1nmは1mの10億分の1
管理人の日常
「はあっ?!1000倍で足りるわけないですようっ!100歩譲って1億倍化器持ってきてもらえないと…!」
呆れたような怒声が部屋に響き渡る。ここは異界門通行管理課。資料を片手に通話デバイスを握りしめているのは、不思議な色合いをした長い髪の少女だ。
パール色と表現すべきか、まるで人形の髪のような艶のある長い髪に、胸元に大きなリボンのついたフリルのシャツを着ている。
「…うんうん、そーです!最低1億です、可能なら10億くらいで!」
ピッとボタンを押して通話を切ると、どさっと椅子に座り込んだ。
「どしたん。1000とか億とか、何の話?」
奥からもうひとりの少女が声をかけた。肩までのブラウンの巻髪に、犬…?猫…?のような動物のピンをとめている。制服だと思われる、先ほどの少女と同じ大きなリボンとフリルのシャツ、チェックのスカートという装いだ。
両手に持ってきたコーヒーのひとつを座っている少女に手渡すと、自分の分を飲みながら、投げ出された書類に視線を落とす。通行希望者の身長欄には、約1nmと書かれていた。
「どうもこうもないですよう。1ナノサイズに1000倍化照射したって1マイクロですよ?んで希望観光場所が"そこらへんを散歩"ですよ??散歩という名の空中浮遊からの行方不明確定ですよっ!」
デスクの上には一生懸命計算したのであろうメモ書きと、粒子に関する書籍が積まれていた。
「ああ〜…。」
ヘアピンの少女は困ったように笑うと、座っている少女の頭をよしよしと撫でた。
「そっちはどう?そろそろお昼行けそうー?」
渡されたコーヒーを飲み、大きなため息をついたあと、気を持ち直した少女は顔をあげ、尋ねた。
「んー。私はあとは鎮火剤受け取りに行ったら終わりかなあ。なんかずっと燃えてる方来ちゃって…。」
「あー、エンジョウサンかな。髪も燃えてるからコートじゃ足りないんだっけ。」
ヘアピンの少女は、そんな名前だったかな?と一瞬首を傾げたが、触れないことにしたようだ。
どっちも大変だねえ、と2人して顔を見合わせへらっと笑った。
「さっきので伝わったか微妙だし、私も技術課行こうかな。」
「いいの?じゃあ終わったらご飯食べよ。」
「今日のスペシャル何かなあ。」
2人はデスクを離れ、扉へと向かった。