【短編小説】女子大生under the ティーコージャー
晩めしを食い終えてお茶を飲みながら、大して興味のないプロ野球をボンヤリと眺めつつスマートフォンを弄んでいた。
弄ぶと言うとまだ高級な言い方で、やっている事はX(旧ツイッター)上で見たミソジニー発言をポチポチとリポストしているだけだ。
女が嫌いか、と訊かれたらそうだと答えるだろう。
俺は基本的に女が嫌いだ。
怠惰で適当、言ったことの半分もやらない癖に言い訳と責任転嫁だけは一丁前にしてのける。
信用ならない。
その様な意見を見つけてはリポストして回る。
どうせフォロワーは俺のアカウントがするリポストをミュートしてるか、俺のアカウントそのものをミュートしてる。
別に俺のリポストを見た誰かをミソジニストにしたい訳でも無いが、自分は一体なにをしているのか、と思わないでもない。
自分がどう思われようと構わない。
それ以上に女が嫌いだった。
テレビ画面の中で知らない選手が知らない投手の放ったボールを打ち上げる。
日本一を決める試合だと言うが、点差を見ると一方的な展開になっていた。
なかなか少年マンガのようなギリギリの攻防にはならない。
そんなものだ。
最終戦、3点差の9回裏ツーアウト満塁、エースと四番の対決!みたいな事は滅多に無い。
……と、その画面が急に消えた。
隣に座る妻がリモコンで消したのだ。
俺は黙って妻を見た。
妻は俺を見ず自分のスマートフォンに目を落として
「興味も無い癖にテレビ見てないでよ」
と言った。
たしかに大きな興味は無い。
ただ、どちらが勝っても久しぶりの日本一と言う瞬間をなんとなく見てみたくなっただけだ。
「あぁ、そうだな」
俺はソファに浅く座って、自分のスマートフォンに目を遣りながら、再びミソジニストの意見やデータをリポストした。
その合間に若くて綺麗な女の着エロ画像を見てファボを付けていた。
「それなのよ」
妻はスマートフォンをテーブルに置いた。
その画面には俺のアカウントがファボを付けたポスト一覧が表示されている。
「あなたは、結局のところ女を嫌いなの」
深い闇色をしたため息と共に妻は言った。
俺は妻を見たまま身じろぎひとつせずに、妻が発するであろう次の言葉を待った。
妻は短く息を入れると
「あなたは女が嫌い。それは別に良いの。あなたがそう言う人なのは知ってるから。
でも女が嫌いなのに、あなたはこうやって若い女の画像にファボを付ける。
結局あなたは若くて綺麗な細身の巨乳女が好きで、そんな女があなを好きだって言いながら寄ってきたら、私の事なんかあっと言う間に捨ててしまうんだわ」
そう言うと麦茶みたいな色をした濃い水割りを一息に飲み干した。
また始まったな、と思う。
それなら俺のアカウントなんか見なければ良いのに。
俺はウンザリしながらいつものように
「じゃあその俺を好きな若くて美しい細身で巨乳の女子大生を出してみろよ」
煙草が吸いたい、と思いながら言った。
もしかしたらそう思っただけで、実際には煙草が吸いたいと言っただけかも知れない。
どちらでも構わなかった。
妻は再び短く息を入れると、
「そう言うと思ったわ」
と言ってテーブルの上にあるティーコージャーを持ち上げた。
その中には身体160cmほどの色白で細身の隠れ秘密巨乳女が眠るように横たわっていた。
首からは有名国立大学某の学生証を下げており、手には俺の書いたインターネット小説を表示したスマートフォンを持っている。
「出したわよ」
妻はそう言うと一気に爆発四散した。
部屋には俺と、妻の出した謎の女が残されている。
俺は妻が消したテレビをつけて、プロ野球の日本一がまだ決定していないのを確認しつつ、死ぬ事を決めた。
俺の物語。
俺は自分のスマートフォンを操作しながら、七輪と練炭を買った時に警察に通知が行かないかを調べた。
妻が出した謎の女には勃起しない。女と俺には物語が無い。
野球の試合が終わり、日本一が決定した。
テレビを消した。
俺は何が正解だったのか考えようとしてやめた。
俺が死んだ後にこの女がどうなるかなんてのはどうでも良かった。




