52:心の傷の正体、如何にして。
これほどしっかりした少女がどうしてこんなに壊れてしまうのか。俺はリーラにつきっきりで彼女の様子を事細かにメモを取った。
俺がこの国に入ってから1ヶ月ほどが経過し、すっかり日課となったメモを日記に書いていた。
メモはあくまでもメモ。情報は断片的だ。
それを分かりやすくまとめて日記にしている。
こうすれば必要な時に必要な情報が取れる。
「やはり問題はない。それどころか適度な距離を全員がとっている。ただ、問題があるとすれば。」
その距離感は大人に対してのものであるということか。
子どもに対してのものではない。
子供にはもっと近く接しなければならないのに。
それに身内に対しての距離感とも違う。
あくまでも他人だ。
「……そうか。そういうことだったのか……!」
そっけないんだ。大人にとっては何ともない他人に対しての距離感は感受性豊かな子どもには恐怖の対象にすり替わってしまう。
だからじわじわと追いつめられる。
それを抱え込みすぎて壊れる。
「逃げる道が残されているのであれば話は違うんだがな。」
……まて。逃げる道はあるじゃないか。唯一。
俺という逃げ道が。
俺が彼女を支えるしかない。
ただ、それがどう転ぶのかは賭けに出るしかないか。
「依存か、程よく支え合うか、はたまた別に転がるか……悩みどころだな。」
俺のしなければいけないのはリーラの自立の手助け。
「まずは接するべき距離を教えない……と?」
まて。何かおかしい。
なんでリーラにだけ距離感が大人なんだ?
リーラには姉や兄貴がいるはずだろう?
彼らが同じ年代の時のように気軽に接せばいいじゃないか。
それがなぜできない?
「………何かきな臭いな。」
何か力がこの国に働いている可能性がある。
………考えすぎか?
だが、本当に可能性の一つとして一応まとめてはおこう。
あの距離感が悪化するようならほぼ決まりだ。
……それとあの賊。
彼らも引っかかる。
彼らは一体どうやってクルマを手に入れたんだ?
この世界での車は1台が500万円ほど。
そんなものを複数台も所有なんてできるのか?
裏に何かが居るのか、賊の規模がデカいのか、奪っているものの価値が高いのか。
どれかは分からない。
だが、調べる価値は十分にある。
次の日から俺は朝の白湯と自動車訓練以外は席を外すことにした。
その間、この国の歴史が記された書物を片っ端から調べてみる。
「……嘘だろ。」
そこに記されていたのはこの国はつい5年前に産業革命が起こったという事実だった。
つまり6年前にはまだまともな機械すらなかったのだ。
それならばなぜいきなりこのレベルのものが作れるんだ?
………なにかが絡んでるのか?
どうやら想像以上に状況は複雑らしい。
となれば賊を討つだけでは終わらないのか。
そもそも。
「俺一人で何とかできる問題ではない………か。」
まずは今自分にできることを、だ。
そうして俺は、5年間彼女の執事であり続けた。




