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理論屋転生記  作者: アロハ座長
第Ⅰ部
17/53

三年目の試みは……

何も無かったりする

「セフィリア様。今年は、何も主だった政策は提案しないでください」



 春。これからが種蒔きの時期にどのような作物を栽培しようか、と画策している時にジークに釘を刺された。だから、私はあえて言っている意味を分からないと言う風に答える。



「どうして? 特産品が増えればそれに伴う税収も増える。公共事業で街道の利用を早く安全に行き来できるようになれば、悪いことはないわ」

「ここ数年は、ダイナモ様の残した政策と言うことでセフィリア様を表舞台から遠ざけ、政策を取ってきました。また直営店も侍女長キリコの創作料理が表向き。セフィリア様の存在は『父の意志を継いだ子ども領主』という評価が領民の間では定着しております。ですがこれ以上大々的な政策は、他の諸侯の目に止まってしまいます」



 確かに、それは私も考えていた。急激に力を持てば、あることないこと噂される。最悪、国家反逆罪で仕立て上げられて領地没収となれば、現代知識を利用した領内の発展は潰えることになる。能ある鷹は爪を隠すとは、良く言ったものだ。



「でも、私は止まるわけにはいかないわ。一日でも早い特産品の開発と街道整備。これが第一の目的よ」



 私がはっきりと言えば、ジークはとても渋い表情をしている。



「セフィリア様は、まだ八歳。生き急ぐことはないのです」

「ジーク、私はもうじき九歳よ。私も考えてないわけじゃないわ。街道整備の事だけど、少しずつ進めていくつもりよ。五年を目途に中央の町から大きめの農村を繋ぐ太い街道を限定的に整備するの。その他の細い街道は、不作の年の公共事業として……」

「セフィリア様!」



 私が得意げに話している時、ジークは怒鳴り声を上げた。今まで叱るときは、落ち着いた優しい口調の彼のそんな声を初めて聞いた。



「ど、どうしたの? そんな怖い顔して」

「セフィリア様、あなたの意志は素晴らしいですが……」



 膝をついて私の肩を掴んでくる。その手に込められた力は、痛くはないが子どもの力では外せない。



「あなたの身体は、あなた一人の身体ではないのです。もしも倒れられた時、私は、我ら領民はどうなるのです。今の仕事だって我ら執事や侍女たちが出来る仕事です。我らは、掃いて捨てていただいて構いませぬ」

「……痛いわ。ジーク」

「申し訳ありません。一介の執事、出過ぎた真似を」



 私の肩から手を離し、ジークは深く頭を下げる。この世界に生まれて初めてここまで強く叱ってくれた。今までは生前の記憶で、善悪の区別がついたために注意される以上の事はなかった。また私の立場は、領主。その立場からやはり叱れる者が少ない中でこうして叱ってくれたジークには感謝しなくてはならない。ただ、黙って聞き逃すことの出来ない言葉もあった。



「ジーク、心配は嬉しいわ。でも掃いて捨てる、という言葉は聞き捨てなりません。私から執事長に罰を言い渡します」

「……セフィリア様」



 どのような罰でも受ける。と言った感じでジークは深く頭を下げ、目を瞑っている。



「これから私は休憩に入ります。キリコと一緒に新しい料理を作ります。その試作品を食べてください」

「セフィリア様。それは罰ではないのでは」

「また口答えですか。では更に罰を追加して、お母様や私達の分のお茶の準備もよろしくお願いします」



 ジークは目を丸くして、今度こそ私の罰を受け取る。

 私は、満足げに笑って返せば、ジークは苦笑を浮かべて返してくれる。



「あと、ジーク。今年は、休養と言うことで、各地への視察を許可していただけますか?」

「分かりました。日程は私が管理します。リリィー様と共に親子の時間を過ごしてくださいませ」



 その返答に私は、上機嫌で厨房に向かう。

 途中であった侍女や執事達は、私の様子を見て、笑顔で見つめている。

 厨房では、既にキリコが料理の準備をしていた。だから、キリコには特別さっきの事を話そうかと思う。



「ジークがね。私を心配してくれたわ。急に怒鳴ったのは驚いたけど、とても嬉しいわ。それに、今年は多くの視察を許可してくれたわ」

「左様でございますか。ジークフルは、セフィリア様の事を孫のように可愛がっております。存分に我々を頼ってください」

「ええ、キリコの舌と料理の技術は信頼しているわ」



 ニーレ・ストールで創作料理として出してる料理は、私がアイディアや構想を提案しているだけの現状。いくら生前、図書館で料理マンガを読み漁り知識を持っていると言ってもレシピは、うろ覚え。私が食べたことのある料理なら大凡出来るが、やはり素人の感覚。一応、この世界の料理のレシピを調べてみたが、ハンバーグはあっても煮込みハンバーグは無い。シチューはあるが、ビーフシチューは無い。と言った具合で存外、やり応えがある。

