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理論屋転生記  作者: アロハ座長
第Ⅰ部
11/53

商人・メペラとパライカ

今日は、商人視点でございます。


誤字脱字、悪文すみません。自分でも多すぎて発狂しそうです。

「初めて来ました。ここが領主のお城なんですね」



 商人見習いのパライカが周囲を物珍しそうに見ている。



「こんなのは序の口ですよ。このグラードリア王国の中央や西側貴族の城は、金や宝石がそこかしこに使われていますから」

「金や宝石!? ほぇ~、じゃ、じゃあ、もっと大きいんですか」

「ええ、大きいですよ。宝石の詰まった壺に金の蜀台、果ては、領主のネックレスまで貴金属と宝石だらけ!」

「そ、それが本当なら、僕達が五年、いや、十年は慎ましい生活が送れますね。メペラ師匠!」

「もちろん、嘘です」



 膝ががくんと落ちる。その姿に私は押し殺した笑いをする。



「ふふふ、パライカの反応はいつも私を愉快にさせてくれますね」

「止めてくださいよ、師匠。師匠は、商会の期待の星なんですから子どもみたいなことはしないでください」



 商会の期待の星。つまり、金蔓というわけだ。北のエラヴェール皇国やここグラードリア王国、北西のフェンミルス、その他多くの地で交易を行う商人集団【ウェス商会】。その実態は、収入に応じた年会費が取られ、そのお金で王侯貴族とのパイプを太く保つ商会。収入が多ければ多いほどウェス商会に収めるお金が多いことを意味する。だから、期待の星=金蔓なのだ。



「私としては、商会という縛りよりももっと自由に交易したいものです。あ、あと、各地を巡って特産品を食べるのは良いですよね」

「もう、師匠は、夢見がちですよ」



 子供っぽい弟子に諭されながらも、我々は、今日の商談相手を待つ。今回の商談相手は、モラト・リリフィム領の領主代理のリリィー・ジルコニアか、執事のジークフル・ムルムトフだろうと、予想する。



 前領主であり、通年の商談相手であるダイナモ・ジルコニアは、伝染病により若くして亡くなった。彼の意志継ぎ、領主になったのは、わずか六歳の子どもだ。去年は、事前に計画してあった交易品のリストが残されていた為に、執事のジークフルが事務的に――ただし、きっちりと値切られた――商談をこなした。今年も去年を元に購入するのだと思っていた。



「お待たせしました。メペラ殿、パライカ殿」

「これはこれは、ジークフル殿。お変わりない様子で」

「ええ。本日の商談は、セフィリア様も同行してよろしいですかな?」

「子どもに商談ですか? 早くありません?」

「こら、パライカ!」



 パライカの失言を叱りつけると、ジークフルは、愉快そうに笑い気にしていないことを伝える。



「セフィリア様は、商談自体に特に口を挟むつもりはないそうです。城の中で一年の多くを過ごすセフィリア様は、外の見聞に精通する商人殿のお話に興味がある様子なのです」

「そうですか、分かりました」



 その話を聞いて、私は少し同情した。まだ幼い。幼すぎる子どもが、父の意志を継いだことで失ったのは、我々が商会に入る時に失ったものと同じ――自由なのだ。と思った。




 ジークフルは、私達を一つの部屋に案内した。そこには、金髪、紅眼の人形のような少女が本を読んでいた。少女は、本を閉じてこちらに挨拶をする。



「お待ちしておりました、商人様。私は、当領主のセフィリア・ジルコニアと申します。以後お見知りおきを」



 隣で弟子がかわいいと呟いている。可憐なのは同意するが、相手は領主なのだ、失礼のないようにとあれほど言ってきたのに完全に呆けている。



「私は、メペラ・トロイス。こちらは、弟子の……」

「は、はい!パライカ・ロロンです!」

「では、商談を始めましょう」



 とても利発そうな子どもという印象だった。読んでいた本は【軍盤指南書】だ。読んでいた本からして現在七歳になった子どもとは思えない。同年代の子どもを持つ貴族や商人を相手にする時、子どものための童話を注文する人が多い。こんな本を読むのは、武門の家くらいのものだ。



