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理論屋転生記  作者: アロハ座長
第Ⅱ部
39/53

海軍船に乗ろう(前編)

今回は、お出かけ。初期から考えていたネタをやっと消化。


※感想を受けて若干の修正をしました。

 どうしてこうなったのでしょうか?

 現在、目の前に広がる光景は、綺麗に整列する白塗りの海軍船。その周囲に一糸乱れぬ動きを見せる屈強な男たち。

 時々、走り込みをしている同年代の少年たちとすれ違う。


 ここは、東の海軍船の立ち並ぶ軍施設。今日は見学する事になった。

 事の運びはこうだ。



「すまないが、今日は話を詰めるのは無理そうでな。少し、軍の方に顔を見せなければいけないんだ」

「そうですか、それは残念です」


 朝の席。ランドルス侯爵たちとの楽しい食事も終わり、最後にお茶の一杯を飲んでいる時にその言葉を言われた。


「セフィー。なら、僕とまた軍盤をしようよ。前より強くなったよ」

「こら、キュピル。今日は、俺と一緒に軍を見て回るんだ」

「……」


 とても不機嫌そうにランドルス侯爵を睨むキュピルくん。それほど行きたくないのだろうか?


「では、こうしよう。セフィリア嬢も一緒に見学と言うのは」

「えっ……話し合いが無ければ私は暇ですし構いませんが、よろしいのですか?」


 軍の施設と言えば、重要施設だ。それこぞ、攻める側からは喉から手が出るほどの情報がたくさん。それを私みたいな一介の小娘においそれと公開などしていない。


「正確には、セフィリア嬢とトレイル殿が一緒に来て、幾つか知恵を授けていただければ良いと思っている」

「……知恵を授ける? ランドルス侯爵。俺みたいな異端な学士から得る知識があると?」

「多いにある。技術を一般活用する前段階として軍での活用は常だ。

 技術は軍で発達し一般に放出する。魔法による冷凍技術然り、風の操作然り……。

 安全を確認されなければそれは只無用な混乱を招くだ。そして、魔法の理想の利用法を知っているのは、二人の頭の中だけだ。故に来て貰う必要がある」

「随分と早い決断ですね。魔法使いの用意に時間を掛けないのですか?」

「元々赴く予定だ。それに魔法兵を何百人と連れて歩く訳じゃない」


 私達三人の会話にキュピルくんは、首を頻り動かし互いの顔色を伺って話の内容を知ろうとするが、どうも難しいようだ。

 だから微笑み、キュピルくんに安心させるように言う。


「今日は一緒に居られるみたいね」

「えっ、うん。そっか……うん、よろしく」


 顔をほんのりと赤くして俯くキュピルくん。私は何かおかしなことを言ったのかしら、と顎に指を当てて首を傾げているとトレイル先生やお母様は、くすくすと押し殺したような笑いを漏らしている。ますます分からなくなる。



 と、まあ。こういう経由で私とキュピルくん。トレイル先生とジークとランドルス侯爵という組み合わせの二台の馬車が海軍施設へと赴く訳です。


「セフィー。普段はどんな事をやっているの?」

「いつも領主の仕事をしているわ。時々、領内を見て回って、色々な物を見るわ」

「そうなんだ。僕は、海軍の訓練施設に通っているんだ。これでも少し力が付いたんだよ」


 こう言って握りこぶしを作るキュピル。私は、当たり障りない会話でどちらかというとキュピルくんの世間話を聞く形だ。


「昨日も訓練施設で勉強とか体力作りをしたんだ。剣術も上達したし、もう少ししたら馬術も練習するんだ」

「大変ね。怪我とかは無いの?」

「うーん。青痣とかは良くあるけど、神法具でいつも治しちゃうからあんまり気にならないな」


 神法具……それは神法に関わるものだろうか。興味がある。


「その神法具ってのはどんなものなの?」

「えっと、司祭様が神法を施した道具だよ。効果は、傷の治療だったよ。もしかして見た事ないの?」

「ええ、今まで教会すら行った事が無い。変だったかしら?」


 キュピルくんは、うーんと軽い唸り声を上げている。


「教会にも色々あって、父上は中央教会が嫌いだから地方教会を信奉しているけど、珍しくないのかもしれないね。僕は生まれた後で祝福を貰ったって聞いてるよ」

「記憶に無いかな? もしかしたらあったのかもしれないけど……」


 私は赤ん坊の頃から自我がはっきりとしていたが、そんなものはなかった。


「じゃあ、今度休みの時、一緒に教会に行かない? そこで祝福を貰えば良いし、神法具も見られるよ」

「あと市場で魚も見て回るってのはどうかしら。新しい料理の食材探し」

「それは良いね。僕にも食べさせてよ」

「もちろん」


 私達は、当たり障りない。というより年相応の会話をした。まあ、精神年齢が最近低下気味な気もしなくない。

 そうして会話を楽しみながら、辿り着いた施設。ランドルス侯爵に対して、一糸乱れぬ挙動の海軍。魔法兵部隊の精鋭の中から、風と水と地と火。それぞれ一人ずつを一隻の海軍船に乗せて、試験運転の名目で海に出る。


