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理論屋転生記  作者: アロハ座長
第Ⅱ部
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海軍船に乗ろう(後編)

あんまり、新しい改革ネタはありません。まったり進みます。

「欲しい物は――各種スパイスでお願いします」


 ……俺は、子どもの無邪気な笑みの戦慄する。スパイス一つでもかなりの高級品だ。それを各種、となると子どもに与える物の価値を大きく逸脱する。


「セフィリア嬢、流石に、領内に流通させるほどの量のスパイスは用意出来ないぞ」

「えっと、すみません。誤解を与えるような事を言って、料理に使う程度なので、そんなに多くは。せめて各種瓶一本程度あれば……」


 むぅ、こちらの早とちりだったか、だが料理に使うスパイスは大体一種類だ。そんなに数種類も何に使うのだろうか。


「こちらの魚介類も使って新しい料理を試しに作りますので、お楽しみはその時に」


 むぅ、こちらの考えが顔に出てしまったか。だが、スパイスを数種類用意するのは簡単だ。


「では、後日手配をしよう。だが良いのかそんな物で」

「ランドルス侯爵は、スパイスの偉大さを知っていますか? 肉や魚の臭みを消したり、スパイスの香りで料理が引き立つんです。このグラードリアには、調味料は、塩、胡椒。あとは、香草などがあります。ですがスパイスはそれとも違う味わいがあり、きっと内陸の食文化を更に発展させてくれるでしょう」

「そ、そうか……楽しみにしよう」


 子どもの力説に若干押されてしまう。俺の隣にいるキュピルは、目を輝かせてセフィリア嬢の料理の話を聞いている。あまり舌を肥やさない方が良いかもしれないな。

 軍人は、過酷な戦場に赴く。その戦場で普段のような食事を取れる事はまず無い。食事で士気が関わると言うが、逆に上手い料理で舌を肥しているから現状の差に落胆するのだ。だから騎士や軍人の食事は、味を薄くして、量を多くしている。だが改善の余地があるのも事実。


「たしか南方の食文化は、大量にスパイスを使っていると聞いたことがあるな」

「それは本当か? トレイル殿。だが、そんなにスパイスを使う料理とはどのような料理なのだ?」

「試しに南方の人間に作らせてはどうですかな? ここは交易の町。南方の商人もいるでしょう」


 ジーク翁の言葉に俺も悩む。確かに南方の商人はいるが、港で南方料理を売っているという噂は聞いたことが無い。理由としては、やはりスパイスがこちらに来るまでに高価になり、売っても採算が取れないからだろう。


「知り合いに、誰も南方出身はいな……一人、南方の出身者が居たのだが」


 俺はその者の事を思い出すが、会わせて良いものか悩む。


「どうしました? ランドルス侯爵?」

「ちょっと訳ありの子でな……俺としても現在はどう扱っていいか分からないのだ」

「お話を聞いてもよろしいですか?」


 セフィリア嬢は、船が港に着くまでの間に俺の話に耳を傾けた。時折、相槌を打ちながら静かに聞いている。

 話の内容は簡単だ。南方の商業船がこちらに来たのだが、その船に子どもが紛れ込んでいた。商人たちは、良心ある者は、同乗を許し、甲板掃除の見返りに食事を与えていたらしい。

 その子は、祖国から逃げてきた、と言う。南方は貧富の差が激しく逃げてくる子は少なくはない。ここまで逃げてくる人間は本当に極僅かだ。その子はその一握りとなったが、逃げた後は当然身寄りもない。浮浪児だ。

 商人たちからその子を引き渡され、保護した。幸い、その子には魔法兵の資質を持っていたのでそのまま魔法兵の養成教育を受けさせているのだが……


「何分、肌の色が浅黒い。その違いから周囲の嫌がらせが色々とあるみたいだ」


 俺は、子どもの前なのに疲れた溜息を着いてしまう。これは一つの悩みだが、その一つを口に出して話すと大分頭の中で整理できる。


「今は、港の近くに養成施設がいるらしい。魔法兵としての能力は、下の中だ。だから周囲からの風当たりも余計に強いようだ」

「そうですか。少し会わせていただいてもよろしいですか?」

「ああ、構わないが……今から引き抜きか?」

「違います。その子の地域の文化を聞いてみたいんです」


 柔和な笑みを浮かべるセフィリア嬢。なんだかこの少女に南方の子どもを引き合わせれば事態が好転する。そんな予感がする。

 俺達は、ゆっくりと港へと戻り、魔法兵の養成施設へと足を踏み入れる。

 広い楕円形の空間。周囲には、石材を切り出して積み重ねた壁。多少の魔法を受けてもビクともしない作りになっている。そしてその中には五十人ほどの子どもたちが各々魔法を操っている。

