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彼と彼女のお仕事 前編

いよいよ、日和(陽麻里)と銀百合(悠里)のスパイのお仕事に迫る!

と、思ったら、なかなか思うように進まなくて・・・


新しいキャラクター登場です。



 今回のお話は、悠里と陽麻里のお仕事ー・・・つまり、スパイについてのお話です。


 --------------------------------------------


 いつ見ても。

 いつ見ても、ここの雰囲気には慣れることができない。

 無機質な壁、無機質な扉、無機質な照明、そして、無機質な人間。

 ここには、無機質ばかりが集まっていて、温かいモノなんて1つもなかった。

 秘密結社「シャドウ」のビルの中。

 「銀百合様。日和様。」

 不意に声をかけられて我に返る。

 「少しお時間がかかりますので、こちらでお待ちください。」

 案内人の男性が指した方向には食堂。次に彼に目を向けたときは、彼の姿は跡形もなくなっていた。

 

 「ぎんゆり~」

 食堂で頼んだアイスコーヒーに、どばどばと砂糖を入れながら彼女は彼を呼ぶ。

 「何。・・・ひより、それ入れすぎだと思う・・・」

 「まだ足りなーい」

 銀百合と日和。

 それは、悠里と陽麻里のここでの呼び名。

 この名前で呼ぶとき、2人は中学二年生ではなく、スパイの一員となる。

 甘ったるいコーヒーを満足そうに飲みながら、2人は他愛もない話を始める。

 「ぎんゆり、今日の任務はなんだろね~」

 「・・・さあ」

 「こんな暑い日に体力使うのはカンベンかも」

 「・・・うん」

 「今日の晩ご飯、何だと思う?」

 「・・・分かんない」

 つかの間の沈黙。

 「・・・ぎんゆりのバカ」

 「え・・・何で・・・」

 彼としては普通に会話をしていたはずなのだが、日和はそうは思わなかったらしい。

 「それじゃ、会話になってないもん」

 日和が手首を振るたびに、

 カラン、コロン、と涼しげな音を立てて、空のグラスの氷が転がる。

 そのまま2人はそれぞれの思考へと潜っていく。

 聞こえるのは、日和の氷の音だけ。

 「・・・寂しい場所だね、ここって」

 しばらくして、ぽつん、と日和が呟いた。

 そうだね、と銀百合が答えようとしたとき、

 「すみません、遅れました」

 さっきとは違う男性が現れた。しっとりとした黒髪に黒縁めがね。年は恐らく自分たちより

 少し上をいくだろう・・・高校生といったところか?

 どことなく温和な雰囲気を醸し出しながらも、その双眸は氷のように鋭い。

 「僕は、柿田圭介(かきたけいすけ)といいます。今回あなたたちと一緒に任務をすることになりました。よろしく」

 一通り自己紹介を終えた後、銀百合は圭介の胸についているピンバッジに目を留めた。

 「柿田さん、それって・・」

 一瞬キョトン、とした彼はあぁ、と穏やかに笑って、

 「これかい?これは『CROWN』の称号だよ。だから、柿田圭介っていう名前も本名だよ」

 ぞわり、と2人の背中に悪寒が走る。

 

 『CROWN』

 それは、選ばれし者だけがその地位につける幹部グループ。

 その、能力・頭脳・体力は飛びぬけており、誰も彼らを襲うことができないことから、

 彼らだけは本名を使うことを許されている。


 「・・・そういえば」

 ふと、圭介がまじめな顔になった。思わず2人は姿勢を正す。

 「・・・いや、なんでもないよ。あ、僕のことは圭介って呼んでもかまわないから」

 そのまま本題に入るのかと思いきや、圭介は食堂でアイスコーヒーを頼んでいる。

 「かき・・・圭介先輩」

 「ん?どうした、日和ちゃん」

 ミルクも砂糖も入れずにコーヒーをすする圭介。

 「あの、任務の話しないの?」

 彼は低く唸った後、

 「うーん・・・そうしたいのは僕もやまやまなんだけど・・・」

 ぐびっ、とコーヒーを一気飲みした彼は、

 「よし!ちょっとついてきてくれるかな」

 

