丁寧に。分量をきっちりと測り、紙に記す。こういった料理のレシピは重要だ。画一的な味を出す為には必要なのだ。

 確認に手間取り、出来た時にはもうお昼。昼食を挟んで、今度は私もレーアに指導してもらいながら調合を遣っていく。


「……混ざったら、次を入れる。それで終わり」

「結構力が居るのね。腕が疲れたわ」


 手をぶらぶらさせて、一度力を抜き、最後の調合を終える。

 それを新しい瓶に入れて分けておく。うん、混ざり具合は多分丁度いいはずだ。

 それからは、調理場の一角を借りて、キリコと共に南方の一般料理をレーアから指導を受ける。


「……豆は、適量のお湯で茹でて柔らかくする」

「出来ましたわ。それからどうするのですか?」

「……茹でたお湯にスパイスを入れるだけ」

「それだけですか? 他には、何か入れないのですか?」

「……」


 キリコが言いたい事は、分かる。説明が短く料理と言うには少し足りないのだ。だからレーアも何か無いかと考えて、次の言葉を発する。


「……南方のパン。作る?」

「シャレーア、それはどういったパンですか?」

「……薄いパン。それをスープに浸して食べる」


 キリコは、どうやら想像できていないようだ。浸すパンは、硬い黒パンを想像しているのだろう。だから浸す食べた方=硬いパン。それが薄いだから想像できていないんだろう。

 私もイメージとしてはナンの様なパン生地を想像している。これが南方の文化なら、こちら風に改良出来そうだ。


「……薄いパン。南方のパンも普通にパン。だからこっちの丸いパン見て驚いた」

「何か、特別な呼び方は無いのですか?」

「……無い」

「そうですか。作って見なければ分りませんね。シャレーア。私に教えてくれますか」

「……」


 こくん、と頭を下げて了承の意をキリコに伝える。

 キリコとシャレーア。会話は不器用だけどちゃんと意思疎通が出来るようで安心だ。


「……パン。生地を薄く伸ばして、少し置く。少し膨らんだら、生地焼く」

「成程、やっと理解できました。それは殆どピザ生地に近いようですね」

「……ピザ?」

「ピザは、薄く伸ばした生地の上に、トマトソースや好きな具、チーズを乗せて竈で焼く料理よ。丁度いいわ、ピザも作りましょう。今日は大人数だからベーコンとエビの二種類を。レーアも食べたいでしょうし」

「……こっちの料理知らない。教えてくれる?」

「ええ、むしろ、私達と一緒に料理を開発しませんか?」

「……開発?」

「私とセフィリア様で領内の食材で新しい料理を作ったり、既存の料理を工夫しているのです」

「レーアの南方の知識をこのグラードリア風に変えるのよ。そうする事でこの国の人にもスパイスの利いた料理が広まるわ」

「……この国では、スパイスは高価。でも広まってない。何故?」

「主に、宮廷料理や貴族御用達に卸されているのが現状だから、一般には広まっていないのよ」

「……そう」


 あからさまに残念そうに眉を下げるレーア。だから私は楽観的な要素を提示する。


「でもね。新しい羅針盤が完成すれば、航海の安全性が上がるわ。そうなれば南方のスパイスも安く手に入る。それに、私たちで栽培できるスパイスを探しましょう」

「……うん。じゃあ、フィリア様と一緒にやる」

「その為には、頑張りましょう。幾つか試したい料理もあることだし」

「「……?」」

 首を傾げる二人。レーアとキリコに簡単に説明する創作料理。だけど、今回の目的はその副産物にあるのだ。


「材料は、ジャガイモよ。ジャガイモを摩り下ろしましょう」

「セフィリア様? ジャガイモを摩り下ろして何を作るつもりなのですか?」

「すりおろしたジャガイモを生地にするポテトピザやポテトを軽く焼き固めた生地なんてどうかしら? 意外と面白い味になるかもしれないわよ」

「……ジャガイモ。美味しい」

「ええ、ジャガイモは万能です」


 そこからはもう、体力勝負だ。三人で芽を取り、皮を剥き、すりおろす。

 こんもりと出来上がった摩り下ろししたジャガイモの山。それを綺麗な布を取り出し、布で摩り下ろしたジャガイモから水気を絞り出す。いや、むしろ「とある成分」を抽出するのだ。


「さあ、色々工夫しましょう。あっ、この絞った水を残しておきましょう。後で使えるわ」

「……? 白く濁ってる。使えない」

「何に使うのですか?」

「待てば分かるわ」


 それからは、色々作った。ジャガイモの生地でピザやサラダに工夫する。まあ、水気の無いパサパサしたもので失敗だ。唯一の成功は、ジャガイモのスープだろう。スープだから水気があってベーコンの味が出ていて美味しい。

 これは、無駄のない調理工程を考えなければいけない。


 最後に、カレー。私の調合したスパイスに小麦粉を混ぜた物をフライパンで炒める。

 昭和の時代。カレールウという物が無かったので、小麦粉とカレー粉から作ったと言う話がある。

 ニンジンが無かったが、タマネギと摩り下ろしたジャガイモ、海なので貝やエビなどを入れて火を通し、水を入れて一煮立ち、それから即席カレールウを入れる。結果は、トロミは着いたが緩い。これは小麦粉の分量ももっと細かく決めないと生前のカレーにはたどり着けない。だが味はまあ及第点だ。これから必要なスパイスの選択と調合という長い道のりを経て、完成するだろう。やっと一つの道が見えた。


 ここまでの結果は、スパイスという貴重な調味料の御蔭で出来る料理の幅が広がり、調子に乗って、午後の時間を料理に費やしてしまった。

 料理が、豆のスパイススープ、ナン、ピザ(ベーコン、エビ、ポテト生地)、ジャガイモのスープ、スープカレー、と汁っ気が多い。

 本来の目的は終わっていない。


「さあ、ついにこの絞り汁を使うわ」

「何になるのですか?」

「……なにする」

「じゃあ、上澄み出来を捨てましょうか」


 容器の中の水を捨てる。白く濁っていた液も時間が立てば、物質が沈澱し、容器の底に固まっている。


「ちゃんと底にくっついていますわ。これで色々な物が作れるかもしれないわね」

「……何これ?」

「白いですね。小麦粉……ではない白い物?」

「ふふふ、これは、でんぷんよ。ジャガイモのでんぷん。このままじゃあ、使えないから乾燥させて、保管しましょう。今度、これを使って珍しい料理を作るわよ」


 私はとても上機嫌になる。ああ、ジャガイモのでんぷん。つまりは、片栗粉。調子に乗って作って少量だけだが、三回分くらいはある。これで何を作ろうかしら。

 スパイスの時点でカレーを考えた人は多いようですが、カレーは米が無いので、まだ本格始動は先になるかもしれません。

 それより先は、片栗粉です。ジャガイモから抽出です。

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