【13】
派出所は小さなもので、1人待機していればいいような大きさだった。中には卓と椅子がある。
「中に入って」
役人に言われ、凛達は馬車を降りる。もう日は傾いており、3人を怪しく映し出す。
ー何でこうなるのよ?
凛は不公平だと思い、頬を膨らませる。しかし歯向かったら、変な方向にいきそうになるので、やめておいた。
「えっと椅子は3つで…」
独り言のように言い、役人が椅子を並べ始める。それからびっくりするようなことを言ってくる。
「適当に過ごしてくれる? 今日1日。明日には帰すから」
「はい…? それはどういう」
「こういう小さなところにいるとね、色々面倒なのよ。ーま、ゆっくりやろうか」
役人も椅子に座り、名前と住所を聞いてくる。3人はそれぞれ答え、それから再度聞いてくる。
「本当に盗んでないんだね?」
「盗んでませんってば!! 信じてください!!」
「怪しい奴ほどそう言うんだよね…」
その言葉にかちんとき、凛は襦裙に触れる。
「何なら脱ぎましょうか?」
「いや、そこまではー」
「やめておけ。お前の価値が落ちる」
雅巳の言葉に、凛は手を止め、素直に従った。優も体を丸め、居心地悪そうにしている。
「とりあえず、名前と住所は分かったから、お茶でもいれようか?」
「は? あの…そんな悠長なことは…」
「時間はたっぷりある。仕事上、疑われた以上は1日ここにいてもらわないと」
「は、はあ…」
大雅の怒った顔を想像し、凛は身震いする。日帰りのはずが、とんでもないことになってしまった。
「美加さんに何とか連絡がとれればいいんだが…」
「雅巳さんも困るものね。ー全く、あの女達!!」
「しっ。凛、声が大きい」
優に注意され、慌てて口を押さえる。それから優がぽつりと言う。
「美明、大丈夫かな…?」
「心配よね? 母乳が必要だって、お母さんも言ってたし」
「うん。お腹空いて泣いていないか心配」
3人は誰かしらため息を吐く。本当の犯人が憎らしかった。
ー私が捕まえてやる!!
何で自分達が疑われなければならないのだと、心の中で文句を言う。しかし役人は呑気なもので、茶を3人に渡すと、ずずっと飲んだのだった。
「そういえば宿とかは…?」
「とっていません。日帰りのつもりだったので」
「そう。うーん、君達は無実のようなんだけどな」
「じやあー!!」
「駄目。疑われている以上、一緒にいてもらう」
「そんな…。時間がもったいない!!」
頬を膨らませる凛に、役人は知らん顔した。
「ま、ゆっくりやっていこうか」
またのんびりした声で言われ、調子が狂うなと思った凛だった。
ところが事が起きたのは、日付が変わる頃だった。凛達は冷たい中、椅子に座ったままだった。初めてのことに、
ーお父さん達、心配しているだろうな。
家族の顔を浮かべ、多分、探しているかもしれないなと思う。それは雅巳と優も同じで、凛は反省する。
ー温泉って、気楽に考えていた。
予定では美肌になって帰る予定だったのだが、今は疲労した状態であり、何しに来たのか分からなかった。役人はというと、大きな事件でもないからか、こっくりこっくり舟を漕いでいる。
ー職務怠慢だわ。
帰してくれればいいのにと思いつつ、凛は卓に肘をつき、おでこに手を当てる。すると、その時
「役人さん!! 役人さん!!」
駆け込んできたのは、30代くらいの男性で、顔が真っ白だった。外は暗く、月が主役として輝いており、銀色の光を浴びせているのだった。
「どうしたんだ?」
呑気な調子で答える役人に、男性がもどかしそうにする。さすがに凛達も何か大きな心配事が起きたのではないかと緊張する。
「死んでいる!! 死んでいるんだよ!!」
「…は? 何が」
「何がって…人間に決まっているだろう!!」
男性は一気に喋ると、じれているのか、足をだんだんと踏む。ようやく役人も大事だと気づいたのか、椅子から立ち上がる。
「誰が死んでいるんだ? しかもどこで?」
「温泉だよ、温泉!! 男の人で、歳はそうだな20代から30代くらいかな」
「ー分かった。今、行く」
役人が動こうとしたので、慌てて凛達も立ち上がる。
「どうしたんだ、お前達?」
「いや、あの、役人さんについて行こうと思って」
凛が代表で答えると、役人が怖い顔つきとなる。
「人が死んだんだぞ? 遊びじゃないんだ! 分かるな?」
「分かりますよ。でも役人さんがいない間に逃げたと思われるのも嫌ですし」
「…。それはそうだが…」
役人が腕を組み、天を仰ぐ。凛は雅巳にこっそりと告げる。
「ここで待つよりは、何が起きたのか知りたいわよね」
「…そうだな。人が死んだんだ。気になるに決まっているだろう?」
「あたし、嫌な予感がする」
優の言葉に、凛は首を傾げる。
「何? どうしたの?」
「何でもないんだけど…。見に行ったほうがいい気がする」
「よし、決まり!! 役人さん、ついていってもいい?」
「…。勝手にしろ」
役人が外へ出たので、凛達もついて行くことにした。




