【9】
それから時は過ぎ、温泉に行く前日のこと。
「これは入れたし、これもいるし」
凛は荷物の最終確認をしていた。一応、何かあった時のために、襦裙を数着用意しておく。
「どうしたの、凛?」
優が美明を抱えたままやって来た。すっきり体調が良くなったようで、少しふっくらしている。そんな彼女からは、甘い香りがしてくる。
「明日、温泉に行くから、その最終確認」
「ああ、そうか…。いいな」
優は美明を抱え直すと、凛をじっと見つめ、言ってくる。
「…あたしも行っちゃ駄目?」
「え…。何で?」
あまりにも突然な申し出に、凛は大きく驚く。せっかく雅巳と2人っきりなのにと思う自分と、疲れている優を連れて行ってあげたいと思う自分と、2つに分かれる。
ー最近、ふらりと出かける時があるって、お父さんとお母さんから聞いていたしな。
暴力夫がいなくなったのをいいことに、凛が散歩中に出かけることがあるらしい。「危ないからやめて」と大雅と定は言ったらしいのだか、ここ数日、そんな感じらしい。無事に戻ってくるから、2人とも安心しているらしいが、慎二に捕まるのだけは勘弁だった。
「どうしたの、急に?」
「その…。この地から出たいというか…。あの、美明は定さんに任せては駄目かしら?」
「えっと…別にいいと思うけど」
凛も困惑気味に答える。さすがに美明は置いていったほうがいいと思うが、一緒に温泉に行きたいなんて大丈夫だろうかと思う。
ーここにいたくないのは分かるけど…。
雅巳が嫌がらないか心配だった。しかし、もう夜なので聞くことはできない。凛が判断するしかなかった。
ーどうしよう。えっと、えっと…。
考えに考えて、凛は慎重に言葉を選ぶ。
「私の連れが嫌だって言ったらごめんね」
「!! いいの!!」
「あの、できれば良くないのかもしれないんだけど」
お人好しというか、情に飢えている優を拒むことはできなかった。
「やった!! 大雅さんと定さんに言ってくるわね」
「え…。ちょっと!!」
行動の速さに、凛が唖然としてしまう。しかし、優にもいい効果が生まれるかもしれないと思い直す。
ー私だったら、同じことを言うかもしれないし。
温泉でのんびりしてきたほうがいいかもしれない。なるべく明るく考え、荷物をまとめるのだった。