 小さな火の玉を投げたり、水を生みだしたり、そよ風が吹いたり、礫でお手玉。その中の一番端フードを目深に被り、ただ指先に火を灯す子どもを見つけた。


「――シャレーア! こちらに来い!」


 教官である厳めしい鎧を着けた魔法兵がその子を呼ぶ。

 周囲の視線がその子に集まる中、その子供はすっと周囲の視線など意を介さずにこちらへと歩いてくる。


「シャレーア。くれぐれも失礼の無いように」


 教官の魔法兵が厳しい言葉を残す。この魔法兵は他の子どもとシャレーアとの態度に差があるのを見て、ここまで深いのかと改めて見せつけられた。


「シャレーア。俺が分かるか?」

「……こんにちは、ランドルス侯爵様」


 平坦な言葉。感情の起伏が乏しい彼女の性格も風あたりの強い原因かもしれない。だがそれはこの子と出会った当初からそうだったのだ。それまでの人生が壮絶なら感情を押し殺す事もあるのだ。


「シャレーア。今日は、お前と話をしたいと言う方が来ている」

「はじめまして、私はセフィリアと言います」

「……シャレーア」


 セフィリア嬢と対面する。未だにフードを深く被り、セフィリア嬢と視線を交えないようにしている。


「シャレーアさんとお呼びしても宜しいでしょうか?」

「……かまわない」

「シャレーアさんは、南方出身という話ですが」

「……本当」

「そうですか。私は、南方のスパイスを使った料理に興味があるのです。料理は知っていますか?」

「……知ってる。少し作れる」


 嬉しそうに目を輝かせるセフィリア嬢。一問一答のような会話を聞いている俺達、男衆としてはもどかしく感じるが、セフィリア嬢は、楽しそうに会話を続ける。


「シャレーアさんは、今の生活はどうですか?」

「……普通」

「食事はどうですか? 美味しいですか?」

「……辛さが足りない」


 やはり食事に不満があったか。一度無理が無い程度に改善した方が良いかもしれないな。


「一緒にお料理しませんか?」

「……無理」

「どうしてです?」

「……ここが私の家。そこを離れられない。離れたら生きてはいけない」


 雰囲気や口調は、暗いのだが、自分の立場を良く理解しているようだ。だが、子どもの口からこのような言葉が出る事はあまり良い事ではないな。と思ってしまう。


「じゃあ、私が衣食住を用意します。でしたら来てくれますか?」

「……」

「ジーク? シャレーアを侍女見習いとして迎え入れても宜しいですか?」

「良いのではないでしょうか。皆、張り切って服を仕立てまするぞ」


 ジーク翁は、楽しそうに顔を綻ばせているので俺は慌てる。


「そんないきなり見ず知らずの人間を招き入れて良いのか?」

「シャレーアはこちらに来て何か問題を起こしましたか?」

「いや、無いが……周囲の人間が」

「そんな、こんなに可愛い娘を苛めるような使用人は我が城にはいません。皆がこぞって飾り立てるでしょう」


 くすくすと笑うセフィリア嬢。いや、だが……と最後に引き止めてくれる事を願ってトレイル殿に視線を向けるが……


「良いんじゃないか? セフィリアには同性の友達が必要だろうし。シャレーアは何才なんだ?」

「……十歳」

「文字は、読み書きできるか?」

「……すこし」

「そうか。ランドルス侯爵。ということだ。一緒に客人として迎えても良いだろうか?」


 全く、ジルコニア家の人間はこうも予想外の事を仕出かす。と溜息とは別に、事態が好転したことへと安堵の意味混じる。

 俺の様子をじっと見上げるシャレーアに対して俺は微笑む掛ける。


「どうした? お前の新しい受け入れ先が出来た。ここみたいに辛くはないはずだ」

「……今まで、ありがとう」

「えっ……ああ」


 フードの下から覗く顔が僅かに微笑みを浮かべる。

 それは感謝の意味、ここまで自分を生かしてくれたことへの感謝の言葉が今までの彼女への後ろめたさを払拭する。


「ああ、セフィリア嬢といい関係を作るのだぞ。それと、一度南方の料理を作ってくれ」


 こくん、と頭が下がる。それは了承の意。ジルコニア家に新たな使用人が増え、ランドルス侯爵の本当に小さな問題が解決した。





新キャラ登場です。無口系、褐色少女・シャレーアです。そして、シャレーアがジルコニア家に加わり、料理ラインナップが更に強化されるようです。

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