「潮風が心地が良いわ」


 風も程良くあり、空は快晴。手で太陽を覆い、空を眺めたりする。風に誘われる潮の香りもまた農業や酪農主体のモラト・リリフィムとは違う味わいを持っている。


「セフィリア嬢にトレイル殿。どうかな。我が軍船の乗り心地は」

「はい。とっても素敵です」


 穏やかな波の上を滑るように進む船。背後の陸地が徐々に小さくなる。


「そろそろ魔法を使ってみるとするか、頼むぞ!」


 緑のローブに杖を掲げた魔法使いは、お伽噺の魔法使いをそのまま呼び出したかのような姿だ。その他、赤、青、茶と色で使用する魔法を分けているのだろう。


「――我は願う。大いなる風の導きを」

「おお、一気に加速したぞ!」

「そのようだな。帆も余裕がありそうだし、もっと風を強めてられそうだな」

「では、もっと強く!」

「――我らの道を先行し、我らの障害を」

「きゃっ!」


 ぐんっ、と速度が更に上がる。正面から来た高くない波でも勢いのついた船がぶつかれば、船は大きく揺れ、私は倒れそうになる。

 身を縮めて倒れるのを待っているが何時まで経っても硬い衝撃は来ない。硬いと言うよりも柔らかくあたたかい物が包んでいるようである。


「大丈夫? セフィー」

「え、ええ、大丈夫」


 正面にはキュピルくんの顔があります。それも至近距離。身体は、後から抱き抱えられる様に支えられ、へなへなと女の子座りで甲板の上に腰を着いていた。


「それでは、セフィー。お手を」

「……ありがとう」


 流れるような動作からすっと背後から正面に回る少年は、優雅に手を差し出してくれる。戸惑いはしたが、それを掴んだら、ぐっと力強く引かれて立ち上がる。

 ああ、流石鍛えてるって言うだけあって力あるのね。なんてちょっと考えてしまった。手を取り合い、互いに向き合う形で私はキュピルくんを観察する。

 長いまつげに整った顔立ち、はにかみ笑顔にほんのりと赤くした顔。

 何と言うか、守ってあげたくなるような母性本能を擽るけど、その実頼りになる存在ってきっと女性から見たら素敵なんだろうな。


 ほやん、と考えていたら、周囲の視線を背中に感じる。キュピルくんの手を離し、背後を振り返れば、口元に手を隠し笑いを堪えるトレイル先生。楽しそうに目を細めるランドルス侯爵、満面の笑みを浮かべているジーク。


「どうかしました?」

「いや、別に。ただ、少女だな。と思ってな」

「いやはや、セフィリア嬢にはいつも世話になっているな」

「ほほほ、少年少女はそうやって成長する物ですぞ。セフィリア様、キュピル様」


 いや端から順番に何を言っているのだろうこの人たち。振り返るキュピルくんは、さっきまで繋いでいた手を自分の手で覆って、なんとも微妙な表情を浮かべている。からかわれて気を良くする人など居ないのだ。


「そんなことより、どうですの? 魔法の実験は」

「それがな。一人だけでの加速は、それほど長くは続かない。これは五人一組で休憩を挟みながらのローテーションで安定性を出そうと思っている」

「まあ、俺としては、魔法は万能だとは思っちゃいない。ランドルス侯爵、次は鮮魚を凍らせる方法と、箱の中に氷を敷きつめる方法と、水ごと凍らせる方法の三つで輸送を試してみるか」

「それは陸に上がっても調べられる。今回は、陸に戻る前にトレイル殿に見て貰いたいものがあるのでな」


 私とキュピルくんは共に首を傾げる。

 それが何なのかは分からないが、ランドルス侯爵に連れられ、やってきたのは航海士の一室だ。中央には大きなガラス球。それをを鉄製の台でテーブルに固定されている。


「羅針盤だ。トレイル殿の言葉を借りるなら、脆く。波に弱い。という点だな」


 まあ、言われて気がついたが。ガラス球には水が半分ほど注がれていて。その中には、コルクの突き刺さった針が浮いている。波に揺られゆっさゆっさ……。これじゃあ、進路を調べるのも不便だろう。


「王都で開発されたもので五年前に本格導入したが、実際使ってみると、割れる、揺れる、水が零れる等で、陸地よりも精度が劣るのだ」


 五年前と言うと、お父様の書斎にあった【船乗りの航海日誌】という本には、羅針盤が出て来てなかったが、本当につい最近だったとは。


「俺の分野じゃないから分からんが、それは教会派の兵站学や工学の学士たちが研究室で開発した物だからな。奴らは現場主義より実績主義だ。だから現場での実証は無いのだろう」


 この羅針盤。物凄く改良したい。というか、欠点を指摘したい、アイディアを提供したい。だが問題がある。これの特許主が居ることだ。

 特許のない物を弄る分には私の勝手であるが、だがある物を弄るとあれば様々な問題が浮上しそうだ。私は、どうするべきか、と頭を回転させているのを優秀な執事長は見抜くのであった。


