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技術課

管理人の日常

「ハイ。コチラ、ギジュツカデス。ゴヨウケンヲドウゾ。」


幅1m、高さ2m程度の無機質な金属製のドアが、いかにもな機械音で喋りかけた。


「こんにちは。通行管理課のラメキです。鎮火剤の受け取りにきました。」


2人が訪れたのは異界門技術課。その名の通り、異界門の管理における技術的なフォローと必要機材の開発等を担っている。


「ハイハイ。ツウカンのラメキサマデスネ。…ハイ、タシカニ、ウケタマワッテオリマス。ナカニドウゾ。」


"通管"とは、通行管理課の通称である。職員内では一般化している呼び名ではあるが、コテコテの機械音受付が通称を使用しているというのはいささか違和感である。


ガチャリ、とロックが外れる音がして…


ゴゴゴゴと地鳴りのような音と共に扉横の壁が横にずれた。


「相変わらず、そっちかーい、てツッコミたくなるところが開くよね…。」

「わかるー。初めて見た時ツッコミ入れちゃったもん私。」


呟きながら2人が中に入ると、壁は何故か今度は下から上がってきて綺麗に元に戻った。


中はいかにもな研究施設で、廊下からは想像もつかないほど広い空間が広がっていた。

中央には何らかの液体が入った大きな管のようなものが高い天井上まで伸びており、時折コポコポと気泡が立ち上っている。


「…おや、ギカも来たのか。」


中央奥に座っていた長身長髪の美人がこちらを振り向いた。ゆるい三つ編みにされた黒に近い赤い髪が床まで垂れている。首元まできっちりと詰まった髪色に似た深い赤のロングドレスに、白衣を羽織っていた。


「あのポンコツがろくに計算もできないから直接きたんですよう!」


ビッと、さっき入ってきた壁の方を指差すと、ギカはぷんすかと声を荒げた。


「計算…?ああ、なるほど…。」


指差された壁の方を見つめ、ドレスと同じ色に深い赤に塗られた爪先で自身の顎を撫でる。ぼんやりと考え込む仕草はまさに妖艶という表現が相応しい。


「…ま、それはあとでね。えーと…イグニフラマ種用の鎮火剤だったっけ。」


視線を手元に戻し、デバイスに何かを入力すると、近くの台の底が開き、下から薬瓶とスプレー、櫛のようなものが現れた。


「はい、これ説明書。彼の髪はマグマみたいなもので、流動性が高いからいつも通りしっかりなじませてね。防火コートに穴開くと大変だから…。」


説明書と薬瓶一式を受け取ると、ラメキははーいと頷いた。ちなみに説明書は紙ではなく、金属のプレートのようなものに絵付きの文字が掘られているようであった。


「あの方よく来られるみたいですけど、何かの関係者とかなんですか?」

「ああ…なんかそちらの世界の王族みたいだよ。こっちの世界が気に入っちゃったみたいで良く来るんだ…。まあこちらも色々と貴重素材の提供を受けてるしウィンウィンてやつかな。」

「へー。あいつ王子だったのかあ。」


ボリボリと煎餅を齧りながら、ギカが納得した、といった声を上げた。


「"君の為に宮殿を建てよう"とか突然言い出すから何だこいつとか思ったわ…。」

「…ギカ、煎餅ばかり食べると喉に詰まるよ。」


美人が美しい所作でティーカップに紅茶…いやめちゃくちゃ緑だな、緑茶か?を注いでいる…

しかしその煎餅の袋はどこから出てきたんだ…

と、ラメキは思ったが、深く考えるのはやめ、自分にも差し出されたお茶を受け取ると、ありがとうございますと微笑んだ。


「ギカもてもてだねえ。」

「いや、大炎上してるおすすめの宮殿ってなんなのよ。パンフがただの火災現場なのよう。」

「わー、すごい燃えてるー。」


ギカが差し出したスマホの画面には、文字通り大炎上中の宮殿とおぼしき建築物が写っていた。


「なんかもうちょっと溶岩?とか、そんな感じなのかと思ってたら、ガチめの火災現場なんだねえ。」

「私も宮殿とか言われてちょっと期待しちゃってたよ…。てかどうゆう生活状況なのこれ。フワドせんせー何か知ってる?」


ティーカップを片手に2人の様子を眺めていたフワドは、ギカが差し出したスマホの画面をじっと見つめると、ゆっくりと瞬きをした。


「…これたぶん本当に燃えてるだけだと思うよ。」


え、と驚いた2人の方を向き、フワドは、ん?という顔をした。


「イグニフラマの体構成は火山に近いんだ。血液がまあ1200度くらいあるけど…体表面は実はそんなに熱くない。私が昔招待された宮殿は別に燃えてなかったし…燃えてるのは最近の流行りじゃない?」


説明を聞いた2人は無言のまま顔を見合わせた。


「えっ。何。これかっこいいから燃やしてんの?!」

「わー、斬新な流行だねえ。」

「あいついっつも燃えてんの自前じゃなかったの?!オシャレはいいから鎮火してこいっ!」

「あっ、ギカ、スマホ投げたらまた壊れるよ。」


ギャーギャーと騒ぐ2人を横目に、フワドはクスリと笑った。


「まあ我々が部屋の模様替えをしたり、髪や肌に色々と塗ったりするようなものなんじゃないかなあ。」

「一緒であってたまるかあっ!」


もーっ!と両腕を上げたギカの叫び声がフロア中に響き渡った。

イグニフラマ: とある異世界の種族。体構成がほぼ火山、血液や髪はマグマに近い。最近は炎を纏うことが流行しているようだ。

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