「では、メペラ殿。来年用の備蓄のためのリストでございます。ご確認を」

「雑穀、じゃがいもを中心とした備蓄ですね。去年に引き続き、今年は不作ですか?」

「いえ、今年は比較的豊作なのですが、何時飢饉がおこるか分かりませぬ故、各家で安くても量の多い雑穀を買う傾向が強いのです」

「そうですね。不作年は、広範囲に穀物が不足する。餓死者が比較的少ないこの領地は、危機意識が高いですからね」

「……」



 セフィリア様の強い視線を感じる。子どもながらの責任? それとも使命感。食い入るように見つめる視線は、最初の可憐な印象、次の利発という言葉の全てを忘れさせるほど強い。それでいて何も言わない。それが私に強い緊張感を与える。



「メペラ殿、北の方では、今年は豊作だったようですな」

「ええ、ですから、穀物は例年より安いですよ」

「では、去年の備蓄の方をさらに安くしては頂けないでしょうか」



 この執事、執事のままにしておくのは勿体ない。こちらが優位なのに、常にその裏側の事情を知って突いてくる。豊作になれば、当然備蓄が増える。しかし穀物と言っても食べ物。何時までも持っていられるわけもなく、いつかは捨てる。それならば、古穀物を安く買おうとしているのだ。こちらの利としては、古い穀物がお金になる。あちらの利としては、安く大量の穀物が手に入る。



「それを加味した上で、紙面上の予想額の八割」

「いえ、六割で」

「……七割」

「五割五分」

「ええっ! なんで下がっているの!」

「分かりました。六割五分でお願いします」



 こちらが優位だったはずなのに、いつの間にかこちらがお願いする羽目になる。執事ジークフルという男は、にこやかに書面にサインする。

 


「毎回、楽しい商談をさせていただきます。私はお茶とお茶菓子を用意してまいります」

「ジーク、御苦労さま。お母様と一緒にお茶をしましょう?」

「そうでございますな。では、奥様を呼んでまいります」



 そう言って退室したジークフルの後姿を見て私は、溜息を付く。



「毎度、ジークフル殿には、驚かされます。あれほど有能な人が執事だとは、信じられません」

「私もそう思うわ。ジークは、お父様とお母様が絶対の信頼を置いていたのですもの」

「ぼ、僕も緊張しちゃいました。普通の貴族って値切ったりしませんもの」

「そうなのですの?」

「そうですね。法外な額を提示しなければ、気を良くして買ったりしますね。その点前領主様は、購入したものの多くを民に還元なさっておられました。それが美点であります」

「お父様は、常に民の事を考えておりました。きっと亡くなる最後まで民の事だけを」



 僅かに目を伏せて、穏やかな表情で語るセフィリア様。とても親を亡くした子には見えない程に気丈だ。



「メペラ様は、様々な地へ赴き商いをされているのですよね」

「はい、幼いころは私もパライカのようにあちこち連れ回されました」

「メペラ様から見て領地の問題点を教えていただけないでしょうか? 私は、外に出たとしてもここからもっとも近い農村だけ。お父様のように各村へと視察することは叶いません」

「そうですね。私は長いこと荷馬車や馬車で移動するので常々思うのですが、道の整備が不十分だと思うのです。「道が良ければ、物の流れも良い。物が多く流れれば、お金も多く動く」と昔師匠に言われたことがあるんです」