 --------------------------------------------


 カタカタカタ・・・・

 薄暗い部屋に響くのはキーボードを打つ音だけ。

 「ここで立体映像(ホログラム)を使うとなると、必要になる・・・」

 彼のつけているゴーグルが液晶画面の光を反射してその目は見えない。

 カタカタカタ・・・・カタ

 ふと、せわしなく動いていた手が止まった。

 「・・・ん・・・何か忘れてる気がする・・・」

 

 --------------------------------------------


 「かーきーたー先輩ー」

 「何だい、日和ちゃん」

 「どこ行くのー?」

 「うーん・・・それは僕も分かんないなぁ」

 「えーどういうことー?」

 隣で2人のゆるい会話を聞きながら、銀百合は考え込んでいた。

 (・・・ひまりは、ひよりになると敬語を忘れる・・・)

 直させたほうがいいのかよく分からないが、圭介は気にしていないようなので別にいいのかなー

 とも思う。

 「つまりね、君たちの担当をつとめる人物がもう1人いるんだ。でも・・・」

 「・・・どこにいるのか分かんない・・・」

 銀百合が小さくつぶやく。

 「ご名答。なにせ、ちょっと変わった奴だから・・・」

 そんな事を話しながら歩いていると、大きな扉の前に突き当たった。

 「ここは?」

 「ここは、下っ端・・・低級能力者たちの集まっている場所だよ」

 ギィィィ・・・

 扉が開く。そして、その中に足を踏み入れた瞬間、

 「あー!!圭介だー!!」

 そこには大勢の人、人、人・・・

 「圭介、どうしたの?久しぶり」

 「圭介、ついに低級能力者(こっち)まで、降ろされたか?」

 どうやら彼は人気者のようだ。呆然としている日和と銀百合を圭介はみんなの前に立たせた。

 「こらこら、そう騒ぐなよ。今日はほかの人も居るんだから。

  こっちの女の子が日和ちゃんで、男の子が銀百合くん。2人とも中学生だよ」

 かわいいーとか、かっこいいーとか、色々な声が飛んだ。

 「レベル的にはいくつなの?」

 おじさんが興味津々な顔で聞いた。答えたのは圭介だ。

 「レベル4・・・上級能力者だよ」

 途端、しん・・・と静まり返った。そして、

 「うわー、お嬢ちゃんたちには失礼な振る舞いしちまったかー」

 「上級能力者だったなんて・・・失礼致しました」

 銀百合が

 「・・・何でもいい・・・」

 日和が

 「あたしはフレンドリーな人、好きだよー?」

 と笑う。

「お嬢ちゃんたち、なんていい人なんだ・・・」

 「神様だー」

 目に涙をいっぱいためて2人の周りに群がる人々。と、

 「あのさー、僕には敬意とかないの?一応、超級能力者なんだけど」

 圭介が冷めた目で自分を指差す。

 それに対し、人々は

 「えー」

 「だって」

 「圭介は」

 「昔と」

 「全然」

 「変わって」

 「ないもん」

 あっはっはーと皆一斉に笑う。

 「うーん・・・なんか、不公平だ・・・」

 圭介はぶつくさ言い、はっ、と顔を上げた。

 「ところで、あいつ知らない?」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・。

 奇妙な沈黙の後、

 「し、知らないよねぇ」

 「・・・うん。俺たちは知らんぞ?」

 「あいつがさっきまで部屋にいたけど、なんかマシンがどうとか言って出ていったことも」

 「もうすぐトラブルを起こすかもしれないってことも分かんない」

 圭介が眉をひそめる。

 「それって・・・もしかし――――」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・

 突如として、大きな地響きのような音が空気をふるわす。

 「え、何――――」

 言い終わる前にぐいっと、身体を引っ張られる。

 「圭介先輩」

 「2人とも、大丈夫?・・・怪我はないようだね。良かった」

 何とか笑顔を作ろうとしているが、体からはふつふつと怒りが湧き上がっている。

 「・・・さて、僕らの待ち人の登場のようだよ」

 彼が静かにつぶやいた。

 


 

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