北部の村の改革(後編)
えっと、三つに分けて書きました。今後、一つの政策や対応をこのように複数に分けて書いていく場合があると思います。
誤字脱字、感想ありがとうございます。えっと、感想を私なりに要約した物に対して前書きで少しずつ返答します。
本文では説明不足ですが、本文で今更そのことを言うのもちょっと変になりそうなあたりさわりない内容。またここにない感想にはプロット上の政策を話しまいネタばれ気味になってしまうのでご了承ください。
まず『領民の態度が横暴では?』の返答です。
ごめんなさい。上下関係とか全く考えてませんでした。直す事があれば、会話文を熟考して直したいと思います。
では、本編をお楽しみください。次回も質問の一つに返答します。
「セフィリアお姉ちゃんは、僕と遊ぶんだ!」
「ちがうよ! 私の遊ぶの!」
目の前で二人の子どもがやんややんやと私を取り合いしている。懐かしいな、生前の孤児院に居たころは、目の前でおもちゃを取り合いしていた年下たちを見ていたが、まさか自分がその中心に居るとは。
「じゃあ、皆で遊びましょう? 皆で出来る遊びを考えるの」
「うーん、分かった!」
「お姉ちゃんがそう言うなら、一緒に遊ぶ!」
自分より二歳ほど年下で素直で良い子たちだ。この村には他にも子どもがいるが、泊めていただいている村長宅の双子の兄妹だ。
「今日は何して遊ぶ?」
「お外に行って遊ぶの!」
「じゃあ、温かい格好をして出かけよう! 温かいけど、まだ寒いの」
子どもの言葉は要領を得ないが、要約すると『普段より温かいがまだ寒い』だ。私もコートを羽織り、二人に手を引かれるようにして外に出る。随分と懐いたと思う。二人と一緒に、疎らな草地を走り、地面に円を書いてそこで片足、片足、両足と『けんけん』を教えた。こうした身体を動かす遊びは、子どもは総じて好きなようだ。
「ねえ、僕らも一緒に入れて」
周囲の子どもも集まってくる。皆と同じくらいか、それ以下の子どもだ。
「いいわよ。人数が増えたし、何して遊びましょうか?」
頬に手を当てて考える。『かごめかごめ』『鬼ごっこ』それから……
だがジークが物凄く心配そうな表情で見ている。あまり危ない遊びは駄目かもしれない。
「それじゃあ、山に行こうよ! お姉ちゃんに秘密を教えてあげる!」
「秘密?」
「甘い秘密! ちょっと苦かったりもするけど甘い秘密だよ」
双子が悪戯っぽく笑う。私も普段周囲の大人にこんな風に笑っているのかな?と感慨っぽいものを感じてその後を複数の子どもに手を引かれ付いていく。その時、ジークはどこに追いやられて私と一緒に来ることができなかった。
まあ、森と言っても森の本当に端っこ。そこには、立派な木々が立ち並んでいた。
「凄い木ね」
「うん、お父さんは、これは薪にしか使えないって言うんだ!」
「柔らか過ぎて、家具に使えないって。だから森の中には、あんまり入らないの!」
「それで、甘い秘密ってなに?」
私が腰をかがめて二人に尋ねると二人は、ニコッと笑って木の根元に駆け寄る。
「これが私達の甘い秘密!」
「舐めると甘いんだ!」
二人の指先には、てらてらと光る物がある。水あめよりも水っぽいそれを二人は咥える。
ダリア教えて貰った自然の甘い物に、小さな紫色の花の花弁を抜いてその根元を吸っていた。ほんの一瞬甘い程度で砂糖よりも遥かに劣るが、砂糖などが高級品のこの子たちにはこういった物も貴重な自然の甘味料となる。
「へぇ~、甘いんだ。私も知っているよ。紫色のぼんぼんみたいなお花の花弁の根元を吸うと甘いんだ」
「そんなの知ってるよ! ここでは、夏にあるんだ! でもこの甘いのは春のこの時期だけなんだ!」
「ここの子どもたち皆が見つけたの! 木に石で傷つけて、家から持ってきたお皿を置いて置くの! 時間が掛るけど、一日でも結構出てくるよ」
周りにいる子どもたちは、にこっと自慢げに笑っている。
私も根元の樹液を掬って指で舐める。ああ、なんか遠くで甘さを感じる気がする。
この木は子どもたちにとって凄い木なんだな、と思い木を見上げて私は、目を見開く。落ちてくる青々とした葉っぱは、掌のような形をしている。
これは、まさか。これは、この子どもたちだけじゃない! 村にとっての宝になる。宝の山に等しい!