「セフィリア様、どうかなさいましたか? 何か言いたそうですが」

「えっ、あ。その……」


 視線が集まる。仕方が無い、知らぬは一生の恥だ。なら知るために一時の恥は忍ぼう。


「その……羅針盤の特許は、誰が保持しているのかな? と思いまして」

「それは、俺が持っている。大陸協定で特許の売買は一応行われている。今回の場合、他国に渡ると危険だと判断し、俺名義で学士たちから購入した。時折、羅針盤を売ってくれるように来る他国の商人が居るが、あれはきっと後ろに国家が依頼しているのだろうな」

「それはそれは」


 もしかして、羅針盤が一般の商船に普及したら、羅針盤狙いの海賊とか現れたりするのだろうか? まあ、そのあたりはランドルス侯爵も考えているのだろう。

 おっと話が逸れてしまった。ランドルス侯爵が勝手に改良出来る。なら気兼ねなくアイディアを提供すればいいのだ。


「それなら、羅針盤を開発するのは、主に海軍なのですか?」

「ああ。だが発明した学士たちの協力も仰ぐ時はある。今でも学士たちは常に改良しているようだ」

「率直な感想を申し上げますと、別に水を使う必要はないと思います」

「セフィリア。それはどういうことだ?」


 トレイル先生。相変わらず、良い喰いつきっぷりですね。という意味を込めてにっこりと笑顔を返す。


「抵抗なく動く状態なら針を宙吊りの状態でも良いのではないでしょうか? それか風見鶏のように杭を打ち、動くように」


 手持ちのメモ帳には、丸型のコンパスそれと大きな卵の上をそぎ落とした形の羅針盤の周りにはバランスを取るための円形の金属。そして土台。拙い絵を描く。これはあくまで完成図形だ。過程や工程は学士がやらなければ、彼らの沽券にかかわる。

 紙を受け取ったトレイル先生とランドルス侯爵は、二人で小さなメモ帳を見つめている。


「セフィリア嬢。これで本当に羅針盤になるのか? 水は抵抗なく、自由に針が動くから方位が正確に測れるのに」

「ランドルス侯爵。それは発想のすり替えだ。抵抗なく動くには、水。それから水が最適と思っているんだ。なるほど風見鶏はくるくる回るからな。それなら水漏れなく小型化も出来る。

 だが小型な物は、その分精度も品質も落ちるだろう。言わば、大まかに方位が分かれば良い人向けの道具だな」


「……これなら宙吊り式が軍専用で、今の水浮き式は一般販売用で良いだろう」

「父上、それでは他国が羅針盤を持ちます。海での利点を大きく失うことになりませんか?」

「いや、これで良い。羅針盤は、俺たちが軍だけが完全に独占出来る代物でもない。だからと言って、無理に独占すれば俺らが標的にされてしまう。こう言った技術関係は上手い具合に放出するんだ。俺らは、最新の技術を持ち優位に立ち、古い技術は公に広める。こう言った匙加減を覚えることも海上将軍には必要なのさ」


 にっ、と歯を出してキュピルくんの頭をわしゃわしゃと力強く撫でる。当の本人は、頭が揺さぶられ、髪の毛が乱れるので嫌がっているようだが、私としては羨ましいと思ってしまう。


「セフィリア嬢。これをどうして……いや、どうして思いついたなどということは無粋か。何か、礼の必要がありそうだな」

「いえいえ、ただのありふれた視点の提供です。私が気付かずとも誰かが気付いたはずです」


 まあ、前世の世界では、改良までに百年ほど掛かったらしいけど……


「だが発想とは、時に大きな価値がある。セフィリアは、その辺を理解した方が良いな」

「そうですぞ、セフィリア様。度の過ぎる謙虚は嫌味になってしまわれます。ここは普段無理を言わない分、無理を言ってみてはいかがですかな?」


 トレイル先生とジークに窘められる。本当に、概念提供だけして後はじっくり、のほほんと交易の改善を待っていようと思ったのに。

 良くて五年か十年後には、スパイスが簡単に手に入るようになれば、領内の塩コショウの味付けが少し変化し、独自の料理が生まれるかもしれない。という期待感があるのだ。


 ……ふむ。別に、今頼んでほんの少しスパイスを貰えば良いかもしれない。


「何か欲しい物が決まったのかな? セフィリア嬢。もしもなければ、家のキュピルなどどうだ? 将来有望だぞ」

「今回は、別の物に決まりました」


 あれ? キュピルくん。なんだから気落ちしているようだ。やっぱり元気になるには、スパイスのきいた食べ物よね。


「欲しい物は――各種スパイスでお願いします」


 周囲の視線が固まった気がした。あれ? そう言えば、スパイスも南方よりの特産品で高級品だったのを思い出しました。



 今回は、羅針盤ネタでした。えっと羅針盤についてネットで調べたのですが、殆ど構造が分かりませんでした。分からなかったので、完成予想図の提供で理論と概念提供で終了になりました。

 

 理論を日常的な物に例える。これは作品当初から続く私のこだわりです。今回は風見鶏でした。

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