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二階へ

 

          ◯



 館内中央の階段を上り切ると、正面には一際豪華な装飾のある扉が現れた。


「こちらがオーナーの部屋です。本日は体調不良のため、お休みになっています。ですので、この部屋には絶対に入らないように。いいですね?」


 ルナさんは念を押すようにして言う。


「わ、わかりました」


 オーナーは体調不良。

 この様子だと、今日は顔合わせも難しそうだ。


 オーナーの部屋を中心にして、左右にはそれぞれ三つずつ部屋がある。

 私の部屋は右端だというので、ルナさんと一緒にそこへ向かった。


「こちらが叶さんの部屋です」


 入口の扉が開かれた瞬間、ふわりと爽やかな風が中から溢れた。


 そこは十畳ほどの清潔な部屋だった。

 淡い色合いのベッドに、木製のシンプルなデスクとチェア。それからテレビやポット、電子レンジなども完備されていて、まるでホテルの一室のようだ。


 白いサッシの窓は少しだけ開いていて、カーテンレースが音もなく揺れる。


「制服はクローゼットに用意しています。サイズの合うものを選んでください。私は隣の部屋で待っていますので、着替えが終わったら声をかけてください」


 それでは、とルナさんはさっさと部屋を出て行ってしまった。


 流れるような説明に、私は終始置いてけぼりだった。

 未だ心の整理がつかないまま、ぼんやりとクローゼットの方へ目をやる。


(制服に着替えて……って、言ってたよね?)


 制服に着替えるということは、やっぱり私はすでに採用されたのだろうか。


 それとも、今日これからの私の働きぶりを見て判断するつもりなのだろうか。


 ルナさんの思考が読めないまま、そっとクローゼットを開けて中を確認する。

 甘い花のような香りとともに、扉の奥からは数着の制服が姿を現した。


 落ち着いた深緑色のワンピースと、真っ白なエプロン。それから白いフリル付きのヘッドドレス。


「わ……。これ、もしかしてメイド服?」


 思わず、声が漏れる。


 コスプレ用ではない、おそらくはクラシックなメイド服を実際に触ったのは初めてだった。

 サラサラとした生地は上品な(つや)があって、きっと高価なものだろうと思われる。

 

 少しでも傷をつけたら弁償が大変なことになるのでは……という緊張感に包まれながら、私はその服に袖を通した。

 部屋の隅にある姿見の前で、全身を整える。


 鏡の表面に映っているのは、ぎこちない表情でメイド服に身を包んだ私。

 こういう格好をするのは初めてで、妙に落ち着かない。


 でも、戸惑ってばかりではいられない。

 せっかく掴んだ仕事のチャンス。これを棒に振るわけにはいかないのだ。


「よ、よし。がんばるぞ……!」


 小声で気合いを入れていると、窓の外では「なーん」と猫の鳴き声らしきものがかすかに響いていた。

 

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