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理論屋転生記  作者: アロハ座長
第Ⅰ部
15/53

新たな味覚

商人パライカの視点

 再びジルコニアのお城にやってきました。メペラ師匠は、今年の豊作を聞いて穀物が売れないかもしれないと言いながらも嬉しそうです。だって脱穀機は、仕入れて他の領地に売り込めば、すぐに買われます。だから今年は、メペラ師匠のお財布は温かいです。



 今は、領主のお母さんリリィー・ジルコニア様と執事のジークフルさんとお話をしています。僕のお仕事は必要のない時は、黙っていることです。



「今年は、豊作で何よりです。このモラト・リリフィムで取れた小麦は質も良く、大量に出回っているので良い値段で取引されております」

「まぁ、あの子が聞いたら喜びそうだわ。それで脱穀機の売れ行きはどう?」

「ええ、飛ぶように売れますよ。他の領主直営の小麦畑でも今年はそれを脱穀機を引く光景がみられるそうですよ。それにモラト・リリフィムは名実ともに【グラードリアの食糧庫】と呼べるでしょう」

「まだまだですわ」


 謙遜をしながらも本当に嬉しそうに微笑むリリィー様。とても綺麗な人だけど、本当は商人の天敵だと知りました。先ほどまで出荷する小麦の量や価格の話や脱穀機の販売などの話を。ジークフルさんにも引けを取らない交渉術と、終始笑顔な為に、内心悟られない腹芸を。正直、商人見習いの僕は取って食われてしまうのではないかと思いました。



「セフィリア様はどのようにお過ごしですか? 冬の間に暇を持て余しておられるのならまた本を探してまいりますが」

「それがね。今は、キリコと一緒に料理をしているのよ。今まで女の子らしい事より父の背を追うことに執着していたから嬉しいわ」

「まだ八歳ですからね。簡単な料理ですと、野菜スープやサンドイッチくらいでしょうか。モラト・リリフィムのハムや野菜は素材が良いですからね」

「それがね。キリコと一緒に新しい料理を研究しているのよ。なんでも、ジルコニア家の侍女長に相応しい秘伝の料理を作るんだとか。時折大人っぽいのに、こういうことは子どもっぽいんだから」



 苦笑いを浮かべるリリィー様。僕は、どんな料理なんだろうと想像して涎が垂れそうになる。



「それで出来はどうですか?」

「なんでも無い物が多いらしくて二人で四苦八苦。あんなに楽しそうに苦労する姿は初めて見たから嬉しいのです」



 その時、廊下をばたばたと足音が響く。



「セフィリア様! 淑女はそのように走りませんよ! 落ち着きになられてください!」

「お母様! ジーク! 出来たわ! スープが出来たわ」



 前見たときの凛々しい姿はどこへ行ったのだろう。エプロンをした金髪の少女は、満面の笑みで部屋に飛び込んでくる。そして僕らがいることを確認して慌てて身なりを整えて、曖昧な笑顔を作って会釈する。



「まぁ、それではみなさんで食べましょう。食事はたくさんの方が楽しいわ」

「そうですね。では、ご相伴に預からせていただきます」



 僕たちの前に現れたのは、深い容器の中に、白いスープで満たされ、その中には、黄色い麺とハムや茹でられた野菜が綺麗に並べられている。



 麺を使っているけど、パスタかな? でも、パスタのソースとは違うみたいだし、なんで白いんだろう。と思いながらも僕らは口を付ける。



 濃厚なスープは、塩味だが塩辛い訳ではない。野菜スープなのだろうが濃厚で美味しい。麺はパスタよりも太く、また珍しい味だ。付け合わせのハムや野菜も美味しい。僕らは、黙って食べていた。



「はぁ~。美味しかった。お腹の中ぽかぽかです。冬の寒い時期にはとても温まります」

「ええ、これは珍しい料理を作られましたね。これはどういった食材を使っているのですか?」

「ニンニクやニンジン、タマネギ、あとネギにそれから豚の骨を煮込んで、灰汁を取り塩で味を整えました。パスタの麺に卵を多めに混ぜて作りました」

「他にもどういった料理をお作りで?」

「キリコと一緒に、卵とチーズと牛乳を使ったソースにベーコンを混ぜて胡椒で味を調えたパスタや鶏肉をオリーブ油とニンニクでソテーした物、それから挽肉のお団子をキャベツで巻いてトマトソースで煮込んだ物、炒めた野菜や鶏肉をトマトソースで煮込みパスタと絡めた物、それから……」



 そのどれもが珍しい食材を利用したり、各地の特産品を使った料理に僕は口の中に唾液が広がるのを感じる。



「それは、美味しそうです」

「ええ、侍女長のキリコのお墨付き、侍女や執事たちにも好評なのよ。ふふ、これならいつでもお嫁にいけるわね」

「お母様。私はここの領主です。領主はお嫁にはいきません!」

「そうだったわね。私の農民としての感覚だったわね」



 母子の楽しそうな会話に僕は、とても温かい目で見ていた。



「ジルコニア家の直営店でも作りますか? 民の間では話題になりますよ」

「師匠。こんな時まで商売の話に繋げないでください」



 母親に抱きついていたセフィリア様は、目を丸くしてこっちを見ている。きょとんとした表情は、年相応と言った感じだが、次の瞬間には、感動に声を上げる。



「その方法がありましたわ!」

「どうしました! セフィリア様。落ち着いてください」



 侍女長のキリコに抱きつき、目を輝かせる。



「私は間違っていたわ。民に新しい作物への挑戦は必要なかったのよ! 元々多くの作物がこの領地にはあるもの。でもその食べ方を知らないだけだったんだわ。だから、領主直営店よ! 各地の生産量の少ない野菜や特産品を利用し、料理を提供。そして美味しい食べ方を知って貰うことで需要を増やし、各地の特産とする。うん。これだわ!」



 僕には言っている事は分からないが、つまり、これだけ美味しい料理が、民間で食べられるのだ。嬉しいことだろう。



「メペラ様、少し相談してもよろしいですか?」

「ええ、私の提供したアイディアです。最後まで見届けさせて頂きましょう」



 二人は互いに微笑みあっていた。領主のセフィリア様は、リリィー様やジークフルさんと同じように笑顔でその考えを悟らせない。この家の人間は一筋縄ではいかないことに。


領地の特産品問題解決へ向けて。

作戦は、美味しい物をたくさん食べるために、生産する。これが特産品となるように仕向ける。です。

安直過ぎますかね?



ラーメンの麺はかんすいを使うようですね。知りませんでした。

なので、太めのパスタで代用品です。ごめんなさい

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