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理論屋転生記  作者: アロハ座長
第Ⅱ部
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成り上がり騎士・シュタイニーの調査レポート・その一

所変わって成り上がり騎士様のお話。

 私は、シュタイニー・ウィスプ。騎士である。

 ついこの間までは学術院で剣術指導員をしていたが、その評判で何時の間にか王宮での剣術指導をしていた。分からない。

 先日も第三皇子のユースピィム・アロン様や三大貴族の御子息に剣術指導をしたりしたのだが、子どもの相手は苦手だ。いや、むしろ嫌いだ。


 今日は、そんな剣術指導の仕事を離れ、王都の次席文官のナタリーと仕事の話をしていた。


「ねえ、あんた先日の文官長の屋敷でも社交界の警備に当たったのよね」

「ああ、相変わらず気持ち悪い場だ。腹の探り合い、騙し合いだ」

「ふーん、で、何か面白いものはあった?」


 仕事の話……だったはずだが、仕事熱心だが噂好きの彼女は、時々噂を元にとんでもない事件を引っ張ってくる。前も侯爵の領地での人身売買が発覚し、実際に出動したのは私だ。

まあ、そのお陰で男爵だった私は、事件解決の功労者の一人でここまで出世が出来たのだが。


「あんな所に面白いものなどあるわけが無い。中央の貴族と教会派で牽制し合う状況だ。それ以外の平凡な領主たちなど萎縮するか、関わらない事を決めていたぞ」

「ふーん。いつも通りだったんだ」

「だが、注目する人物はいたな。トレイルが居た」

「はぁ? トレイルって、まさか」

「ああ、学術院を離れて休職中のトレイル・ノレーが居たよ。どうやらパトロンを得たようだ」


 ナタリーは、目を白黒させていた。教会からもっとも疎まれている学士であるトレイルがそんな場所に居るのだ。何かあると彼女は感じたのか、身を乗り出して聞いてくる。


「ねえ、他には! 何かあった! そのパトロンは誰!」

「私が見たのはほんの少しだ」

「そう、なんだか面白そうなものが見れると思ったのに」

「それなら名簿でも見れば良いんじゃないか? 私が覚えている範囲でなら絞れるぞ」

「ホント! ありがと、助かるわ!」


 私も本当にお人よしだ。まあ、これで何か出世の手がかりがあれば、次は騎士団でも引き入れるかもしれない。子どものお守は懲り懲りだ。

 それから名簿から中央貴族と教会派を排除し、残りの貴族たちを選別する。


「確か、女性だったぞ」

「へー、物好きね。あいつの言っている事硬くて理解できない人が多いのに」

「それで領主らしいがそれは良く分からない」

「じゃあ、領主、もしくは領主代理で探すね。ああ、三人いるわね」

「なんでも、ランドルス侯爵との仲は良好らしい」

「ああ、この二人駄目ね。一度ランドルス侯爵に求婚したんだけど、当時手ひどい振られっぷりしたらしいわ……って残ったの十歳の女の子じゃない!?」

「ああ、そのくらいの年齢の女性だな」

「あんた、もっと言い回しを簡潔にしなさい!」


 持っている紙束で頭を叩かれた。これが五年前に使われていた羊皮紙の束だったらどんなに痛かったか、と思いながら抗議する。


「何をする。大切な資料じゃないのか?」

「あっ、そうだった」

「それで、誰なんだ? トレイルのパトロンは」

「モラト・リリフィム領のセフィリア・ジルコニア伯爵よ。モラト・リリフィムって言えばドの付く田舎領地でしょ? 小麦しかない」

「私は、黒パンが好きだな。あの硬さが癖になる」


 あんたは黙ってなさい、と言われる。ただ、ナタリーは顎に手を当てて紙面と睨めっこをしている。


「ねえ、今の領地の農業状態って知ってる?」

「いや、全く。だが、北のエラヴェエールからの穀物輸入が多いと聞くが」

「知っているじゃない。そうよ。北では、広い土地があるから休作を多くして品質の安定した穀物を生産しているの。その余剰穀物をグラードリアに輸出しているのよ。輸出要因の一つは、グラードリアが倒れれば、西部の国々が流れ込んでくるのを恐れた後方支援のようなものだけどね」

「あの国自体はそれほど強い軍事力は無いからな。それで、これがトレイルとモラト・リリフィムとどう関わる?」

「トレイルの研究分野は、農業の含まれていたはずよ。農作物の作れる土地の多いモラト・リリフィムの農地改革をトレイル主導で行っているかもしれないわ」

「それで……私にどうしろと?」

「うん。調査してきて。一か月ほどみっちりと」

「……嫌だ」

「大丈夫よ。王子様たちの訓練には適当な理由を付けてあげるから、農村部にでも行ってのほほんとしてきなさい。休暇だと思って」

「よし、行こう。旅費は必要経費で降りるだろうな」

「もちろんよ」

 私は、とても幸運な気分でモラト・リリフィムへと調査に向かった。



 旅装で旅人の真似をして、必要な物だけを荷物として持って、商人のキャラバンに同行させて貰う。

 二日間ずっと、痩せこけた農夫が辛そうに脱穀する風景や衛生状態の悪い町を見てきたために、モラト・リリフィムへの期待はゼロと言っても良かった。だが、南西部よりこの領地に入った私は目を疑った。

 この領地では、もう脱穀が終わっていた。そして普通の農業ならばここから二毛作を始める筈だが、どれだけ畑を休めようか、普段私が食べない野菜を作る計画、などの話をしていたのだ。

 ナタリーの考えたトレイルの農地改革は既に完成しているのかもしれない。



 私は、まずこの村から調査を開始することにした。

「すまない。少し聞きたい事があるんだが」

「うん? 旅の人かい? どしたんだ」

「なぜ、脱穀が終わっているのです? ここに来るまでの農村部ではまだ脱穀をしていたので」

「ああ、あれがある御蔭だよ。脱穀機」

 脱穀機? そんな物は聞いたことが無い。だが、農夫の案内で向かえば、何やら棘の生えた拷問器具のような物が上を向いている。


「なんですか? あれ?」

「脱穀機だよ。あるのは、この領地と北の一部らしいけど、良く知らんな」

「……これは今年からあるのですか?」

「いや、いつだったかな? 三年くらい前か? 領主様が全部の農村に一台ずつ貸して下さったんです」


 三年前? トレイルがパトロンを得たのは、この一年の間じゃないのか? でも、もしかしてそれ以前から交友があった可能性が……


「他の領地は豊かじゃないって聞くけど、どうなんです?」

「そうですね。実りも良くないし税が厳しいらしいですよ。それで領主が裕福な暮らしをしてると聞いています」

「ほ~、そかそか。ダイナモ様の時から税はそんなに苦しくないからな。モラト・リリフィムに生まれて良かった」


 私は、この村を調査しようと考えた。


「すみません。一つお願いがあるのですが」

「なんだ?」

「この村に泊めて貰えませんか? 実は町に行く旅費が少なくて」

「あー、お前さん。若くて良い体つきだから農作業手伝ってくれるなら良いぞ。一週間後に町に豚さんと牛さん売りに行くからその時行こうか」

「ありがとうございます」


 私は、この村での調査が始まった。

 そこでナタリーの考えていた推測の多くが裏切られる事になる。

成り上がりの男爵騎士さん。結構、外面は良いけど、身内ナタリーに対してはぶっきらぼうです。そう言う二面性のキャラが欲しくなりました。

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