79:久しぶり。中性天然水。
ガチャリという音を立てて彼が入ってくる。
「お久しぶりです。」
「あら、マシューじゃない。」
「暇なので来ました。」
「暇なら仕事を手伝ってくれる?」
「構いませんよ。その代わり、何か雑談してください。」
「それくらいなら。」
ちなみに貴族ママの執務室は言ってしまえば校長室みたいなインテリアだ。
さすがに写真やトロフィーはないが。
中性天然水はソファーに座り、テーブルに置いてあった書類仕事をサクサクと進め始める。
「そういえばラズヴィーチャも国の雰囲気が変わったそうですね。」
「ええ。そうらしいわね。」
「前より明るく、華やかになったとか。」
「へぇ。それはよかったじゃない。」
「ええ。どこからともなく音楽の技術が急激に発達したとか。」
「音楽……それはまたいいじゃない。」
「他にも色んな制度が追加されたとか。父上も我が国にそれを導入しようと躍起になってますね。」
「どんな制度なの?」
「読み書きができるレベルの教育を基本無償で行う制度だとか。」
「それ、アリね。一気に街が華やかになるかもしれないわね。」
「ただ、問題もあります。」
「問題?」
「採算が取れないかもしれません。」
「国をよくするための投資よ。そういうのは。」
コーヒーいる?と貴族ママが立ち上がる。
「ええ。頂いておきましょう。」
貴族ママはコーヒー豆をすり潰し、潰したコーヒー豆をコットンフィルターでコーヒーを淹れる。
このコーヒーの淹れ方はプレアデスが教えてくれた方法。
ペーパードリップって言うらしいわね。
異世界ではこんな方法がわかっているのよね。
コットンを使ってコーヒーフィルターというものを作る。
コーヒー好きだもの。
速攻作らせたわ。
これはこれで奥深くて面白いわ。
最初はいろんな方法を使って実験したけど、私流の淹れ方ができたわね。
「それで、教育の話だったわね。それ、義務にすればいいじゃない。」
「義務?」
「ええ。義務にすれば年間で少しだけ、例えば500ディネロ(円と同価値)というのは?」
「500ディネロ……?」
「子どもは大量にいるのよ?その子供一人で年間500ディネロ。少しのお金でも大量にあればそれは大金になるわ。採算はこれで取れるはずよ?」
「なる……ほど!」
抽出したコーヒーを2つのカップに注ぎ、片方を中性天然水に渡す。
「ありがとうございます。ルーシャルさん。」
「気付けばさん付けね。」
「よく考えれば私の方が身分が高いでしたからね。」
「そういえばそうね。」
マシューはコーヒーを受け取り、口に含む。
「苦すぎず、それでいてコクがある……。すごくおいしいです。」
「でしょう?私がけっこう時間をかけて研究したもの。」
「コーヒーも淹れ方次第でこんなにも変わるんですね。」
気づけば二人の話はコーヒー談議に移り変わっていた。
コーヒー豆の種類や生産地、淹れ方や豆を挽くときの味の変わり方や注意点などの話を優雅に二人は愉しむ。
これこそ、貴族というものなのだろう。




