【16】
「ーどうもありがとうございました」
情報交換が終わり、客の3人が席を立つ。凛も大分、落ち着いてきて、3人を見送ろうと立ち上がる。
「ああ、いいです。そのままで。な?」
李を先頭に、他の2人が答える。
「そうそう。疲れているんだから、座っていて」
「そうだぞ。今はゆっくり休みなさい」
口々に言われ、凛はこくりとうなずく。
「それじゃあ、大雅さん、また。ー凛ちゃんもね」
李がなぜか凛の手を握ってきたので、凛は少し首を傾げる。
「あの…?」
「いや、綺麗になったなと思って。すべすべしている」
両手で包み込まれ、どうしよかと困っていると、大雅が目を光らせる。
「こら。凛から手を離しなさい」
「はいはい。でも少しぐらいなら…。若い子に触れる機会なんてそうあるわけでもないし」
「駄目なものは駄目」
大雅が無理に引き離し、凛は大雅の影に隠れる。李が「ち」と小さく舌打ちしたが、凛くらいにしか聞こえなかったらしい。
「じゃあね!、 また来ます」
涼やかな空の下、3人は手を挙げて行ってしまった。触れられたことは別に気持ち悪くないが、なぜか気になってしまう。それを素早く大雅が見、言葉をかけてくる。
「お前も気をつけなさい。男はけだものと思ったほうがいい」
「男はけだもの…」
呟いたはいいが、どう返していいのか分からずにいると、大雅が優しく肩を抱いてくる。
「さあ、中で何か食べようか」
「うん!! そうだね」
家族がいる安心感に、凛は甘えたくなった。大雅の腕に手を回すと、彼は穏やかに笑ってくる。
「さて、行こうか」
大雅にくっついて、凛は奥へと入って行ったのだった。
それから日々は過ぎ、日差しが弱く優しくなった頃。
凛のうちの小さな庭で、凛と優と美明が日向ぼっこしていた。美明は先程、母乳をもらったお陰か、ぐっすり眠っている。
「…これからどうするの?」
凛は思いきって聞いてみる。慎二のことは音沙汰がなかった。役人が言っていた通り、自殺で処理されたのだろう。優は美明を抱き直すと、「うーん」とのどかに返してくる。
「そろそろうちに帰ろうかな。もう危険な目には遭わないのだし」
「それって…実家に帰るってこと?」
それを言った途端、優の顔にかげりができる。まずいことを聞いたと思い、凛は焦り出す。その姿を見、優は柔らかに笑う。
「とりあえず、うちに帰るね。…美明も危ない目には遭わなくて済むようになったし
「…そう。淋しくなるね」
美明の泣き声には慣れてしまったので、いなくなると悲しいなと思う。しかし、いつかは別れなくてはいけないのだから、穏やかな日々が続いている今日か明日あたりが良さそうだった。
「本当に凛には、その、迷惑をかけて」
「いいのよ。優の顔色も良くなったし」
2人は見つめ合うと、くすりと笑う。人間、泣くよりも笑顔が1番だと思い、庭を見つめる。定の趣味で花が植えられており、風が吹くと揺れて良い香りがした。池には金魚がおり、優雅に泳いでいく。餌やりは大雅の仕事だった。
「よし、じゃあ荷物でもまとめる?」
「そうね。美明が寝てるうちにしようか」
2人は立ち上がると、その場を後にしたのだった。




