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【19】

きのこ事件のことは、大雅が睨んだ通り、あっという間に広がり、李家は対応におわれているらしかった。

ーでも自分のしたことだものね。

もう冷めた目で見ることにし、終わった話だと割りきる。それよりも、うちを出て行った優のことが心配になる。

ー会いに行ってみようかな。

住所は出派所の役人のところで見たので、凛は大雅の許可を受けてから向かったのだった。しかしどんどんと道は狭くなっていく。裏の世界にいるような、そんな感じを受け、体を抱きしめる。どうも暗い感じがして好きになれなかった。

ー優はここに住んでいるの?

赤子の泣き声がしたら、すぐさま皆に攻撃されそうな距離に家と家が繋がっているのだった。凛はぞわぞわする肌を襦裙ごしに撫でると、優の家を探そうときょろきょろする。すると、

「ねえ、聞いた?」

住人の声が聞こえたので、ほっとし、近づこうとしたのだが、次の言葉に悲鳴をあげそうになる。

「赤子が死んだんでしょ? しかも旦那も亡くなったって」

とっさに優のことだと思い、家の影に隠れる。ここは大人しく聞いたほうがいいと判断したのだった。

「赤ちゃん、うつ伏せ状態で死んだんでしょ? よくあることらしいけど…。さすがにね、旦那まで死んだっていうと、ちょっと…」

「そうそう。酒癖の悪い旦那だったものね。よく怒鳴り声が聞こえてきたりしたもの。静かになって良かったわ」

「赤ちゃんの泣き声もしなくなったしね。あたしも経験あるけど、近所の人達から攻撃されてきつかったのよね。赤子の声がうるさいって。仕方ないことなのに、一生懸命、皆に謝ってさ。全く、寛容な心の持ち主はいないのかしら」

「あたし達がいたじゃない。あんたのこと、随分と庇ったのよ?」

「ありがと。…って、礼を言っても、何もないけどね」

「それはそうだ。皆、貧乏なんだから」

あははと笑う奥さま方に対し、凛は蒼白になる。

ー美明ちゃんが…。美明ちゃんが死んだ? 嘘でしょう!!

あんなに可愛い子がどうして…と、声にならない。何が一体、どうなったのか、凛は優に聞きたくて、奥さま方に声をかける。

「あの…!!」

「…おや、見ない顔だね? 一体、誰なんだい?」

「その…高優の友達なんですけど」

「ああ、なるほど。それで何?」

「あの、優のうちは…?」

恐る恐る聞いてみると、一軒のぼろ屋を指さす。

「あそこだよ。でも…今、いないよ。というか、最近、いないんだけど」

「え…? あの、何で…?」

「さあ? 旦那がいなくなったから、働いているとか? あの人、暗いからよく分からないのよね」

「そ、そうですか…。ありがとうございます」 

「どういたしまして」

返事をしつつ、値踏みするように見てくるので、気味が悪い。すぐさま離れると、優の家へと向かう。窓は割れているし、入口の戸も傾いているし、人が住んでいるとは思えない酷さだった。

「ここに、優が…。ーちょっと失礼します」

一声かけてから、戸を何とか開ける。中はしんとしており、冷たい雰囲気だった。唯一、帯紐があるぐらいで、とても子どもが育つような環境ではなかった。

ー美明ちゃん、死んだって本当に?

可愛いらしい顔を思い出し、胸の前で手をぎゅっと握る。その時、優は何をしていたんだと心配になってくる。

ーしかも家をあけているって…。

確かに働かないと食べていけないのだが、今、何をしているのかと焦り出す。まさか身売りしているわけじゃ…と一瞬、考えたが、まさかと打ち消す。

ー女1人が食べていくのは、大変なのに…!! 優、どこに行ったのよ!!

触れるものは全て冷たく感じ、今の優の心がそうなのではないかと推測する。ここには用がないと思い、凛は外へ出る。まだ奥様がたは話し中だったが、優の話題ではないので、聞き逃そうとしたそうとしたその時

「あ、すみません」

向こうから来た人間とぶつかり、小さく謝る。しかし相手が謝ってこないので、眉根を寄せると、とげとげしい声がとんでくる。

「ちょっと、邪魔よ。どいて」

「…。すみません」

ぼうっとしていたのは確かだが、再び謝ったのに、相手ー女はふんと鼻を鳴らしてきた。

ーこの人は礼儀作法を知らないのかしら?

腹を立てつつ、ようやく相手の女の顔を見ると、凛が「あ」と口にする。どこかで見た顔だと、一生懸命、思い出そうとする。

「何よ? あたしをじろじろ見て。気持ち悪い」

「…。分かった!!」

つんと澄ました女に対し、凛は大声をあげる。どうりで見たことがあると思ったと、ようやく納得する。

「温泉にいた…!! あの女の人だ!!」

「…やば」

本能的にまずいと思ったのか、女は踵を返し、走り出す。逃がしてたまるかと、凛も追いかけたのだが、女のほうが土地勘があるらしく、すいすいと逃げて行ってしまう。結局、走る体力を使うだけ無駄だった。

ー悔しい!! 逃した!!

何か知っているはずだと、凛の勘が告げている。しかし相手はもういない。優を待つという手もあるが、ここは薄気味悪くて長居したくなかった。

ーどうなっているの…?

天に問おうと空を見上げると、ぽつりと小さな粒を感じた。雨になりそうだと思い、今日はここまでにしようと切り上げたのだった。




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