直営店・ニーレ・ストール
営業開始された直営店。果たしてその成果はいかに
私は、このモラト・リリフィムの中央に位置する町で今話題の創作料理店に来ていた。
領主直営の創作料理店、ニーレ・ストールは、入れ替わり立ち替わり人が入っている。店内には、聞いたことのないような料理名と共に、詳しい説明の書かれたボードがあり、客はそれを見ながら料理を注文する。
「あっ、メペラさん。今日はどうしたんですか?」
「野菜を届けに来たついでに寄っただけです。調子はどうですか?」
私を見つけた従業員の女性が声を掛けてきた。
「ええ、多くのお客さんが満足しています。貴族に仕える侍女の創作料理だから敷居が高いと思われていたのですがとても庶民的で、最近では噂で遠くから人が集まってきます。特に、寒い冬には、温かいロールキャベツ、やラーメンが人気ですね」
店内の雰囲気は、貴族直営店とは思えない質素さ。表看板に直営の文字が無ければただの酒場と思われても仕方が無いほどだ。
「では、私も食べていきましょう。そうですね。パライカは何が食べたいですか?」
「えっと、僕は、ロールキャベツとナポリタンを食べてみたいです」
「では、私は、鶏肉のガーリックソテーと煮込みハンバーグを」
「分かりました。あちらの席へどうぞ」
そう言って案内されたテーブルからは、色んな人が見ることができた。
あの恰好は、新しい物好きの商人だろう、ほかにも靴が汚れた男は野菜を売りに来た農民、あっちで酒を飲み交わしている男たちは、工匠だろう。まるでこの領地の縮図のように同じ店で楽しく食事をしている。
周囲の会話に耳を傾ければ、中々興味深い会話が聞き取ることができた。
「俺、ニンニクを家で作っているんだけど、この料理の作り方教えてくれるか? 嫁さんにも作れそうだ」
「では、こちらがレシピになります。どうぞ、奥様や周囲の皆さまにも振る舞ってください」
そうして、従業員がエプロンのポケットから一枚の紙を渡す。なるほど、セフィリア様の言っていた需要を増して特産品にするとはこのことか。
あの農民は、自分の家で食べる分だけのニンニクを作ってるが、美味しい調理法を提供することで来年には、もっと多くの量を作るだろう。そして周囲にその味が広まれば、更に需要が増える。こうして特産品が生まれるようにするのだ。
さあ、どのような特産品がこのモラト・リリフィムに生まれるのか今から楽しみで仕様が無い。
「お待たせしました。料理はこちらになります。ごゆっくりと」
「わぁ~、どれも良い匂い!」
「そうですね。頂きましょう」
私は考えるのを中断して、料理に舌鼓を打つ。これはまた本当に庶民的だ。それでいて上品な味。民との距離も近い貴族が出せる味なのかもしれない。と思う。
もうじき冬が終わり、春になる。そうなれば取れる野菜が一変する。冬の野菜から夏の野菜。そしたら、また別の料理が追加されるかもしれない。その頃にはもう一度ここに来よう。
運営は良好なようです。ただ、従業員の経費や生産数の少ない野菜、その少ない野菜の運搬費で利益はほとんどないようです。
むしろセフィリアは、野菜の価値向上のために赤字覚悟だったようです。