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異世界恋愛短編

『嫌われたいので「お前のパンを焼きそばパンにしてやろうか!」とライバル令嬢を脅したら、なぜか「異国の珍味を振る舞ってくれるなんて!」と感謝され、殿下からは「照れ屋な聖女」と認定されました。解せぬ』

作者: 神野あさぎ
掲載日:2025/12/03

「キエェェェ! シャラップだ! この泥棒猫ぉ!」


 王立学園の中庭。

 私、悪役令嬢エリザベスは、高らかな奇声と共に、男爵令嬢マリアの前に立ちはだかった。


 狙うは婚約破棄だ。

 堅苦しい王妃教育なんてまっぴらごめん。私は嫌われて、追放されて、自由なスローライフを送るのだ!


 そのために、私は前世の記憶にある「最も恐ろしい不良」の真似をすることにした。


「マリア! お前、調子に乗ってるんじゃないよ!」


 私はポケットから、今日のために用意した「嫌がらせアイテム」を取り出した。

 それは、購買で買ってきた「焼きそばパン」だ。

 炭水化物に炭水化物を挟むという、カロリーの化け物。これを無理やり食わせることで、彼女を太らせ、辱める作戦である。


「食らえ! この茶色い塊を、口の中にねじ込んでやろうかぁ!」


 私は鬼のような形相でパンを突きつけた。

 さあ、怖がれ! 泣いて逃げ出せ!


 しかし、マリアは瞳をキラキラと輝かせた。


「まぁ……エリザベス様! それは、伝説の『ヤキソバ・パン』ではありませんか!?」

「あ?」

「東方の島国でしか食べられないという、幻の庶民グルメ……! 入手困難で、今の王都では金貨一枚でも買えないと聞きますわ!」


 え、そうなの?

 これ、私が夜なべして麺から打ったんだけど。


「昼食を食べ損ねた私を気遣って、そんな貴重なものを……!

 しかも『口にねじ込む』だなんて、私の手が汚れないように食べさせてくださるおつもりですか!? なんてお優しい!」


「はぁ!? ちげーよ! これはカロリー爆弾だぞ!? お前をブクブクに太らせてやるっていう脅しだ!」


「まぁ! 最近痩せすぎだと悩んでいた私の健康まで気遣って……!」


 マリアは私の手からパンを奪い取り、ガブリと頬張った。


「んん~っ! デリシャス! ソースの香りがたまりませんわ! エリザベス様、一生ついていきます!」

「なんでだよ!!」


 失敗だ。

 だが、まだ手はある。

 私は次なる作戦に出た。


「だ、黙れ! 次はこれだ!」


 私は持っていた「水入りのバケツ」を持ち上げた。

 古典的だが効果は絶大。これを頭からぶっかければ、さすがに怒るはずだ。


「冷たい水を浴びて、風邪でも引くがいいわーッ!」


 ザパーン!!

 水は見事にマリアに直撃した。


「きゃっ!」


 よし! やった! これで私は退学処ぶ――


「……ふぅ。生き返りましたわ」


 マリアが爽やかな笑顔で髪をかき上げた。


「え?」

「実はさきほど魔法の授業でボヤ騒ぎがあって、少し火傷を負っていたのです。

 エリザベス様の的確な消火活動と冷却魔法(ただの水)のおかげで、痛みが引きました!」


「はぁ!?」

「タイミングと言い、水量と言い、完璧です! 私の肌の乾燥まで防いでくださるなんて!」


 周囲の生徒たちがパチパチと拍手をし始めた。

 「さすがエリザベス様だ」「慈愛の悪役令嬢だ」とか聞こえてくる。意味がわからない。


 そこへ、騒ぎを聞きつけた婚約者のレオナルド殿下がやってきた。


「エリザベス! 貴様、何をしている!」


 来た! 断罪イベントだ!

 私はニヤリと笑い、殿下に向き直った。


「ふん、見ての通りだよ殿下! この泥棒猫に水をぶっかけ、炭水化物を食わせてやったのさ!

 どうだ、私が恐ろしかろう! さあ、婚約破棄を宣言しろ!」


 私は精一杯、ヤンキー座りをしてメンチを切った。


 殿下は私を凝視し、そして……顔を真っ赤にして口元を覆った。


「……くっ、可愛い」

「あ?」


 殿下は震える手で私の肩を掴んだ。


「空腹の友には貴重な食糧を分け与え、火傷の友には即座に水をかける。

 それほどの善行をしておきながら、照れ隠しで『悪女』ぶるその姿……! なんと健気で奥ゆかしいんだ!」


「耳腐ってんのかテメェ!」


「しかも、その『ヤンキー座り』という独特のポーズ……小動物が威嚇しているようで、守ってあげたくなる愛らしさだ!」


「眼科行け眼科!」


 殿下は私の手を取り、跪いた。


「エリザベス、改めて誓おう。僕には君しかいない。君のような、不器用で心優しい聖女こそ、未来の国母にふさわしい!」


 マリアも横で「おめでとうございます! お似合いですわ!」と拍手喝采だ。

 中庭中が祝福ムードに包まれている。


 違う。

 そうじゃない。

 私はただ、スカジャンが似合う女になりたかっただけなのに。


「離せぇぇ! 私は悪だ! 夜の校舎の窓ガラスを全部割って回るぞぉぉ!」


「ははは、またまたご冗談を。換気のために窓を開けてくれるというのですね? 働き者だなあ、僕の愛しい君は」


 私の悲痛な叫びは、爽やかな青空に吸い込まれていった。


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