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理論屋転生記  作者: アロハ座長
第Ⅱ部
37/53

保護者たちの酒盛り

 東の将軍との相対の後。夜は大人の時間です(深い意味はありません)。


 えっと、前回の前書きで、ラーメンの麺はかん水を利用するもの、しないものがあるらしい。と改めて知りました。

 訂正に更に訂正を重ねる形で申し訳ありません。私自身の知識不足による所です。


 では、本編をごゆるりと。

 俺は、先ほどのセフィリア嬢の話を一人吟味していた。

 武門の人間である俺だが、魔法の生活に即した使い方を思いつかなかった。だが魔法をおいそれと一般に浸透する難しさも知っている。だから最低限、しかもこの海と密接に関わる地域ではあまり重要度の高くない地の魔法兵を派遣する約束をしたが、今更後悔している。


「もっと派遣を決めた方が良いな。あまり距離を置き過ぎては、後盾の意味がなくなる」


 セフィリア嬢が欲しいのは、領地の介入をされないだけの圧力だ。

 十一歳の少女を持つ領地など何時でも不平等な交渉を持ちかけられると考えているだろう。

 そんな事をすれば、周囲の貴族からの覚えは悪くなる。だが一度そう言った交渉が始まれば、後は群がり、食いつぶされるだけだ。


「やはり、守るのは俺だけか。恩を多く売った方が良いかもな」

「……失礼します。リリィー・ジルコニア様とトレイル・ノレー様をお呼びしました」

「ああ、入ってくれ」


 俺は、ソファーから立ちあがり、未亡人の美女と王都の鬼才と向き合う。


「お呼びして申し訳ない。長旅で疲れただろうが、少し話相手になって貰いたいのでな」

「ええ、構いません。互いに親の身。子ども同士の話で尽きないでしょう」

「それでは、俺は要らないんじゃないか?」

「今から干物を酒の肴にしようと思っていた所だが、残念だ」

「ぜひ、付き会おう」


 トレイルという男は、面白い。こうも素直に話に乗られると笑みが零れる。


「では、酒は、最高級のワインで良いかな?」

「あら? それは……」

「そう。二年前に頂いた物だ。勿体ないのでそのまま取ってある。一本は即日開けて、もう一本は今日の語らいに。最後の一本は息子の結婚にでも開けようと思ってね」

「あらあら、息子たちの、結婚式ではなくて?」


 リリィーがからかうように一部強調するので苦笑する。


「ふむ。セフィリアとランドルス侯爵の御子息か……婚姻ほど強い後盾は無いが、次代の東の海上将軍だ。同盟国の末姫。という線もあるのでは?」

「残念だが、同年代の姫は少なくもう嫁ぎ先が決まっているのが殆ど。どちらかと言うとどこの国でも男が余っているような状況だ」

「あらあら、残念って、うちのセフィリアがはずれみたいな言い方ね」


 しまった。言葉の綾だったが、リリィーの琴線に触れたようだ、目が笑ってない。


「落ち着け。俺が言ったのは、美姫たちは一人でも多い方が目の保養になるだろ? と言う話だ」

「だがそれと同時に、後宮争いや女性間の争いは、どの時代でもあり、国を揺るがしているぞ」


 扱くまっとうな答えのトレイル。場違いからリリィーが小さく噴き出す。


「ごめんなさい。ちょっと意地悪したくなっただけよ。でもトレイルさんが真面目に答えるとは思わなかったわ」


 その時、侍女が、干した焼き魚を持ってきて、他にスモークチーズやベーコンなど適当な物を肴にして、ワイングラスにワインを注ぐ。それを受け取り、一口含むトレイルはサラッと答える。


「俺は、俺の知る事実と考えしか言わないぞ。まあ、その所為で人付き合いが苦手な面はあるがな」

「あら、自覚していらしたようね」

「なるほど、王都の鬼才・トレイルとは、不器用な只の人間だったか。これは安心だ」


 俺も酒が入り、口が軽くなる。

 互いに色々と話をした。

 セフィリア嬢の話は、相変わらず何かを書いているのだが、親の自分には見せてくれないから寂しい、だのこの前久しぶりに手間が掛ったから母親として嬉しい。と言うことだ。

 何かを書いている。という点で、トレイルの表情が無になるのを見て、ああ、この男には話しているのか。と確信した。

 またセフィリア嬢は、会う度に美しくなる。金の流れるような髪が多くの人を惹きつけ、意志の強い赤い瞳が虜にするのは時間の問題だろう。


「セフィリア嬢も将来が楽しみだな。今のうちにキュピルとの婚姻関係を成立させなければ悪い虫が寄りそうだ」

「それは、本人同士が決める事だな。まあ、もしもセフィリアに恋心を持つような男が居れば、それは地獄を見る」


 トレイルの言葉に、思いっきり首を傾げるリリィー。それと同時に、それは、悪女と言う意味だろうか?と悪い考えが浮かぶ。


「あれは、天性の仕事人だ。勤勉で、実直。だから、只の外見で近寄った男は、能力の差で絶望する」


 ああ、なるほど。伊達に六歳で領主。十一歳までの五年間を切り盛りしてきただけの事はある。


「あと、あれは、恋愛に興味が無いようでな。前に貴族の教養で古い話を聞かせたんだ。【ロラン三世と美姫】の話を」


 それは本当に有名な実話を元にしたお伽噺だ。誠実な王として知られるロラン三世は、ある日、一人の村の娘に恋をした。普通なら権力で後宮の一人となるべき女性は、拒否をする。理由は単純。実は他国の姫だった。

