カフェスペース
◯
「一階の部屋は、ここで最後です」
「わぁ……」
最後に案内された部屋は、まるでカフェのような内装だった。
真っ白なテーブルクロスのかかった丸テーブルがいくつか並び、開け放された扉の向こうにもオープンテラスが見える。
日当たりが良く、窓から入ってくる光が白い壁に反射して、部屋全体がとても明るく感じられた。
「以前はここで軽食の提供もしていたのですが、今はやっておりません。奥の厨房だけは変わらず使用していますが」
言われて奥を見てみると、確かに厨房の入口らしき扉があった。
どうやらそこからも二階に上がれるようになっているらしく、ここで食事を用意して、食べるのは二階でということらしい。
こんなにお洒落なカフェスペースがあるのに、今は見学するだけの場所になっているのはもったいない気がした。
もしここでカフェを開いたら、きっと素敵だろうな——と、その光景を思わず想像する。
「なぁーん……」
と、そのとき。
どこからともなく、猫の鳴き声が聞こえた。
ハッと我に返った私は、すかさずその声の出どころを探した。けれど声の主はどこにも見当たらない。
そこで、ふと思い出す。
そういえば、さっき敷地の外で見かけた黒猫は、このオープンテラスから館内へ入っていったのではないかと。
「あの、ルナさん。ここって、猫ちゃんを飼っていたりしますか?」
私が尋ねると、ルナさんは眉の辺りをぴくりと動かしたものの、表情は変えないまま静かに首を横へ振った。
「いいえ。猫は飼っておりません」
「えっ」
予想外の返答に、私は固まった。
さっきは確かに、黒猫はこの扉から中へ入っていったはず。庭を横切って、迷うことなくこの建物に飛び込んだのだ。
けれど、ここでは猫は飼われていない。
ということは、あの黒猫は勝手に中へ入り込んだだけの野良猫なのか。
(じゃあ、もしあの子を見つけたら、追い出さなきゃいけないってこと……?)
せっかく可愛い猫と一緒に暮らせると思っていたのに、なんだか裏切られた気分だった。
せめてちょっとだけでも戯れるチャンスがあればいいな、と希望を捨てきれずにいると、
「あ」
再びオープンテラスの方に目を戻したところで、庭の端に、一匹の猫がちょこんと座っているのが見えた。
先ほどの黒猫……ではない。
明るいオレンジ色の毛に、茶色っぽい縞模様の入ったその子は、茶トラの猫だった。
彼、あるいは彼女は私と目が合った瞬間、すぐ後ろにあった木の向こう側へ隠れてしまった。
あの子も野良猫だろうか。
もしかすると、この周辺には野良猫が多く集まっているのかもしれない。
「さて。そろそろ二階へ上がりましょうか」
ルナさんが先に部屋を出て、私もその後に続く。
どこかに黒猫がいないかとキョロキョロしながら、私は廊下を進んでいった。




