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理論屋転生記  作者: アロハ座長
第Ⅱ部
38/53

キュピルの一幕

今日は、キュピル視点です。少し投稿の間隔が開きました。すみません

 

朝から夕方まで海軍の訓練施設で、座学、剣術、体力作りと武門の人間に必要な基礎を叩きこまれている。

 いつもは全力で受けるそれらも今日は上の空。教官には珍しい。と言われ、体調の心配をされるほどだ。いや、僕自身原因は分かっている。


「はぁ~。早く終わらないかな」

「何、いつもの真逆の事を言っているんですか。キュピルは、剣術の時間が倍になれば良いと何時も仰るのに」

「ちゃんとやることはやるようだが、おまえらしくないぞ。あの片足教官との一騎打ちもいつもより動きが荒い」


 僕の言葉に反応する二人、知的な雰囲気の茶髪はイズル。そして赤毛で活発な方がウラネム。どちらも領地なしの伯爵の子どもで僕と同い年。

 爵位の差など僕自身気にしないし、互いに気兼ねなく話のできる人間だ。


「今すぐにでも家に帰りたい」

「今日は何かあるんですか?」

「どうでも良いが、少しはシャキッとしろ。お前を見つめる御令嬢方がその俯いた表情で更に好感を増しているぞ」


 そんな馬鹿な、と苦笑する。


「いや、お前はどれだけ御令嬢に人気があるのか知らないのか?」

「興味ないんだけどな」

「呆れますね。あれだけ熱烈な視線を受けているのに……婚約者の話がないから周囲はあれだけ加熱するんですよ」

「婚約者は居ないけど……好きな人なら居るよ」


 二人が口を開けてぽかん、としている。割と付き合いが長い気がするが、そんなに意外だっただろうか?


「私の耳が可笑しくなければ、今好きな人が居ると?」


 なんだろうね。イズルが物凄い失礼な発言をした気がした。続いて、ウラネムも同意する。


「僕に好きな人が居るのが可笑しい? 他の貴族は生まれた時に婚約者とかいるでしょ」

「いや、私が言いたいのはそういうことではなくて、キュピルと付き合いが長いですが女性の影が全くないので」

「いや、逆にあそこまで御令嬢方の好意を無視していられる理由だな。一筋か」


 イズルは、なんとも渋い表情をして、対するウラネムは、一人頷いている。


「そのお相手は誰ですか? どういった経緯で知り合ったんですか?」

「結構お前は、そういう色事の話が好きだな。まぁ、俺も聞きたいが」

「なんでセフィーの事を話さなきゃいけないのさ」


 二人を睨む。そして二人がにやりと笑う。そうか相手の名前は『セフィー』と言った。


「で、どんな子? 何している子?」

「ウラネム、落ち着いて。僕は話さないよ。それに座学の時間」


 詰め寄る二人を止し戻し、僕らは用意された席に座る。講師の話す内容を聞きながら、時折質問に答える。

 うん。でも、今は集中できそうにない。

 ああ、セフィーに会いたいな。最後に会ったのが社交界だったがまともに話せなかった。今回は長期滞在の予定って聞いているからなるべく話をしたいな。

 できれば、軍盤で対局したり、ゲームで遊んだり、僕の剣術を見て貰ったり、セフィーの料理を食べたり……うん。考えれば考えるほど楽しみだ。


「あー、使徒兵への対処法として……うん。そうだね。キュピルに頼もうか」

「えっ、あっ、はい!」


 僕が妄想に耽った時に、先生が当ててくる。直前の内容を聞き逃したのですぐには答えられない。

 イズルとウラネムが心配そうに見てくる中、僕を囃したてる声が上がる。


「分かんないなら座れよ。へぼ海軍」

「はいはい、ワイーグには発言権無いよ」


 ワイーグ。ギュルギュスト侯爵家の長男・ワイーグ。西側の領主の息子だ。西側より安全なこの領地まで来て軍人の訓練を受け、その後、僕と同じように学術院に進学する予定だ。


 この場にいる殆どが貴族の子どもで将来軍人になる。ここは、いわば軍人の基礎訓練校だ。ここで学び終えたら、学術院で最先端の教育を受け、進まない者は騎士としてすぐに仕事を始める。

 このワイーグは、前者。有望な軍人だが、どうしてか僕に突っかかって来る。


「キュピル、そんな怖い顔しない。使徒兵への対処法は?」

「はい、使徒兵は、普通の攻撃では動きを止めません。なので狙う位置は、頭に限ります。具体的には、頭部の破損。もしくは、首を切り落とす。などです。また頭以外の有効箇所は、心臓を貫くことで数分間の内に動きを止めます」

「うん。模範解答ありがとう。理由は分かっていないけど対人戦ではそうだね。後は彼らは、人間の限界を度外視で動くから凄い早い。重厚な鎧を着けたまま動くほどだから軽装備の兵だとそのまま力負けしちゃうんだよね。考えてみて欲しいんだ重装歩兵が馬のように戦場を一気に横断する様は、圧巻だよ」


 そう言って実際に見たときの凄さを語る先生。それが十年前の西側の戦線での出来事らしい。こちらは防御に回り、魔法による絨毯爆撃を施しても止まらない。大火傷を負いつつも魔法で築いた陣地に張り付き、こちらの兵を蹴散らす姿に恐怖し、敗走する兵が多数出たそうだ。