「僕は、馬車の移動が何時も怖いな。いつ盗賊や野党に襲われるか分からないから」



 申し訳なさそうにするセフィリア様。流石に七歳の子どもにこの話をするのは難しいと思った。



「申し訳ありません。私に力が無いばかりに。何時かは、治安維持を考えているのですが、そこまで手が回りません」

「こら、パライカ」

「ご、ごめんなさい。で、でも他の領地よりは、安全だよ。いつも移動には護衛を何人も雇わないといけないんだ」

「そう言って頂けるとありがたいです。お父様の作り上げた組織がきちんと役割を果たしているのですから」



 微笑み返す少女は、きっとリリィー殿に似て皆から愛される程に美人になることが予想できた。ただし、それまでの雰囲気が一転して、実務的な雰囲気を帯びる。



「実はお願いがあるのです」

「なんでしょう? 商人へのお願いには、お金が掛かりますよ」



 私は冗談半分で答えれば、ただ微笑で返される。



「珍しい書物が欲しいのです。とりわけ植物図鑑です」

「それはなぜでしょう?」



 私は興味を抱いた。この幼い少女がなぜそれを欲するのか知りたくなったためだ。



「我が領地のほとんどは農地。ですが、各地域には特産物といえるものは少ない。あるのは、東側の葡萄畑で作られるワインや森で取れる蜂蜜が少々。それも貴重品や貴族好みの趣向品。ですから民に受け入れやすい新たな作物を作りたいのです」

「なるほど、それで植物図鑑なのですか」

「ええ、あと金属が欲しいのです。鉄を」



 確かに、鉄は我々商会の扱う商品にある。貴族は自身の装飾品のために高い貴金属を買うが為に、貴族にしては安い買い物だが、その量が普通ではない。まるで何かを作るためのような量だ。



 彼女は、静かに本の脇から紙の取り出す。その一枚一枚には、拙いながらも独創的な絵が書かれていた。



「なんですか? これは、大きな鍬の絵のようですが。でも逆では?」

「はわぁ~、まるですきみたいですね。でも一本一本の歯は細くて数も多いですね。それに間隔も狭い」

「大きな犂のようなものは、脱穀機と言います。小麦などを稲と実を分ける際農家は、木の棒で叩いて分離します。しかしそれでは非効率なので、髪を梳く櫛のようにして途中の引っかかった物が落ちるのでは、と考えたのです」

「それで農具を作るための鉄なのですね。伺いたいことが幾つかあるのですがよろしいでしょうか?」

「なんです?」



 今度は、大人びた笑みを浮かべる。コロコロと見える表情が変わるので彼女の雰囲気に呑みこまれそうになるが相手は子ども。私は商人として彼女の行動に対して指摘する。



「なぜそのような重要なことを私ども商人におっしゃるのですか? 発明は、特許を取ることで莫大な利益を上げることが出来るのではないのでしょうか?」

「私は、特許や利益と言った物には、興味はありません。ですが、特許を取るのでしたら工匠会の名を借りて出願しようと考えております。そうすることで工匠会にも利益は落ちます」


「我々がその図を模倣し、特許を申請する可能性を十分考えましたか?」

「そのようなことをすれば、メペラ様とパライカ様の商人としての道は断たれます。商売人の鉄則としては、客の情報を口にすることは、信頼の破綻に繋がります。そしてこれはジークに事前に相談した結果、あなたは信頼に足ると判断されたから話しているのです」


 一問一答に的確に答えていく。まるで歴戦の商人と話している感覚に喉が渇く。


「では、もう少し質問を。これほど鉄を使う農具は売れば、かなり高額になります。農家はそれを買うことが出来るのでしょうか?」

「買って頂く必要はありません。領主として各村々に貸し与え、その年の終わりに修理費を税に上乗せすればいいのです。領地以外の販売は工匠会に任せますが、領内はそのような方法を取ります」

「それじゃあ、利益が無いじゃない。ただであげるのと同じだよ」



 この少女は、パライカの言葉にただにっこりと微笑む。それは領民を思ってのものだろう。だが別の側面から見ればこれは、首輪だ。便利な道具を貸し与えることで、より領民の支持を集めながらも反抗すればそれらを奪う。彼女は善人だからそのような真似はしないだろうし、前領主のダイナモ様は領民からの高い支持を得ているので民も反抗しない。しかし、他の領主ならば一種の鎮圧政策になる。



 この領主は、幼いながらも底が見えない。それとも背後に誰かがいるのか? 誰かの入れ知恵、誰の? 先代領主の残した政策か?



