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隣の席になった転校生の子が可愛すぎて困る

紅城べにしろあかりです。今日からよろしくお願いします」


教壇の前でぺこりと頭を下げた少女に俺は目を奪われていた。

茶を帯びたストレートロングの髪が空いている窓から吹き付けてきた風にふわりと揺れる。

意図的なのか無意識なのか、彼女は口角を上げて笑った。上品で穏やかな笑顔に俺は目を奪われた。

なんて美しい子なのだろうと思った。胸はやや控えめだがくびれがすごい。足も長い。

美少女という言葉は彼女のためにあるのだろうと思わせるほど綺麗な子だ。


「紅城は結城ゆうきれんの隣だ」


名前を告げられ、俺は目を見開いた。確かに俺の隣の席の子は転校していったから空いている。

だから俺の隣に座るのは必然なわけだが、あんなに綺麗な子が俺の隣に座るのかと思うと心臓が飛び出しそうになる。落ち着け、俺。

高鳴る心臓がうるさい。

どうにか落ち着けさせながら手を挙げると優雅な足取りで紅城さんは近づいてきた。

椅子を引いて背筋を伸ばして綺麗な姿勢で椅子に腰かけた。

動作があまりにも洗練されていて、言葉が出ない。

きっと彼女は育ちがいいのだろう。

俺のような一般家庭に生まれた男とは何もかもが違うのだ。

そんな先入観を抱きそうになりながら隣を見ると、彼女がニコッと微笑んだ。

やばい、可愛すぎる。それが俺に対する愛想笑いとわかっていてもやっぱり嬉しい。

なんだか甘い香りがするし……


「よろしくお願いしますね。えっと結城くんって呼んでもいいですか?」

「あ、うん!なんでもいいよ!好きなように呼んで」


俺は相当に慌てていたのか早口で答えてしまった。

どうしよう緊張しているのが丸わかりだ。

こんなに可愛い子といきなり隣になれたんだから当然だけど。

紅城さんが転校してくる前に隣の席に座っていたのは特に仲がいいとは言えない子で会話もそこまでした記憶がなかったから、紅城さんに話しかけられてすごく動揺してしまう。

それから俺は授業中も緊張しっぱなしでロクに授業内容が頭に入ってこなかった。

授業は終わって次の授業が始まるまでの短い休み時間。

移動教室ではないからこのままで大丈夫ということもあってか、男子も女子も転校生の紅城さんに夢中なのか一斉に向かってきたので、俺は席を離れてトイレへと向かう。

トイレでひとり手を洗いながら俺はどうすれば他の男子から嫉妬されずに過ごせるかを考えたが、結局のところ答えはでなかった。

席につく。授業を受ける。これを繰り返してようやく昼食時間になった。

母さんが作ってくれた弁当を取り出して食べようとすると、紅城さんも赤い包みを取り出して机の上に広げると小さなお弁当箱が出てきた。二段重ねで箸まで赤色だ。

って、ちょっと待て。


「紅城さん、ここで食べるつもりなの?」


俺の問いに彼女は細い眉を八の字にして悲しそうな顔をした。

目が潤んで少し厚みのある唇が震えている。


「えっと……結城くん、ご迷惑でしたか……?」

「いや、俺は大丈夫だから!遠慮せずに食べて!」

「ありがとうございます。結城くんは優しいですね」

「別に優しくはないよ……」


褒められるのが恥ずかしかったので照れ隠しをしようとすると彼女は可愛らしくコテンと小首を傾げて。


「そうなのですか?」

「ええっと、紅城さんから見て優しく見えるんなら俺は優しい人間だと思う。そうだよ、そうに違いない。ありがとう、紅城さん」

「ふふっ。結城くんって面白いですね」


正直、どこが彼女の笑いのツボを刺激したのか面白いのかもわからない。

ただ、彼女の美しい笑顔が見れただけで幸せな気持ちになるのだけはよくわかった。

弁当を食べ進めていると、視線を感じる。

紅城さんが俺の弁当箱を覗き込んでいるのだ。


「えっと……どうしたの?」

「あの、もしよろしければ私のだし巻き玉子と結城くんのエビフライを交換しませんか?」


紅城さんは箸を反対にしてからでだし巻き玉子を摘みながら提案してくる。

俺は恋愛経験は皆無だが、ここで断ったら心象を悪くすることは明らかだったので承諾した。

確かにエビフライはうまい。だが背に腹は代えられない。

「ありがとうございます」

穏やかに笑ってだし巻き玉子を俺の弁当箱に移動させ、自分はエビフライを持っていく。


「ん~!!やっぱりエビフライってとっても美味しいです!!」


よほど好きなのだろうかこれまでの清楚な印象とは違ってだいぶ興奮した様子で頬に手を当ててパクパクとエビフライを食べ進めていく紅城さん。

このとき、俺は心底エビフライになりたいと思った。

いや、この際エビフライになれなくてもいいから母さんに頼んでこれからはエビフライを増やしてもらおう。そうすれば紅城さんにわけても問題ないわけだし。

紅城さんが動く度にそれに合わせて豊かな茶色の髪もふるふると揺れている。

可愛い。美人。もう俺は紅城さんしか見えない。

今、もしも視力検査を実施されたら俺の視力は0・1ぐらいだろう。

紅城さん以外のものが何も見えていないのだから。

ああ、恋というものがこれほど恐ろしいとは思わなかったが、紅城さんが相手ならば当然のことだ。

きっとライバルは男女全員、このクラス全員が彼女を狙ってくるだろう。

しかし俺は必ず彼女の恋を、愛を手に入れてみせる。

何に誓ったのかはわからないが誓いを立てて弁当を食べ終わった紅城さんに訊ねた。


「あかりさんって呼んでもいい?」

「えっと、私たちまだ知り合ったばかりですし、名前で呼ばれるのは、ちょっと……」


なんとも控えめな表現でありながら彼女は至極当然のことを言った。

ですよね。

どうやら俺の恋が実るのはまだまだ先、ひょっとすると永久にも近い道のりなのかもしれない。


おしまい。

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