彼と彼女の学園生活
「彼と彼女のスパイな理由」第2話です。
陽麻里と悠里は、学校ではどう過ごしているのでしょうか?
という、お話です。
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「急げ、急げぇっ!」
自分より頭1つ分くらい大きい悠里の手ひいて、陽麻里は校舎内を全力疾走していた。
「・・・もう、間に合わないと思うけど」
「諦めるんじゃないっっ・・・ほらっ、教室だ!」
陽麻里の視界に“2-1”と書かれた白いプレートが飛び込んできたとき、
キーンコーンカーンコーン
残酷なチャイムの音が、校舎内に響き渡った。
「あぁぁ~・・・・遅刻だぁ~・・・」
「だから言ったじゃん」
がっくりと肩を落とす陽麻里と、全然気にしていない様子の悠里。
さっきまでの勢いはどこえやら、陽麻里は項垂れたまま、教室のドアを引いた。
「おはようございまーす・・・」
瞬間、
「遅いっ!!今までどこで何をしてたんだ!」
怒鳴り声が二人を襲う。陽麻里が目を向ければ、
筋肉隆々のスポーツマンボディに、厳つい顔、シャツではなく、なぜかタンクトップという服装の男性
・・・担任の大橋だ。
「・・・すいません、寝坊です・・・」
「寝坊だと!?早くに寝ないからそんなことになるのだ!寝る前はゲームやテレビ禁止!!
液晶画面は寝る前に見ると、眠れない元だ!わかったな!」
説教の中に、さりげなく豆知識を入れてくるのが大橋流の叱り方。
陽麻里はもう一度謝ると、席に着いた。
「では!気を取り直して、今日の予定を・・・」
相変わらずな大声を聞きながら、陽麻里は密かにムカついていた。
(ユーリのやつ、あたしにだけ謝らせといて、自分は耳をふさいでるなんてっ・・・)
理不尽な怒りである。そもそも、遅刻したのは陽麻里のせいなのだが、本人はまったく気づいていない ようだ。
「ひまり、一時間目、体育だから、体育館行こう」
気づけば、悠里が目の前に。
「あ、そう・・・分かった、すぐ用意する」
体操服の入った袋を片手に持ち、悠里と教室を出ようとしたところに
「ねぇねぇ、陽麻里と悠里って付き合ってんの~?」
後ろから声がかかった。振り返るとそこにはクラスメイトの女子数人。
全員目をキラキラさせて興味津々に聞いてくる。
「それ、ずっと気になってたぁ~!どうなの、付き合ってんの?」
「いつも一緒に居るもんねぇ~」
詰め寄る女子たちに悠里がたじろぐ。
「え、えっと・・・」
陽麻里に“助けて”と、目で訴えかけるが、陽麻里無視。だって、滅多に動揺しない悠里がたじろぐな
んて、おもしろすぎるじゃん!心の中でほくそ笑む陽麻里。
その間にも女子たちの質問はどんどんエスカレートしていき、
「初チューいつ?っていうか、手はつないだの?」
「どっちから告白したの?私の予想は陽麻里なんだけど!」
完全に陽麻里と悠里が『そんな関係』になっているので、さすがに陽麻里も口を挟まざるを得ない状況
に。
「あんたらねぇ~・・・なに勝手につきあってることにしてんの。あたしとユーリは付き合って
ませーん」
「えぇ~、そんな事言って本当は付き合ってんじゃないの?」
じとっとした目を向ける女子たち。
そこで陽麻里は奥の手を使うことにした。
「だいたい、あたしには好きな人いるし。ユーリはいるか知らないけど・・・」
そのとたん。彼女たちから『キャーっ』と歓声があがった。
「ほんと!?誰!誰!?」
・・・ますますヒートアップしてしまった。
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「あぁ~疲れた・・・」
あの後10分ほど彼女たちの追及にあい、なんとか逃げ出すも『遅刻だ』と体育教師にこってり
しぼられ、心身ともにくたくたである。
隣で歩いている悠里もこころなしか目に光が宿っていない。
「暑いー・・・ユーリ、放課後アイス買いに行こー・・・」
汗と湿気を多く含んだ空気を身にまとい、陽麻里は声をかけた。しかし、返事がない。
見ると、彼は下を向いて歩いている。
「・・・?ユーリ?」
怪訝な顔で彼を覗き込んだ陽麻里は、
どくん、と心臓が大きく脈打つのを感じた。
じわりと手のひらに汗が浮かぶ。
何も映っていない瞳で静かに考え込む姿は。
まるで、あの時みた
「ひまり」
不意に、悠里が立ち止まる。陽麻里はぶんぶん、と頭を2度3度振ると、彼を見上げた。
その顔はもう、無表情ではない。しかし、かわりに、悲しげに瞳が歪んでいる。
「さっき、ひまりは好きな人いるって言ったけど、それって―――――――」
ピロピロリン♪
リリリリリッ♪
同時に電子音が鳴った。慌てて携帯を見るとそこには
『シャドウ』
と記された、青い文字が浮かびあがっていた。
誤字脱字等、ありましたら教えてほしいです!
次は、ようやく二人のお仕事に迫る!?