表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/22

【1】

秋が深まった頃、風がひんやりしている。その風を受けて、池の水面が波立っていく。池は透明度が高く、橙色に染まった木々が映えているのだった。

「ーふう」

その池のほとりに、一人の少女が立っていた。名前は葉凛。雑貨屋の娘だった。今は遊んでいるのではなく、ダイエットのために散歩している最中だった。

ー日が短くなってきたな。

夕日の美しさに目を細める。近づいて水面を覗めば、自分の顔が映る。波紋がわずかに広が中、凛の顔は鏡に映したかのように、正確に反応するのだった。

そんな彼女の後ろから手が伸び、急にうなじに触れられる。

「ひゃ!!」

悲鳴に近い声が上がり、凛は体をびくつかせる。すると行為をした相手が面白そうにくっくと笑う。

「感じやすいんだな。いいものを見た」

そう言ったのは、1つ年上の青年ー玉雅巳だった。彼は長身で、目立つ存在だった。今も池の側を通る人達が、息をもらすほどで、整った顔をしている。夕日の橙色が、彼をさらに際立たせようと、光を与え続ける。

「…あのね」

凛は頬を膨らませ、雅巳に向き合う。彼は凛がダイエットしている時の護衛役みたいなものだった。それなのに、いたずらするなんて、と抗議する。

「いきなり触らないでよ。誰だってびっくりするでしよう?」

「そうか? 俺はそんなことにはならないけどな」

澄ました言い方に、凛はかちんとくる。しかし雅巳はどこ吹く風で話を変えてくる。

「髪の毛、早く戻るといいな」

「…」

髪に触れられ、凛はどきりとしながら、させたままにする。先日、とあることがあって、短くなってしまったのだった。母親の葉定に揃えてもらったのだが、やはり髪が長くないと、少年のように見えるのだった。

ー雅巳さんの言う通り、早く伸びないかしら。

2人で並んでいると、凸凹に見える。1人は美形で高貴な猫みたいで警戒心が強く、もう1人の凛はというと道でゆっくり歩く、どこにでもいる普通の猫のような感じだった。

ーでもこの人、自覚がないのよね。

自分がかなり目立つことに気づいていない雅巳だった。側にいるとどうしても比べられてしまうのは、仕方のないことだった。

ー夕日が脇役みたい。

そんな風に思うほど、夕日に照らされた雅巳は、無駄がない存在だった。

「行くぞ」

声をかけられ、凛は側に寄る。散歩の道順は、とある事件で変えていたのだが、元に戻ったのだった。

「ちょっと待って。歩くのが速いわよ」

足の長さの問題か、どうしても凛が遅れてしまう。この男、憎しと思いつつ、少し小走りで近づく。

「普通だ、普通。せっかく美加さんに少し早めにあがらせてもらっているのに、暗くなったら元も子もないだろう?」

美加の名前に、凛も急がなければと焦る。美香とは流美加といい、甘味処の女主人で、雅巳の雇い主でもあった。とても仲が良く、何でも相談できる美人の姉みたいなものだった。

ーそうね。せっかく美加さんが気を遣ってくれているんだから。

凛は文句を言うのをやめ、雅巳についていく。深まった秋は朝に霧が出て明るくなるのも遅く、逆に夕方は暗くなるのが早かった。息が凍るくらい冷たい風が吹いていく。

「急ごうか」

「ああ」

2人は応援する夕日を背に、その場を後にしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