 亡国の姫は、辺境の村でひっそりとその生涯を閉じることを願い、自分が後宮入りすることで得る権力で再び争いが起こるのを恐れたからだ。

 だが王の想いも姫の想いも関係なく、国を滅ぼした者たちが姫の存命を知ると、適当な理由を着けてグラードリアに侵攻を始める。

 王は姫を匿い、そして二人は結ばれ、姫の知識が国を守り、王の采配が侵略者を撃退した。こう言ったのが単純な流れだ。もっと小さな子どもには短くされ、貴族用の話は本三冊に分かれている程の話だ。


「あのお話なら小さい頃にたまに語ったわ。懐かしいわね」

「その話がどうしたんだ?」

「バッサリ恋愛を切り捨てたよ。別に【ロラン王の英雄活劇】として編纂しても良いのではないか。と、そうした方が武門の貴族や一般受けが良いのではないかと……それで公演して集客でも狙うか、と言うような発言を、な」


 ぽかーんとしているリリィー。それ以上に既存の物語を変えて、演劇にする。道楽好きの貴族が聞いたらさぞ喜ぶだろう。


「くくくくっ、セフィリア嬢という砦を落とすのは、難しいな。きっとどんな耳障りの良い言葉も社交辞令と受け取り、素敵な恋物語も英雄記に変える。まさに男に対しては難攻不落に近いじゃないか」

「もう、あの子は……女の子らしいんだけどどこか違うんだから」

「俺は、セフィリアの考えは一つありだと考える。が、王宮は黙っていないよな。美談で知られる話が、そう言った物に勝手に変えられるんだから」


 それからキュピルの話を俺達はした。トレイルは、キュピルの事を殆ど知らないので話す機会でも設けるとするか。


「そうですか。キュピルは、大分剣術を」

「武門の貴族ならもう馬術も始める頃だろう。怪我の対応は出来ているのか?」

「ああ、一応、治癒の神法具を借り入れている」

「だがそれも万能じゃない。ましてや、子どもの身体はまだ成長途中だ。過度な運動による怪我など学術院でも数十件とある」

「では、無理をしないように言い聞かせるとするか」


 大分、酒が回ってきたようでリリィーの顔は大分赤くなっている。侍女に寝室へと案内するように言って、トレイルと二人っきりになった。ここからが本命だ。


「時に相談なのだが。我が領内を盛り上げるにはどうしたらいいだろうか?」

「うん? それは自分たちで考える事だろうに」

「セフィリア嬢からの指名でな。セフィリア嬢の奇抜な発想は、鬼才・トレイルが授けたものと考えている」

「……」


 目を瞑り黙りこむ。それは黙秘ではなく、悩むような雰囲気だ。


「まあ、あれは難しい内容だ。簡単に領内の状況を説明して貰わなきゃ何も言えない」

「そうか、では話すとしよう」


 わざと話を逸らされたのか? だが、相槌を打ちながらちゃんと話を聞いている様子では、判断できない。


「なるほど、目下の問題は、南方の航路の安全性の確保と領内の代官との折り合いか」

「そうだ。南方の航路は、危険で日数も掛かる。方位もある一点を超えると北極星が見えなくなるのも原因だ。今は、軍艦に羅針盤があるから軍は問題ないが、一般の商船だと」

「最初の一つは、羅針盤の普及だな。だが、現在の羅針盤は脆い。その上波にも弱い。南方の海流はかなり荒れていると聞くからな。それはどうかは分からない。まあ、俺の専門分野とかけ離れているからここは地道な研究だ」

「分かった。確かに羅針盤は度々割れる報告はある。その辺は、地道にやるとしよう。それで代理領主との折り合いなのだが、最近はホウブ子爵が自身の娘とキュピルの婚姻を画策しているようでな。正直、セフィリア嬢を定めているので眼中にはないが、どうしたらいいか」

「それは……自己責任だな」


 噂に違わず、真っ直ぐに言ってくる。こう言う不遜な物良いを嫌う人間も多いだろうが俺は、無駄の無い話し方や脚色ない言葉には好感が持てる。


「第一、代理領主なんてものを置くから権力が分散するんだ。差し詰め、兵力を与えているから大っぴらな拒否で兵を動かさないと言われたら領内の警備が出来なくなるからだろう」

「うむ。そうだ、だから今は演習の名目で新人騎士を領内巡回に当たらせているが……それも費用が掛る」

「ランドルス侯爵は、名将だ。組織自体をマニュアル化して下級貴族を全て役人として雇い、足りない人員は商人から雇えば良いだろう」

「それは、モラト・リリフィムの役人態勢か。逆に不思議に思うのだ。あれでなぜ、反発が起きない。代理領主の廃止は不可能だろう?」

「代理領主ってものは、一代限りの領主だ。その時の当主が無くなれば、後は別に人に引き継ぐか、領主の家に返すかが普通だ」


 いや、それは表面上だ。事実、癒着で事実上の領主をやっている者も多い。


「だから、何十年もかけて少しずつ代理領主を排除するしかない。今度マニュアルを作ってくる。それを肴にでも別の酒でも飲もうか」


 そう言って立ち上がるトレイル。あまり長く引き止めてしまった、と反省する。


 今日一日は、俺個人実りの多い物だった。そして、モラト・リリフィムの情報が殆ど商人伝えであることから田舎領地は穏やかだと誤解されているだろう。実際は先進的な組織を築きあげている領地だと、俺は想像だが長年の勘がそう告げていた。

 自然と顔が綻ぶ。セフィリア嬢が居る間は、実りが多そうだ。どうやって長く引き止めるかな。と考えてしまう



 東の海上将軍様の夜の晩酌風景です。

 お酒は人の口を軽くする。私は、殆どお酒が飲めません。飲みません。私はお酒よりもジュースが好きです。味覚がまだ子どものようです。


 いつも、誤字脱字の指摘ありがとうございます。これからも生温かい目で見守って頂ければ幸いです。

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