表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
理論屋転生記  作者: アロハ座長
第Ⅰ部
21/53

裏・貴族の立食会

本来、貴族の社交場は策謀渦巻く腹の探り合い空間なのです。

 私は、セフィリアと一緒にこの立食会に来たのだけれど私は心配があった。

 セフィリアは、一度も貴族たちの社交場に出てきたことが無かったのだ。八歳だからと言ってお披露目には遅いくらいだ。

 またこういった場では、腹の探り合いが常。子どもの貴族だからと言っても大人は自らの手中に収めようとする。

 しかしその全ては、杞憂に終わった。



「これは失礼。ここは俺の親しい者が集まった立食会だ。子ども同士気楽に話すと良い」



 ランドルス侯爵は、そう言ったのだ。つまり、ここにはセフィリアを手懐けたからと言ってどうこう出来るだけの貴族はこの場にいない。



 と、なると自然とセフィリアよりも大人同士の話に流れる。



「お初にお目にかかります、ジルコニア夫人。私は、ホウブ・ジンコルク子爵」

「はじめまして、ホウブ子爵」

「ダイナモ伯爵の事はお悔やみ申し上げます。素晴らしき名君を失ったと聞きます」

「お心遣いありがとうございます。私が愛したダイナモは、領民に慕われておりました」



 そう、私が愛したダイナモ。感の良い貴族ならこの時点で諦めるだろう。



「そうですか。ですが、母一人子一人では辛いことも多いでしょう。再婚の予定はありましょうか?」

「いえ、現在はそのような予定はありません」

「では、今からでも……」

「おいおい、ホウブ子爵。こういう砕けた場だからと言ってあまりに直接的な言葉は淑女に嫌われますぞ」



 ホウブ子爵の言葉をランドルス侯爵が遮る。ホウブ子爵の執拗な再婚。つまり、自身が義父となりセフィリアを背後から操るなり考えたのだろう。あまりの直球さに見かねたランドルス侯爵には感謝が尽きない。



「これは失礼しました。あまりにお美しいので我を忘れておりました」

「まぁ、私はこれでも三十ですよ。もういい年です」

「いやいや、ご謙遜を」



 互いに微妙な牽制をし合った後、ホウブ子爵は他の貴族への挨拶へと向かう。

 私はその後ろ姿に溜息をついて、思わず口に手を当てた。まだ傍にランドルス侯爵がいらっしゃる。



「気にするな。俺は、こういう砕けた場で疲れる話はしたくは無い」

「お心遣い感謝します。ですが、いつかは再婚も考えなければならないのかもしれませんね」



 私の心の中には、ダイナモただ一人だ。だがセフィリアには後ろ盾が無い。中央貴族には、王族。教会派には、教会権威。そうしたものが無いのだ。ならば、私がどこか有力な貴族と再婚して両家の結び付きを強くすることで外圧から領内を守らねばならない時が来るのかもしれない。



「あまり気を負う必要はない。結婚云々は個人間の話だ。ダイナモやその父ケーニスが貴族間での婚姻を嫌ったのは、対等な立場にならない事だ。どちらかが操り、どちらかが従属する。この関係には平等性が無い。結婚とは本来、平等性がある物だというのが、俺の教会の教えだ」

「それは、中央ですか?」

「いや、地方の小さな教会だ。だから考えるのならダイナモと同等であり、ダイナモの存在を認めるような男にすることを勧める」

「それでは、条件に見合う殿方は、ランドルス侯爵ただ一人と言うことになりますよ。それともキュピルに海上将軍を継がせないおつもりですか?」

「むぅ、流石に恋路が絡む政治は扱いが難しい」



 ランドルス侯爵も一人身。話によれば一人息子のキュピル出産の折、母体が耐えられなかったそうだ。

 ランドルス侯爵の妹君が乳母を務めるなどして周囲の支えがありキュピルは順調に成長し、将来はこの東の海上将軍の後を継ぐ事を期待されている。


 だが恋の相手がセフィリアだとするならば、難しい。ジルコニア家で直接血を引いているのは、セフィリアだけ。だから東の海上将軍としての未来を諦め婿養子に来てくれるのならばこちらは問題ないが、ランドルス侯爵に後継ぎがいない。最良の選択肢としては、私がランドルス侯爵と結婚し、新たに子を設け、この子を海上将軍に。キュピルをジルコニア家の婿養子にすることで丸く収まるのだろう。



 この将来は、キュピルの海上将軍の夢とセフィリアの父より受け継ぐ矜持を捨てることになる。



「難しい話です」

「まあ、貴族の結婚などもう少し先の話。その頃にはもう一度相談させて貰おう。だが、俺はセフィリア嬢をキュピルの伴侶とすることを諦めてはいながな」

「そうですね。では、今は立食会。本来の目的に戻り食事でも楽しみませんか? 当家の侍女長・キリコの料理が運ばれてまいりましたよ」

「ほう、最近では領民の間で珍しい料理が流行っていると聞くが、これがそうか?」

「ええ、セフィリアとキリコの二人が考えた料理だそうよ。モラト・リリフィムの食材を使うのだけれど、今日は海の幸を使っているみたいね」

「それは楽しみだ」



 運ばれてきたピザを私達はセフィリアにならって素手で食べる。珍しい食べ方、珍しい料理に皆が顔を見合わせる。

 ランドルス侯爵は、ピザを食べてとても気に入ったらしい。モラト・リリフィムを「グラードリアの食糧庫」から「グラードリアの台所」と呼び名を変えた方が良いかもしれないなど、嬉しい冗談を言ってくれる。


 今日の立食会では、モラト・リリフィムの珍しい料理が話題を攫ったことで田舎領地などと蔑みの目はこの場ではなくなるだろう。

ほのぼのの裏側は、大人と政治事情。

簡単に恋路は達成させませんよ。恋路は挫折の繰り返しですよ。もしかしたら心変りが起こる間も知れませんよ。


作者は、最後の落ちが分かるように作ってはいけないと思うのです。

ラブコメだって幼馴染との時間は長いのに、新しく現れた女の子が全て攫って行くのが最後の落ちだっていうテンプレート。これは過程を楽しむもの。

私の作品は、過程を楽しんで頂く物……あれ? 同じだ。

では、生温かい目で見守って頂けたら幸いです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