港町のいう窓から見えるのは
ちょっとした世界観補足会です。
私は、この夏初めての遠出をしている。
お母様と侍女長のキリコ。それと若手の執事に旅の必需品やお土産と共に馬車に揺られ、モラト・リリフィムの東。ランドルス侯爵領の最大の港町・エラネトに来ていた。夏の照りつけるような太陽の下で豊富な魚介類と海上貿易で運ばれる他国の商品で栄える東最大の町へ赴いたのには、訳があった。
「セフィリア様。今年もランドルス侯爵家のキュピル様から立食会の御誘いが来ております」
立食会とは、昼間行われる社交界だ。基本は子どもの社交界訓練のために開かれたり、誕生日を祝うために開かれているのだが、私自身行く気も行く暇もなかったのだが。
「毎年多忙を理由に断っていたけど、今年は視察を重点的にしているからどうしましょう?」
「会場は、港町のエラネトでございます。港町ならではの商品や料理を奥様と楽しんでこられてはいかがでしょうか?」
「分かったわ。諸外国の貿易品で領地に栽培してみたい作物があれば、買ってくることにしましょう」
「では、計画を調整しておきます」
お父様の作り上げた組織は私の不在でも有事に対処できる。エラネトへは、往復で一週間ほどの旅。その途中の農村に視察まではいかないが、挨拶も出来るので悪いことではないとその時思っていた。向かう農村では、元気な姿に多くの村民は安心を持ち、私がお父様の意志を継いでいる事を宣言すれば、賛同してくださる。
それから領地の悪路を実感しつつ、領地境界の関所を抜けて辿り着いた港町の塩の香りに私は、興奮していた。
「セフィリア。あまりはしゃぎ過ぎないのよ」
「分かっております。お母様はゆっくりしてください」
目に映る物は、生前の異世界では見劣りするが、この世界、いや私の領地では手に入り難い物が多くあった。
その多くは魚だったり、貝だったりと海の幸がほとんどであった。
「これは、随分大きいお魚ですね」
「おう、今朝取れたてだぜ」
「この他にも保存性の高い魚はありますか?」
「保存性? ああ、長持ちするね。それだったら、やっぱり干物だな。あとあっちの方に、内臓取り出して燻製にした魚なんかも並んでいるぞ」
「ありがとうございます。では、エビを頂きましょうか。二十匹ほど、あと干物と燻製のお魚も」
「おう、毎度」
私から代金を受け取る露店のお兄さんは、そう言ってにかっと歯を見せる。その後も私は、キリコとお母様と一緒に市場を歩いた。私は装飾品には興味は無いのだが、お母様は値打ちの装飾品を見つけており購入した。お母様には不釣り合いなほど煌びやかなネックレスだったので尋ねたら「今度、メペラさんが来たら買って貰うんです」との事。流石商人の血筋が含まれているだけあって強かだ。
私は、根気よくある様々な物について聞いた。
城で見る資料では限界があるので、こうして物資の流動が激しい港町で話を聞くことができたのは有意義だった。
まずは、南方の状況だ。南方は、ここより温暖なために砂糖黍や多くのスパイスを栽培、輸出している。ただ南方の海上航路での輸送の危険性は非常に高く、その分割高になってしまっているのが現状だ。せめて領地で甘味料の生産を考えているのだが、砂糖黍での生産は気候には不向きなようだ。落胆しかけた私は、北方のエラヴェール皇国からも極少量の砂糖は取れる話を聞いたが詳しい話は聞けなかった。帰ってより詳しい調査が必要になった。
続いて、西方の状況だ。
グラードリア王国の国土の半分を有する西方領地とそれに隣接する諸国は、数十年に渡り小さな衝突を繰り返している。
輸出品の中にモラト・リリフィムの小麦が多くあるのは、戦場での兵士の食糧になると聞けば、少し複雑な心境になる。
領主直属の軍人である騎士たちの少ないモラト・リリフィムは、北方が友好国であると同時に、周辺に領地が囲っているので、もしもの軍はあまり必要が無い。そのために農民に兵役を課すことはないのだが、別の視点で言えばこれは小麦で兵を借りて平和を守っているのだ。
農民が作った小麦を西方や周辺領地へと売られ、それがあるために兵士は戦える。逆に小麦を売らなければ、兵の戦線は維持できずにこちらが戦火に巻き込まれる可能性がある。
平和の裏の戦火。戦火の上の繁栄。
これは割り切れるものではない。どうすることも出来ない。
「セフィリア様、もうお買い物はよろしいですか?」
「ええ、立食会へと参りましょう。そこで買ったばかりのエビを使ったピザを作りましょう?」
私は努めて明るく答える。キリコは今の話を聞いた私を心配してくれたようだが私は平気だった。
「セフィリア。こういう時まで自分の使命に忠実に生きなくて良いの。今日は久しぶりにお友達に会うのだから大人にならなくて良いのよ」
「分かりました。お母様」
そっと肩に手を添えられた私は、その手に自分の手を重ねて呟く。
「では行きましょう。キュピルくんに我がモラト・リリフィム領の料理を振る舞うのです」
「ええ、その意気だわ」
「ご立派です。セフィリア様」
二人を促し私達は、ランドルス侯爵の城を目指した。
感想に、料理名がいきなり出てきたので違和感を覚えた。というものがありました。
料理の名前や由来を新たに考えたり、既存の料理の名前を捩ると更に違和感を覚えると思って料理名は、ストレートに分かりやすく書きました。