「では最後に。それらを行う上での資金は御有りですか? 商人にお金を借りるにしては、額が大きい。大きすぎる。そして、あなたには領主という肩書以外は何もない子ども。お金を貸した際の信用はありません」

「私の私財でお支払い致します。これが当座に蓄えられている額でございます」



 その額に私は、目を見張る。私ども商人が一年で稼ぐ額の何倍だ? 三倍、いや五倍はある。それを七歳の少女が稼ぎ出したと言うのだ。信じられない様子で隣のパライカは口をあんぐりと開けている。



 要望の品を買うには十分な額だが、このような大金のからくりを知りたい。



「これほどの額をどうやって」

「東の海軍は最近、軍盤以外に実用的な遊戯を導入したと聞きます」

「それが……まさか、特許!?」

「はい。子どものお遊びで作った物が、まさか大人の手が加わるとあそこまで変わるとは思いませんでした。御蔭で今年の冬は、ジークと二人で良い息抜きが出来ます」




 言葉が無かった。この少女は七歳の時点で、既に傑物の域に来ている。商人は本来一人の人間に入れ込んではいけないが、駄目だ。この少女には人を魅せる何かがあるのかもしれない。彼女に興味がある。彼女が何をしてくれるのか、どう変化を生むのかが楽しみで仕方が無い。それと同時に、商人の性で、この少女との関わりで自分がどれだけの利益を上げられるのかを打算的に考える。



「では、一つ契約する上で、出来上がった農具や今後の新製品の販売を優先的に私どもにしては頂けないでしょうか?」

「それは最初から考えておりました。商人は利が無い所には寄りつかない。でも逆に利が大きすぎる所は貪られてしまう。私は、商人様に当家専属になって頂いて、私どもを他の商人から守って頂きたいと考えております」

「す、凄い話です! 師匠」

「商人は、誰かと共にすることはありません。その家が潰れたときの潰しが利かない。商人と顧客は一線を引く形があるべき姿です」



 少女は、私の回答に驚き、目を見開くがすぐに納得したような顔になる。



「分かりました。では我々の方で商人・メペラ様とパライカ様以外とは取引しないよう心がけましょう」

「では契約書は、どのように」



 それからは談笑を交えて彼女の用意した契約書を確認した。セフィリア・ジルコニアという領主は、有り程で言えば無力だ。だが異常でもある。話せば、子どもらしさはあるが、どこか大人びており、普通の子どもでも知ってる知識に目を輝かせる。

 


 本当に不思議な小さな領主様だ。



「セフィリア。こんなところにいたのね。風邪を引いてしまうわよ」

「お母様、それは先週のお話です。セフィリアは元気です」

「お待たせしましたな。メペラ殿、パライカ殿。当家のお茶菓子でもどうですかな?」

「頂きます」

「わぁ~、甘いお菓子だ!」



 目の前の母子の姿に先ほどの小さな領主の姿はない。本当に、母の膝に抱きつく普通の親子と言った感じで心が和む。



「お母様。セフィリアは、初めて自分でお買い物をしましたわ」

「そう、それは良かったわね。冬の間に楽しめそうな物は買えたかしら?」

「はい!」



 ……まさか、あの商談を初めての買い物扱いとは。それに、初めての買い物が大量の鉄とはまた。と苦笑する。ああ、この少女の注文した本の中に流行りの小説でも紛れ込ませて送ろう。そうすれば、少しは自分の異常さに気がついて、恥ずかしい感情でも抱くかもしれない。



 色々と目の前の小さな領主との商談で得た純利益や少女自身とのやり取りに、自分も笑みが零れていた。

私の商人イメージです。

めっちゃ、互いに目的に為ならと打算的です。はい。

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