 その素人のアイディアからキリコと共に試行錯誤を繰り返し、夏の追加メニューのレシピを完成させている。

 実は、最近料理が趣味の一つになりつつあるのだ。



「セフィリア様。今日はどのような料理をお作りになるおつもりで?」

「それはね。オリーブ油を混ぜたパン生地を薄く延ばして、トマトソースを塗って好きな具を並べたら、チーズで蓋をするの。季節によって上に乗る具が変われば、一年の長い時期を通して食べられるでしょ?」

「では、パン生地は、どれほどの大きさと厚さで」

「うーん。これくらい? それとも、もうちょっと大きく?」



 私が子どもの短い手で円を描くが、どうもしっくりこない。あれって大きさって特に決まって無かった気がする。



「分かりました。二枚作ってみましょう。そうすれば、具の組み合わせも考えられますし」

「そうね。小さめの生地には、タマネギ、ピーマン、ベーコン。大きめの生地には、スライストマト、ソーセージ、あと、アスパラも良いかも」

「それと、香草なども使ってみてはいかがでしょう? 香りは食欲を増進させますぞ」

「良い考えね」

 


 私達は、延棒でちぎったパン生地を円形に伸ばし、トマトソースと重ねて塗る。その上からたくさんのタマネギやピーマンなどの具をばら撒き、最後に細かく刻んだチーズを振りかけて竈に入れる。

 私は、奥で真っ赤に燃える竈の熱気にな得ながら、熱で焼かれる生地を眺める。チーズが良い感じで解けてきた。ああっ!火に近い方が少し焼け過ぎてるかも、生地を回して熱の伝わり方を均一にしないと、あとちょっと、うん、もう少し……今だ!



 取り出した生地の上のチーズは、ぷつぷつと沸き立ち、オリーブ油とチーズの香りが食欲をそそる。



「完成ですか? 小さい生地でも結構な量だと思うのですが」

「違うわ。これを八等分や十等分に切るの。こう、三角形の形になるでしょ? 端の所も持って先っぽから食べるの」



 切り分けて、一切れその場で食べて見せる。うん、昔食べたものよりも断然美味しい。素材も良い、何より自分の手で作った料理は、一層美味しく感じる。



「セフィリア様の考えは、本当に庶民らしい料理ですね」

「そうなの?」

「ええ、貴族の食事とは、厳かな雰囲気を重んじ、マナーに縛られて食べるものです。また社交界などのパーティーは、立ちながら簡単に食べられると言っても、素手で食べるなどと言うことは一切ありません」

「そうね。でも私の料理は、どちらかと言うと合理的なアイディアだと思うわ。領内にある食材を余すところなく美味しく頂く料理。それがこういった庶民に親しみやすい姿に変わるのよ。だから、キリコも食べましょう」



 私は、一切れお皿に移してキリコに差し出す。それを受けったキリコは、頬を綻ばせる。



「ピーマンは、早い出来で苦みが強いですが美味しいです。チーズが蕩けて良い香りです。これなら魚介類を乗せても美味しいのではないでしょうか?」

「でもこのモラト・リリフィムには海は無いわ。いつか海に行ったら、魚介のピザを作りましょう」



 私達がピザの感想を言い合っている間にも、二枚目が出来た。



「これを持って休憩中の使用人やお母様に振る舞いましょう。今頃、ジークがお茶の用意をしているはずよ」

「そうですね。私が庭先に運んで置きますので、セフィリア様は先に待っていてください」

「私が皆を呼んでまいります。皆の期待する顔から綻ぶ顔を見るのが楽しみなの」

「分かりました。楽しんでください」



 そう言って、キリコに送り出された。



 快晴の空の下、ジルコニア家の庭では使用人たちの笑顔が見られる。毎回出来る食べたこともない料理がこの城に仕えているために一番最初に食べられる。そんな役得に幸せそうに目を細める皆の顔を嬉しそうに私は眺めていた。

・セフィリアは、領主三年目の春を迎えた。

・セフィリアは、新たな趣味として料理を獲得した。

・セフィリアのレシピに、ピザが追加された。


 ゲーム風に纏めてみました。まえがきとあとがきは、基本おふざけです。遅いですがご了承ください。

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