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第10話 再起の鐘、そして新たな光

 グラスベルの街を発って七日。

 舗装された街道の先に、王都レクスアリアの白い城壁が見えた。

 朝霧を割る鐘の音が響く。

 旅の終わりではなく、何かが始まる音に聞こえた。


 隣を歩くセリアが、深く息を吸う。

 「やっぱり、王都は空気が違うわね」

 「そうだな。……俺が最後に来たときは、追放される日だった」

 「その“無能”が、今じゃ国を動かすかもしれないって噂よ」


 セリアは口角を上げるが、その瞳は真剣だった。

 道の両側に広がる市場には、見覚えのある言葉が並んでいる。

 ――《努力は裏切らない》《努力の記録帳販売中》《努力教講話・毎週七曜》


 俺は立ち止まり、ため息をついた。

 「……まさか、努力が“信仰”になっちまうとはな」

 「あなたの名前、もう“努力の騎士レイン”って広まってるのよ。

  子供たちが剣の練習を“レイン流”って呼んでるくらい」


 冗談のように笑いながらも、胸の奥が重くなる。

 努力が広まるのは嬉しい。

 でも、それが「信仰」に変わるのは違う。

 誰かに崇められるために努力してるわけじゃない。


 「……これは、歪んでる」

 呟いたその瞬間、背後から声がした。


 「歪みを正すために、我らは動くのです」


 振り返ると、深紅の法衣をまとった男たちが立っていた。

 胸に金の紋章――“光秩序教団”。

 神々の法を守るため、各地を巡る聖職の集団だ。


 先頭の男が冷たい笑みを浮かべる。

 「無能と呼ばれた平民が、神の領域に踏み込んだ……面白い話ですな。

  だが、“努力の加護”などという異端は放置できません」


 「異端?」

 「神の祝福は選ばれし者だけが受けるもの。

  あなたのように凡俗に与えれば、世界の秩序が崩壊する」


 セリアが一歩前に出て剣の柄に手をかけた。

 「それでもこの人は、誰も傷つけていない!」

 「傷つけていない? あなたたちは知らぬでしょう、

  “努力の加護”を求めて命を落とした信徒たちのことを」


 言葉を失った。

 教団の男は続ける。

 「努力すれば報われる――そう信じて命を削った愚者たちがどれほどいたか。

  努力とは毒だ。凡人には理解できぬ毒」


 背中のあたりで、冷たい風が吹いた気がした。

 努力の光は、いつのまにか誰かの“呪い”にもなっていたのか。


 「レイン・フォルト」

 男が名を呼ぶ。

 「神々の命により、あなたを王都の大神殿へ召喚します。

  “努力の加護”について、正式に裁きを受けていただく」


 セリアが叫ぶ。

 「そんな勝手な――!」

 「拒めば、街を異端の地として封鎖します」


 その言葉に、俺は拳を握った。

 守るべきものが増えた分、戦いは複雑になる。

 でも、逃げるわけにはいかない。


 「……分かった。行こう」

 「レイン!」

 「俺が行けば街は守られる。

  努力の意味を、今度こそ“言葉”で伝えてやる」


 ◇◇◇


 王都の大神殿。

 白い石畳の上に、無数のステンドグラスが光を落としていた。

 正面には、巨大な天秤の紋章。

 その前に、見慣れた銀の光が立っていた。


 「リュミエル……!」

 「レイン。あなたが来ると思っていました」


 彼女の顔は穏やかだったが、どこか悲しげでもある。

 「教団は“努力の加護”を神の秩序違反として断罪するつもりです。

  でも、彼らの背後にいるのは――」


 言葉の先を、教団長の声が遮った。

 「“神界上層”そのものだよ、女神リュミエル」


 祭壇の奥から、白銀の鎧をまとった影が歩み出る。

 ルシエル。

 あの夜の、黒翼の神が再び姿を現した。


 「再び会うとはな、人間」

 「お前……まだ懲りないのか」

 「むしろ感謝している。お前の“努力”は、我らに新しい武器を与えた」


 ルシエルの手が光を放つ。

 空間に無数の光球が浮かび、祈るような形で整列する。

 「これが新たな神罰。“努力の炎”だ。

  人々の努力を燃料にして、神の力を増幅させる」


 ――人々の努力が、神の武器に?

 胸が冷たくなる。

 努力が、また利用されるのか。


 リュミエルが俺の前に立ちはだかった。

 「やめて、ルシエル。それでは人々の心が壊れる!」

 「心など、秩序を保つための部品にすぎぬ」


 「レイン!」

 リュミエルが振り向き、俺の手を掴む。

 「お願い。努力の本当の意味を、この世界にもう一度示して!」


 俺は頷き、剣を抜いた。

 「努力は、誰かの犠牲の上にあるもんじゃない。

  生きて、悩んで、それでも前に進む“選択”なんだ!」


 天を裂く光が落ちる。

 ルシエルの炎が広がる。

 その中で、リュミエルが俺に最後の力を送った。


 〈努力補正:Lv6〉

 《他者の努力を守るため、自らの努力を燃やす》


 炎が包む。

 視界のすべてが白く染まる。

 光の中、誰かの声が聞こえた。

 ――レイン、努力は終わらない。


 次の瞬間、世界が弾けた。


✨次回予告

第11話「努力の炎、王都決戦」

神と人間の努力がぶつかり合う、王都決戦編開幕。

“努力とは何か”――その答えが、いま試される。

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