「お姉ちゃん? セフィリアお姉ちゃん」
腕を引かれて、私は我に返った。
「ごめんなさい。この木が凄くて。皆は、塩味のスープを飲んだことがあるわよね」
「当然だよ! 冬は、それにジャガイモが入るんだぜ!」
一人の男の子が胸を張って威張る。
「それを長く煮込むとどうなる?」
「美味しくない。僕のお母さん、編み物に夢中で塩の味がキツイのが出来た」
一人はしょんぼり体験談を語る。
「それと同じで物は煮込むと味が濃くなるのが分かる?」
その場にいる子どもたちがみんな首を縦に振る。
「この木から染み出す液をたくさん集めたら、きっと蜂蜜のようになるわよ」
子どもたちはきょとんとした表情でいる。蜂蜜などの甘味料は高級品だったことを忘れてつい手順を間違えた。
「この液がもっと甘くなるのよ」
「これより甘いの!」
「凄い! 私舐めてみたい!」
「じゃあ、私達だけでこっそりやりましょう。大人たちを驚かせるの」
子どもを巻き込んだ実験。子どもたちにとっての悪戯。この瞬間、始まった。私は、ジークに言って滞在を延長する旨を伝え、私も村の人たちに料理を振る舞うことで厨房を手に入れた。後は、子どもたちが集めてくれた鍋一杯の樹液を煮詰めた。
皆代わる代わる私に近づくので、不信がられないように良い訳として「つまみ食いをしていた。お姉ちゃんがくれた」と言うことになった。
私は、シンプルな料理を村の人たちにポテトサラダとコロッケを振る舞った。まあ、即席であり合わせにしては上手く出来たし皆には好評だが、コロッケの油が牛脂で時間が経つと白い油が浮くので、私は常に揚げ続けなけれはならず、樹液を煮込み、浮いてきた灰汁を取るのを村長の双子の妹に手伝わせてしまった。
樹液は、深夜に煮込み終えた。その時には、用意された薪を大量に使ってしまい、鍋一杯の液も瓶一本分くらいに濃縮されていた。
それを白い布で木の屑やほこりを越し取り、ビンに移す。
翌朝、子どもたちを集めて、瓶の中の琥珀色の液に注目が集まる。
「みんな、舐めてみて頂戴」
恐る恐ると言った感じ。掬って舐める。皆の反応は、それぞれ違う。村長の双子の兄は、目を見開き驚き、妹はうっとりとした表情をしている。他の男の子は、あまりの甘さに咽返り、女の子は名残惜しそうに指をしゃぶっている。
「これはね。あの木の液を煮詰めた物なの」
「凄い! セフィリアお姉ちゃん凄い!」
「ううん、違うの。私は凄くないよ。みんなが凄いの。これを見つけた皆が凄いのよ。だから――」
次の言葉に全員の表情が悪戯の最終段階に入ったことを理解した。
その後、私は、村長夫妻と面談した。外には子どもたちがこっそりと待機している。
「お話と言うのはなんですか?」
「実は、これを見ていただきたいんです」
「あらあら、何かしら、綺麗だけど」
私は作った琥珀色の液体を二人に見せる。
「これを舐めて頂きたいんです。大変驚かれると思いますよ」
「セフィリア様、我々をさらに驚かせてどうするつもりですか?」
「嬉しい驚きなら大歓迎よ」
二人はティースプーンに琥珀色の液体を掬って、口に運ぶ。舐めた瞬間、理解できない、なんだこれは、という沈黙をする二人。何とか、言葉を絞り出したようだ。
「これは、あの蜂蜜。と言う奴か? でも、村の森にでも入ったのか?」
「こんなに甘いのは初めてだわ」
「いえ、これは蜂蜜ではないのです。木の樹液なのです。皆入ってきて良いよ!」
その声に一斉に子どもたちが私の周りに集まる。何事かと驚いた村長夫妻は、子どもたちの言葉に更に驚く。
「あのね、この村の木の液って甘いんだ!」
「それをね。セフィリアお姉ちゃんが、煮込んだものなの!」
「俺たちが見つけたんだ!」
「あの森は、お宝なんだって!」
村長は、理解できない事が重なって放心状態だったが、ちょっとずつ声を漏らしてくる。
「つまり、あの森は、薪以外の活用法があるのですか? 狩猟と管理以外では人の入らないあの森が」
「はい。あれは、カエデという木の中でも特殊な木なのです。
他の家具に出来るカエデは、硬かったり柔らかかったりと家具に適しているのに対して、こちらの木はあまり適しません。ですが雪解けのこの季節、地面からたくさんの水分を吸収するカエデの樹液の粘度は、下がり取り出すことが容易になります。そして取り出した樹液を濃縮することで、この琥珀色の甘味料――メイプルシロップになるのです」
「メイプル……まさに木の女神の恵みだ。ありがとうございます、セフィリア様」
「いいえ、これを見つけたのは子どもたちです。この子たちが一番の功労者です」
私は子どもたちの肩に優しく手を置く。照れくさそうに身を捩る皆に村長の視線が向く。
「これは、この短い時期にした取れない貴重な甘味料です。そしてこれを少し流通させてみませんか?」
「はい、そもそも。直轄領の我らに承諾の必要がありましょうか?」
「では、この北部の村々でのメイプルシロップの生産を計画しましょう。子どもたちに甘いものを食べさせたいので」
「それは、良い考えです」
そうして、私達は、延長期間でメイプルシロップの増産と流通計画の大枠を作り上げた。
商品名:木の女神の雫としてこの世に新たな甘味料が誕生した。
本来、サトウカエデの木の樹液って甘く感じないようですね。ただ、物語上。甘く感じるようにしています。