「まあ、その後、盛り返したけど。その場に残された兵の死体で疫病が発生して両者に多大な被害を受けたんだ」


 どこか気楽に話す先生だが実際に見たのだ。その言葉には生々しさが垣間見え、僕を含み生徒の多くがそれに対して息を飲む。

 だが、雰囲気を読まない者も中には居る。


「ふん、逃げるなんて。それでも騎士かよ」


 空気が凍てつく。僕は、視線を発信源へと向ける。ワイーグだ。それに同調する取り巻きに更に増長する。


「俺が出れば、負けることなんてないな。高々二千の兵にどうやって負けるんだよ」

「うん。確かにあの場にはグラードリア軍は一万五千は居たね。七倍差。損壊率は、三割の四千五百。相手は無傷でその数を倒せはしない。倒せたとしても、それでも数は圧倒的に多い。どうして負けたと思う?」

「そんなのグラードリア兵の質が悪いだけだろ。馬鹿馬鹿しい」


 僕は逆にその発言が馬鹿馬鹿しいと思う。ああ、あの聡明なセフィーと会いたい。話したい。

 僕は自然と溜息を着く。


「なんで溜息をついているんだよ。へぼ海軍」


 なんで僕に絡むのだろう。ただ息を吐き出しただけなのに。


「うーん。キュピルには理由は分かるかな?」

「使徒兵は、速度は速いけど短時間でしか使えない。使徒化が終われば反動で身体が壊れる。だからあえて戦わずに、殿しんがりによる時間稼ぎをしたと思います。僕は」

「うん。正解。対使徒戦術の一つで、自滅を誘うやり方だ。ただ、注意しなきゃいけないのは、使徒に予備があった場合、更に戦線を押し上げられてしまう場合がある。今回の場合は、戦場の衛生状態が悪かったから相手も進まなかったんだけどね」


 それでもワイーグは引かない、自身の非を認めない。

 でも、先生はそんな様子を淡々と受け流す。まあ、今の僕には関係ないけど。


 それからほどなくして座学は終わる。


「うん。時間だね。それじゃあ、しっかり休んでくるように」


 軍人らしく、規律ある礼で先生を送り出す。安息日以外一日毎に訓練施設での授業がある。明日は休みだ。セフィーとゆっくり話が出来る。


「それじゃあ、僕は帰るね。イズル、ウラネムじゃあ」

「そんなに慌てなくても良いだろ?」

「詳しく聞かせろよ。その『セフィー』って子の話」


 また今度ね、と言って外へ出ようとすると止められる。


「おい、ランドルス」

「今度はなに?」


 いい加減苛々してきた。僕は忙しいんだ。


「お前、調子に乗るなよ! 幾ら領主の跡取りだからって……」

「……」


 僕の視線を、冷たい、冷めた視線を受けても言いたい放題。もう、無視して外に出よう。

 背後でなんか、喚く声が聞こえるが無視だ。

 迎えの馬車に乗り込み、夕方には城に辿り着く。執事からセフィーが来た事を確認し、どんな様子だったかも聞く。



「お帰りなさいませ、キュピル様」


 侍女たちがすれ違いに頭を下げるので軽く手を振って返答する。そのまま、セフィーに宛がわれた客室へと足を運ぶ。

 逸る気持ちを押さえ、客室の前でノックする。二度三度、コンコンと良い音が鳴る。だが返事が無い。

 またノック。耳を澄ませるが、扉の奥から人の動く気配が無い。


「……部屋、間違えてないよね。あっ……鍵開いてる」


 そろりと中を覗く。ベッドに倒れ込む少女を見つけた。上質だが着飾らない臙脂色の服を着た金髪の少女。ぱっと見で分かったセフィーだ。

 久しぶりだ、もっと良く顔を合わせよう。と思い、部屋に入る。


「うわっ、寝てる。髪の毛綺麗だ」


 人を見て綺麗だとはあまり思わないが、寝息を立てて安心した表情を取っているセフィーの顔は可愛らしい少女を思わせるが、ベッドの上に投げ出された手足の白い肌が、少し扇情的に思える。夕方の茜色が髪の色を変え、白い肌に朱が差したように見せる。

 肌を触りたい、きっとぷにっとして柔らかいんだろうな。

 髪を触りたい、するすると指の間を抜け落ちるんだろうな。

 そう言う衝動から手を伸ばすが、背後からその手を掴まれ、びくっと身体を震わせる。


「若気の至りも良いですが、その辺で」

「……ジーク」


 震える声で振り向く先には、笑顔の老紳士が何時の間に居た。


「いつから」

「常におりました。キュピル様が入ってくるので隠れて見ておりました」


 そう言ってそっと手を離された。


「さあ、ここにいては、セフィリア様が起きたときに色々と問題ですぞ」

「……セフィーと話したいんだけど」

「もう少し我慢を。先ほどまで相対をして疲れております。今は休ませてあげて下さい」

「……あ、明日。僕、休みだから。ちゃんと話をしようって伝えて」

「畏まりました」


 今の言葉でもう顔が赤くなりそうだ。セフィーに直接言っている訳じゃないんだけど。

 僕は、それだけ言い残してセフィーの部屋を出た。うん、もう少し待とう。セフィーを話す機会は多いはずだ。

 ちょっとキュピル視点のお話。セフィリアは眠ったまま。護衛兼世話はジークが引き継いている状態。


 東のランドルス侯爵領編。なんとなーく、更新が遅れそうです。そして年末は忙しくて一日一本は無理そうです。

 それと、少しずつ寒くなりました。体調には注意してください。では、本作を生温かい目で見守って下されば幸いです。

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